地方自治制度演習     自治体経営とは何か(1)

 〜自治体経営論再考〜

                                              

公共経営研究科 山本 誠一

 

1 はじめに

 

 今年、4月に地方分権改革推進委員会が発足して、さらなる地方分権の道を歩み始めた。地方分権改革の進展には、自治体が自主・自律的に存立しうる基盤がなければならない。その基盤の中でも自治体のあり方が一番重要となって来る。すなわち、これまでのように法令等の手続き遵守中心主義の行政管理でよいのか。自治体は何のためにあるのかそのレゾンデートルが問われている。その自治体のあり方の一つとして自治体も企業経営と同様に「行政管理」から「経営」へといわれて久しい。今や「自治体経営」ということばも人口に膾炙しているといっても過言ではない。しかし、「自治体経営」は単なるメタファーなのか実態を表しているのか。その使われ方が論者によって様々である。また、自治体経営がNPM(New Public Management)等の経営手法を含意するものとして使用されることもあるが、その定義も定かではなく、内容も論者によってまちまちである。その底流にはそもそも自治体に「経営」という概念が馴染むのかという疑問や馴染むとしてもそれでは自治体における「経営」とは何かという疑問等々自治体における「経営」概念の捉え方、さらには公私の役割分担の考え方に差異があるのではないかと考えている。自治体において「経営」という言葉が馴染むかどうかは別として、いずれにしてもこれからの地方分権改革進展の鍵となるのではなかろうか。

そこで自治体に関する経営論の系譜と背景、自治体とNPMとの関係、自治体経営と企業経営との比較論等を探りながら、自治体経営と地方分権、自治体経営と新たな公共、自治体経営の課題や現代的意義、そして今後の方向性を探って行きたいと思う。(ただし、紙幅の関係上、自治体経営と企業経営との比較論以下については、次稿に譲ることとする。)

ところで本稿で扱う「自治体」とは、地方自治法にいう普通公共団体のうち、基礎的自治体である市区町村を考察の対象とする。

 

2 自治体における経営論の系譜について

 

 1  自治体経営論の起源及び戦前の自治体経営論

そもそも自治体、地方自治に関して「経営」という言葉が使われたのは、何時ころからだろうか。文献を遡ると古くは明治43年(1910年)内務省地方局編纂の「地方経営小鑑」に行き着いた。この文献は、経営といっても「人民の便利を主とせる町村役場の事務室」や「釜石鉄山と学校経営」といった地方の様々創意工夫の事例を内務省地方局が編集したものであり、本稿で扱う自治体を中心とした「経営」に関するものではない。しかし、注目すべきなのは、明治末期に内務省が既に「経営」という用語を使い始めていることである。また、大正11年(1922年)池田宏著の「都市経営論」は、タイトル通りに地方自治、都市経営の原典と実践の書と評されているもので、現代流の自治体経営とは異なるが、その後華々しく光を放ったまさに「都市経営論」の嚆矢となったものである。

2  戦後の自治体経営論の系譜

このように、地方自治、自治体関係においての「経営」という用語法は、戦前からあったのだが、本格的に使用され始めたのは、戦後地方自治法が制定され本格的な地方自治制度が整備され、しばらくした後の昭和30年(1955年)に発刊された磯村英一・小倉庫次共著の「都市経営」である。この中で著者は「『都市経営』という表題をえらんだのは『経営』という言葉の方が、都市住民の生活福祉をより民主的に能率的に、かつ効果的に実現しようという考え方が、たとえ制限された自治のわくの中であっても、かなり強く把握されると思うからである。」と述べ、都市行政における「能率的」「効果的」といった経済合理性を指向するものであった。さらに「市民にサーヴィスを提供するという点では、地方公共団体である都市が主体である場合も、私企業が主体である場合も違いはない」と述べており、「都市」=「地方公共団体」が主体となった、いわゆる「自治体経営論」の萌芽を見ることができる。

