保健行政における国、都道府県、市区町村の役割分担の現状と問題点

〜「健康日本21」を例とした考察〜

                   公共経営研究科2年制コース1年 筒井 絵美

 

1 はじめに

 近代の保健行政という文脈を語るとき、その始まりが富国強兵を目的とした戦争のための政策であったということを抜きにはできない。現在、保健行政を統括している厚生労働省の前身である厚生省は兵力の長期的確保を基本的目的とした「保健国策」を推進する機関として設置され、その設置趣旨は「国民保健に関する行政施策の向上をはかる」というものであった1)ここから言えることは、保健行政がその対象である住民のニーズからではなく供給する行政側のニーズで生まれたということである。それゆえ戦前の保健活動においては、行政からの視点で考えた、対象(住民)の目指すべき目標が設定されていた。しかし、戦争による国民生活全般の破綻により、それら一連の保健国策は結果的には失敗に終わった。 

そして、戦争政策に協力したという反省から戦後の保健行政は再構築されることとなった。日本国憲法が、近代の保健・医療の基盤を提示している。世界保健機構(WHO)憲章も、憲法同様に保健活動の基礎となる綱領的文書である。それらにおいては、平和と人権を達成するために不可欠な活動として、住民のすべてを対象とし、保健サービスの享受を基本的人権と位置づけている2)対象となる住民の具体的な課題に即した保健サービスを提供することが、その目的・理念とされ、活動は現代まで続いている。しかし、21世紀を迎えた現代の社会構造は急速に複雑化し、住民のニーズは多様化している。そのような情勢において、戦後の理念をそのまま踏襲した保健行政システムで対応できるのかという疑問を抱かざるを得ない。

本稿では、現在の保健行政システムの構造を再認識するために、日本における公的機関(国、地方自治体)の役割分担の現状を整理する。そのための具体的事例として「21世紀の国民健康づくり運動(健康日本21)」を取り上げる。最終的には、現状から生じている問題点と、それに対する解決策を提示し、保健行政の在り方を模索する一資料としたい。

 

2 「健康日本21」について

健康増進対策の新たな計画として平成12年度から「21世紀の国民健康づくり運動」(健康日本21)が開始された。基本理念は「すべての国民が健康で明るく元気に生活できる社会の実現」である。壮年死亡の減少、健康寿命の延長、個人の自己選択による健康の実現、その支援の環境づくりという国全体の健康づくりを総合的に推進している3)

 

3 「地方公共団体」「地方自治体」という用語について

 広辞苑によれば、「地方公共団体とは、国の領土の一部区域とその住民に対して支配権を有する地域的統治団体」とされており、「地方自治体」とは同義語として扱われている。また、憲法においては、「地方政治を担う機関=地方公共団体」としているため、国の省庁が公的に発表する文書やコメント等においては「地方公共団体」を使用している。その例として総務省が運営する地方自治について解説したホームページ上では、「住民に身近な地方公共団体が・・」といった書き方をしている。厳密に言えば、普通地方公共団体と特別地方公共団体を包括する広義の用語であり、また地方自治の観点が欠けた用語という指摘がなされることもある。本稿においては国等の公的文書からの引用については「地方公共団体」とそのまま記載するが、それ以外の部分では「地方自治体」を使用し、どちらも都道府県、市区町村を指す用語として扱う。

 

4 健康日本21における各パブリックセクターの役割と具体的な活動例

 平成12331日付けの厚生省事務次官通知等で、「21世紀の国民健康づくり運動(健康日本21)が開始された。そこには国の役割として、「厚生省においては、国、地方公共団体、各種健康関連団体等からなる運動推進のための全国会議を組織するほか、省内に『健康日本21』推進本部(本部長・事務次官)」を設置し、地域保健事業、老人保健事業及び医療保険者による保健事業等の連携等といった健康づくりのための事業の一体的かつ効果的な実施に資するための環境整備等を図り、運動を総合的に推進していくこと」というように明記されている。

 また、平成131129日に政府・与党社会保障改革協議会において、「医療制度改革大綱」が策定され、その中で「健康寿命の延伸・生活の質の向上を実現するため、健康づくりや疾病予防を積極的に推進する。そのため、早急に法的基盤を含め環境整備を進める。」との指摘がなされた。これを受けて政府としては、「健康日本21」を中核とする国民の健康づくり・疾病予防をさらに積極的に推進するため、医療制度改革の一環として平成1431日第154回通常国会に健康増進法案を提出し、621日に衆議院、726日に参議院で可決され、成立に至り、82日公布された。その第1章総則第3条に、国及び地方自治体の責務が明示されている。地方自治体の役割については、第5条に関係者(国や他の健康関連団体)との連携・協力を図ることとされている。また、厚生省保健医療局が専門家等と協力して作成した「実践の手引き」には、地方自治体が地方計画を策定し、推進していくための指針となるよう、その具体的手法などが書かれている。

 「健康日本21」についての概要、目的、総論、各論等(いわゆる活動指針)については、厚生労働省ではなく、財団法人健康・体力づくり事業財団のホームページに掲載されており、地方自治体の果たすべき役割や具体的な計画策定について言及している。この財団は厚生労働省から、健康づくり啓発事業委託費として、平成16年度には206,789,000円の補助を受けている。