次は、昭和44年(1969年)遠藤文夫著の「市町村の経営」である。先の「都市経営論」から約14年後、時はまさに高度経済成長の絶頂期の急激な都市化現象、それは単に物理的な都市化現象だけではなく、「住民意識の中において、市町村の占める比重は次第に低下し、市町村の経営体としての能力ないし効率性への信頼が弱くなりつつある」という住民意識の変容という危機意識の中で焦燥感に駆られて論じたものと思われる。そこで遠藤は、「市町村経営論」について次のように説いている。「市町村がその与えられた資源を最も有効に活用して、住民に対する最大のサービスを生み出す方法論である」とし、「あえて『経営』と呼ぶゆえん」を「第一に市町村が単に国の出先機関というような行政の機関であるというような行政機関であることでなくて、生きた一つの自治体であるということを含意するものであり、第二に、その運営の方法論として、企業でも用いられている新時代の経営技法を最高度に活用すること、すなわち問題への接近のしかたの画期的な転換を意味するためである」と述べている。さらに遠藤によれば、市町村の経営は「計画→実施→調整・評価」のサイクルとして把握されるとし、さらに「住民と経営組織の一致した協力」が必要としている。この時点で、既に後のマネジメント・サイクルというNPM的発想を先取りしたうえで、都市という枠組みの中から、市町村という自治体の経営について論じている。

その後、少し時代が飛ぶが昭和58年(1983年)一瀬智司監修の「都市経営論序説」では、「都市経営とは、都市自治体を一つの経営体とみなし、市長を会社の社長になぞらえて、市民、地域住民に最小の費用負担と事業コストをもって最大の都市地域福祉効果を達成する目的を持つもの」と述べている。この点につき、昭和60年(1985年)の高寄昇三著の「現代都市経営論」では、「首長を社長になぞらえるのは間違っていないが、それはアメリカ式企業の社長であってオーナー社長とか日本式企業の実質的実権派の社長を指すのではない。いいかえれば事実上は首長が都市経営上の決定権をもっているにしても、制度上は地方自治法にもとづく限り市民が主権者であり、議会の承認の下に首長が政策決定を行うシステムになっている。」と述べ、さらに「都市経営は行政のなかに経営的精神をとり入れることであっても、行政そのものが企業へ変身していくことではな」く、「都市経営が企業経営と比して、外部経営的要素をかなり含んだ政策決定が都市経営の中核である」としている。これは、自治体の首長を単なる自治体の内部経営者としての「社長」になぞらえるだけではなく、住民やその他ステークホルダーを巻き込んだ市民参加型の経営も示唆している。

3  自治体経営論の類型

以上自治体経営に関する著作、特に戦後の自治体経営論を日本型NPM導入以前まで概観してきたが、「自治体経営」そのものを定義するものはなかった。そして「自治体経営」という概念でスバリ論じているものも少なく、紹介してきた文献のようにむしろ「都市経営」をキーワードとして論じているものの方が多かった。しかし、何れの著作でも大筋として共通するのは、「自治体」を一つの企業経営と同様に「経営主体」として有機的に捉えようとしていることである。ただし、「自治体」を「経営主体」として捉えるとしても、「自治体」を「都市」や「地域社会」の唯一の経営主体と考える、いわば一元論的な考えと「自治体」も「都市」や「地域社会」を構成し、経営の一翼を担う経営主体の一つに過ぎないと位置づける多元論的な考えがあるのではないかと考える。そして、一元論的考えは、一個の自治体内部の企業化・システム化に純化する傾向にあるのに対して、一方、多元論的考えは、「自治体」を中心としながらも「住民」など「地域社会」における他の活動主体の経営参加も視野に入れたものではないだろうか。さらに言えば、一元論的考えは、効率性等の経済的・経営的合理性を志向するのに対して、多元論的考えは、経済的・経営的合理性のみならず、住民参加等を含めた政治的合理性を志向するものであると考える。先の高寄の著作の「外部経営的要素をかなり含んだ政策決定が都市経営の中核である」とあるのはその一例である。また、自治体経営については、自治体の組織を中心とする内部的要素から構成される内部経営と住民やステークホルダー等自治体を取り巻く外部的要素から構成される外部経営とに分類できると考える。

以上のように「自治体経営」の概念、性質について、少し明らかになってきたが、この段階で定義づけるのは、多義的で難しく、このあと触れるNPM等との関係、そして企業経営との比較を待たなければならないと思う。

 

3 自治体経営とNPM

 

 1  NPMの定義

 これからの自治体経営を考えていく上で、不可欠なのがNPM(New Public Management)である。本稿では、このNPMを概観し、自治体経営との関係を考察していきたいと思う。

 そもそもNPMとは何か。いろいろな定義づけがあるようだが、ここでは一般的な定義として「民間における経営理念・手法等を行政に導入することにより、行政部門の効率化・活性化を図ることを目指し、行政実務をベースに形成された理論」としておく。これは1980年代イギリスのサッチャー政権、アメリカのレーガン政権下での財政赤字削減に向けて、単なる財政支出抑制にとどまらず、あらたな行政手法を用いて「小さな政府」を志向する中で出てきたものである。この後、イギリス、アメリカ、ニュージーランドはじめアングロサクソン系諸国を中心に広がった。そして、これらの考え方を1991年頃にNPM(New Public Management)と表現したのがイギリスの行政学者であるクリストファー・フッドであった。

 2 NPM理念の基本理念

それでは、NPM理論の基本理念は、何であろうか。論者によって多義的であるが、一般的に言われているのは、1)業績・評価による統制2)市場メカニズムの活用3)顧客主義への転換4)ヒエラルキーの簡素化の4点である。まず、1)業績・評価による統制とは、計画・目標設定(Plan)⇒実施(Do)⇒評価(Check)⇒改善(Action)のマネジメントサイクルにより目標の設定から行政評価・改善まで結びつけ、成果重視の行政へと転換していくことである。2)市場メカニズムの活用とは、民営化、エージェンー化、PFI等の活用により公的部門に市場原理を適用し、行政サービス供給主体の多様化を図り、より少ない負担でより多くのサービスの供給を図ることである。3)顧客主義への転換とは、行政サービスの提供や事業展開を図る基準を手続き重視の行政管理型から住民を顧客と捉えなおしてニーズにあったサービスを提供していく顧客志向へ転換していくことである。4)ヒエラルキーの簡素化とは、意思決定はできるだけ現場に近い職員が行うべきとの考えから組織のフラット化や現場への権限委譲等が図られている。そしてこの4つの基本理念の中でも重要な要素は先の1)及び2)であり、3)及び4)は1)及び2)の手段と理解されている。

 3 NPMの分類

既にNPM導入の国の中でもスウェーデン、ノルウェーではどちらかといえば行政組織内部の運営効率化にウエイトを置いた上記1)の業績・評価による統制型のNPM改革である。また、NPMを主導したイギリス、ニュージーランドは上記2)の市場メカニズムの活用型のNPM改革である。さらにオランダ、デンマークでは、住民参画・協働にウエイトを置いた市民参画型のNPM改革である。ドイツでは、オランダのティルブルク市の成功例をモデルとしたNPM(新制御モデル)改革から市民参画型の「市民自治体」へ模索中である。

 4 日本でのNPM導入状況 

ところで日本でのNPM導入は、遅れて1990年代半ばから橋本内閣以降の行政改革の流れの中で「小さな政府」「官から民へ」というスローガンの下に浸透し始めた。その中でも地方自治体での取り組みが早く、1995年北川三重県知事の下で導入された「事務事業評価システム」もこのNPM理論に基づいているといわれている。その後、国においても2001年6月の「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」いわゆる「骨太の方針2001」において政策プロセスの改革の一環として新しい行政手法たる「ニューパブリックマネジメント(NPM)」を取り上げ、国としては「官から民へ」を加速させ、また、業績・評価による統制も促進するとしている。

このように日本におけるNPM改革は、イギリスなどと異なって国よりも地方自治体が先鞭をつけてきた感があるが、現状ではどの程度普及しているのであろうか。例えば基本理念1)の業績・評価による統制による手法による行政評価の導入率を例にとってみる。

総務省調査の「地方公共団体における行政評価の取組状況」の市区町村について平成13年7月と平成18年10月を比較してみる。行政評価を「既に導入済」について平成13年が157団体で導入率が5%であるのに対して平成18年では596団体で導入率が32%と5年間で約27ポイントの増となっている。全市区町村の数からするとまだ1/3弱程度であるが当初5%にしか過ぎなかったことを考えれば、市区町村全体の導入率としては大変な伸びである。もっとも市区町村の内訳を見ると、政令指定都市は100%、中核市及び特例市が導入率90%であるのに対して、一般市区は、48%、町村16%と概して規模が小さくなるに従って導入率も下がっているのは今後の課題である。

<参考>総務省調査「地方公共団体における行政評価の取組状況」(市区町村分)

 

 

 

 

 

平成13年7月現在

 

都道府県

指定都市

市区町村

団体数

構成比

団体数

構成比

団体数

構成比

既に導入済み

37団体

79%

7団体

58%

150団体

5%

 

 

 

 

 

平成18年10月現在

 

都道府県

指定都市

市区町村

団体数

構成比

団体数

構成比

団体数

構成比

既に導入済み

45団体

96%

15団体

100%

596団体

32%

総務省ホームページより作成。

次に2)の市場メカニズムの活用による手法による外部委託の状況について見てみる。これも総務省調査の「市区町村における事務の外部委託の状況(平成15年4月1日現在)」をみると「本庁舎の清掃業務」86%「一般ごみ収集業務」が84%と一般事務における委託実施団体の比率は、概ね80%以上と高く、(区・町・村)民会館・公会堂の施設の運営における委託実施施設の比率も概ね80%以上と高くなっている。先の行政評価の導入率と同じく概して規模が大きい団体の実施比率が高くなっている傾向がある。

5  日本のNPM改革の課題

5.1 「自治体経営に関する調査」

以上のように市区町村においてNPM型の改革が徐々に進捗しているようにみえるが、実際はどうであろうか。ここに数字に表れない自治体職員の意識を調査した首都大学東京の大杉覚教授による「自治体経営に関する調査」を紹介する。この調査は、大杉教授が平成16年度に東京圏4市、中京圏1市の課長級職員を対象にアンケート形式で調査したものである。この調査の中で特に興味深いのは「コスト意識が高まっているか」という設問に対して、1市を除く4市の職員は概ね6割から8割が「高まっている」と回答しているが、「所属・担当課内での業務が以前に比べて効率的に遂行されているか」との設問に対しては、5割から6割にとどまり、「コスト意識の高まり」が必ずしも「効率的な業務遂行」に直接的に結びついていないことが窺われる。また、NPMの顧客志向との関連設問で「施策・事務事業のメニューが拡充しているか」との設問に対して約5割から7割と回答しているが、それにもかかわらず「住民満足度が向上しているか」との設問に対する回答は、約2割から4割にとどまっている。即断は禁物だが「施策・事務事業のメニューの拡充」が必ずしも「住民満足度の向上」に寄与していないことが窺われる。最後に「組織・職場が活性化しているか」との設問に対して約1割弱から3割と極めて低調であることが印象的である。この調査はわずか5市とサンプルが少なすぎるが、NPM導入自治体の一つの傾向を示しているものとしては参考になると思う。

 5.2 NPMの疑問点と課題

それでは、NPMが自治体の行政改革の手法としてある程度効果があるとしても先の調査のよう多少限界も見えてきているのではないだろうか。その限界というか疑問点について大きなものを二つ挙げておく(詳細は、次稿「4 自治体経営と企業経営」で触れる予定。)

まず、NPM基本概念の中の2)市場メカニズムの活用についてである。要は、公的サービス部門と民間サービス部門に類似性が見られるとしても市場メカニズムだけでは解決できない社会的公正・公平については手法の一つであるNPMは無力ではないかという疑問である。もちろん、NPM改革がすべての公的部門を市場メカニズムに委ねよといっているわけではないが、経済合理性重視の姿勢が勢い社会的公正・公平性の観点を等閑視する危険性を多分に孕んでいると考える。

次に3)顧客主義への転換についてである。従来の行政管理型から住民を顧客と捉えなおしていくに当たっては、公共部門と顧客たる住民の間のサービスの需要と供給という関係への転換に他ならないが、これをあまり強調しすぎると公共部門の政策形成機能や主権者・公共信託者たる住民の主体的役割を阻害することになりはしないかということである。従来の行政管理型行政が公共サービスの受給者たる住民をなおざりにした反省に基づいて顧客として捉えなおそうということであるが、住民は単なる顧客の立場だけではなく、住民自治の担い手でもあるから、極度の顧客主義は住民自治の意識を阻喪させる危険性を孕んでいると考える。

この点について参考になるのが、ドイツにおけるNSMから「市民自治体」という流れである。もともとドイツは日本と同様にNPM改革の導入に消極的であったが、極端な企業経営的な手法を嫌い、「適度にコントロールされた民営化と市場メカニズムの緩やかな導入を伴いつつ、成果主義などの行政機構改革に重点を置く」いわゆるNPMの変形版であるNSMを導入していたが、近年、行政サービス志向的な改革がもたらした「公の制度」に対する無関心と選挙への参加への減少、他方、各州における住民発議、住民請求等の直接民主主義的枠組みへの改正に伴い、「市民自治体」構想へ転換していくことになった。これは、NPMの限界を示唆するとともに本来の自治とは何かを示唆するものといえよう。すなはち、これからの自治体経営との関係で言えば、自治体の内部経営努力のツールとしてのNPMの各手法は、手続き重視の行政管理型行政から行政経営・自治体経営へのパラダイムシフトとなり大変参考となる。しかし、外部経営すなわち自治体組織外部環境を含めた経営を考えたとき、住民を単なる顧客と捉えなおすだけでは本来自治体に課された住民福祉の向上という企業経営理念だけでは捉えきれない本質的役割を見失ってしまう可能性があると考える。自治体がこれまでの反省の下に住民を「顧客」と捉えなおすのはよしとしても、今度は住民側にそれに依存するモラルハザードが起きる可能性があるのではなかろうか。先ほど紹介したドイツの例はそのことを示唆しており、自治体が企業経営的手法を取り入れつつも、他方、自治の原点に立ち返り住民参画をどのように再構成するかが今後の課題となってこよう。

 いずれにしてもNPMのメリットは認めるとしても、手法にこだわるすぎると自治の本質を見逃してしまうのではないだろうか。

 

4 まとめ

 

紙幅の関係上、自治体経営論の系譜から自治体とNPMとの関係についてまでしか触れることができなかったので、この時点で自治体経営とは何かについて結論めいたものを述べるのは控え、次稿へ譲ることとする。しかし、これまでで少なくともいえるのは、今日ほど自治体が財政難に見舞われていない昭和40年代の高度成長期にも既に自治体における「経営」という概念が芽生え議論されていたということである。そこでは減量経営や行政改革という意味合いよりも、まさに自治体のレゾンデートルを問う意味での「経営」が語られていたのである。先に引用した遠藤文夫(1969)の「市町村の経営」はそのことを示唆しているのではなかろうか。その後、時代背景は異なるが高度経済成長に陰りをみせた昭和50年代に入り、財政難に見舞われるとより減量経営、行政改革的延長線上の言葉として「経営」という言葉が使われてきている。一瀬智司(1983)の「都市経営論序説」はそのことを示唆しているのではなかろうか。そして、バブル崩壊後の平成に入り、NPM時代の到来である。以前にもまして自治体の財政難はより深刻化し、なりふり構っていられないほどである。NPMをはじめとして企業経営により親近性を持たざるを得なかったのである。

一方、自治体の経営論が、その存在意義に根ざすのか、減量経営・行政改革に根ざすのかは別として、自治体が単なる企業的な経営体ではなく、その構成員、あるいは主権者・信託者たる住民をどのように自治体が捉えなおしていくかということも同時に問われているのではないだろうか。すなはち、先に述べたNPMの課題や次稿で述べる予定の公私の役割分担の見直しを中心とした新たな公共とは何かといった課題は、自治体が企業経営との比較の中で経営体足り得るかといった単なる狭義の経営論に止まらず、自治体が住民をどのように捉えるのかというもともと地方自治に内在する原初的なテーマにその解決の鍵があると考える。

 

参考文献

「2 自治体における経営論の系譜について」

 ・内務省地方局(1910)、「地方経営小鑑」

・池田宏(1922)、「都市経営論」

・磯村英一・小倉庫次(1955)、「都市経営」

・遠藤文夫(1969)、「市町村の経営」

・一瀬智司監修(1983)、「都市経営論序説」

・高寄昇三(1985)、「現代都市経営論」

「3 自治体経営とNPM」

・大住荘四郎(1999)、「ニュー・パブリック・マネジメント:理念・ビジョン・戦略」

・大住荘四郎(2002)、「パブリック・マネジメント-戦略行政への理論と実践」

・総務省ホームページ「地方公共団体における行政評価の取組状況」及び「市区町村に

 おける事務の外部委託の状況」http://www.soumu.go.jp/iken/index.html

・大杉覚(2006)、「自治体職員の経営改革マインド―「自治体経営に関する調査」結果を踏まえて―」住民行政の窓18年2月号

・石川義憲(2007)及び片木淳(2007)、「ドイツ地方自治体における行政改革と市民参加・協働第1部KGStのNSMからコンツェルン都市、市民自治体まで(石川義憲)及び 第2部 都市州ブレーメンにおける財政再建と市民参加(片木淳)」)(財)自治体国際化協会ホームページ(http://www.clair.or.jp/j/forum/other/index.html)