 このように、法律や通知文等において「健康日本21」における公的機関として、国及び地方自治体の役割が定義されている。以下、それぞれの役割について整理していく。

4−1:国の役割

国は全体的な基本計画を組み立てる中枢組織である。役割としては、@関連機関の調整、指導と情報の収集、解析を行なうこと、Aマスメディア等を通した普及・啓発活動を実施し、目標値の達成状況の追跡、結果の提供を行なうこと、B計画の妥当性についての中間・最終評価まで行なうこととされている。

その活動例として厚生労働省の事業を取り上げてみると、未成年者飲酒防止強調月間、世界禁煙デー、禁煙週間等の普及啓発活動の実施がある。また、「健康日本21」における目標値に対する暫定直近実績値等(177月)、今後の生活習慣病対策の推進について(中間)とりまとめ(179月)、健康日本21評価手法検討会報告(163月)といった調査・評価を実施している。

さらに基本計画の策定後、「健康増進法」が成立(148月公布)した。その目的・基本理念は「健康日本21」の内容をそのまま踏襲した形になっている。この法律は、厚生労働省の施策展開に対する法的根拠として位置付けられている。

 

4−2:都道府県の役割

都道府県は、施策推進のための具体的な計画立案、事業の実施主体を支援する中核組織である。役割としては、@国が示す方向性を勘案し都道府県レベルの健康の諸問題の調査、分析(保健所が中心的役割を担う)を行なうことA事業の実施主体の確定・マスメディア等を通した活動参加への呼びかけB事業の実施主体と共同した分野別の計画づくりC健康指標を把握する情報システムの確立D目標値の達成状況の評価、結果提供が主である。

以下、それらの活動例として東京都を取り上げる。

東京都では、平成13年度に「東京都健康推進プラン21」が策定された。その性格は「国の『健康日本21』を踏まえた地方計画であり、都民が主体的に取り組む健康づくり運動を総合的に推進するための指針としている。その概要は「都民の健康状態を包括的にとらえる総合目標として『健康寿命の延伸』『主観的健康感の向上』を設定し、達成すべき目標と達成状況の把握・評価のための個別目標の提示をすること。さらに、取り組みのポイントや関連データ、先駆的事例の紹介、健康づくり運動推進のための関係者の役割整理とある。 

国および市区町村との関係については、「都は、国と市区町村との間にある広域自治体として、『健康日本21』の地方計画でもあるプラン21を策定し、都における目標や健康づくり運動の推進策等を示し、区市町村等の計画策定、健康づくり関係者等の取り組みを支援するとともに関係者の連携の強化を図っていく」と明示している。 

 

4−3:市区町村の役割

市区町村は、健康日本21の実行計画を策定する、計画の実施主体という位置付けである。役割としては、@都道府県が策定する地域保健医療計画との整合性に配慮した計画策定、

A当該市町村を所管する保健所と連携を図りながら、住民に身近な健康関連機関と協力した情報提供活動や健康増進活動の支援を行なうこととされている。しかし、計画策定は任意であり、必ずしもすべての市区町村が計画を立てることは求められていない。

以下、例として東京都葛飾区を取り上げる。

葛飾区では、平成14年度に「健康かつしか21」が策定された。その性格は、地域の実情に応じた具体的な健康づくりの推進計画(地方計画)であり、既存の地域保健医療計画の中に包括する形で位置付けられている。その概要は「葛飾区保健医療計画(改訂版)平成1215年」を軸に「健康日本21」の各領域について検討し6つの主要課題を選定、それぞれの項目を設け具体的な実施計画を立案し、年度ごとに進捗状況の執行管理と事業効果の検証、確認、見直しを行なうこととしている。

 これらの現状を踏まえ、次項では問題点について述べていくこととする。

 

5 健康日本21が策定された社会背景〜地方分権法の改正〜

 20004月に地方分権法が改正された。その具体的な中身は、国と地方の役割分担、国の関与の縮小、地方の自主決定権の拡大である。国の役割は、@安全保障のように国際社会で国家として存立するために必要なもの、A全国一律の基準に基づいて実施することが望ましいもの、B全国的視野に立って立案することが必要な政策、となっている。

 「健康日本21」が策定されたのも2000年であり、同時期に地方分権法が改正されたことから、本計画の中にもそういった社会背景が反映されているのではないかと考えられる。

 

6 現状における考察

6−1:国の役割における問題点

戦後の日本の行政において、地方自治体の業務には国の下請け的な要素が強く、自治体財政のもととなる税源も主として国が握るなど、中央集権的な体質が残っていた。しかし、近年は中央集権、特に官僚主導型の行政システムが限界に達し、むしろ地方や民間の活力を生かさなければ、日本社会が行き詰ってしまう恐れが出てきた。分権化が社会全体に急速に浸透したのは、こういった背景があると考えられる。また、自治体財政の悪化により、国主導ではなく地方自治体が主体的に地域の実情に応じた政策を立案する方が効率的・効果的であるといった考え方も同様に広がりつつある。

「健康日本21」においては、具体的な数値目標を国が提示したということで当初はかなり注目された。その効果について、健康日本21評価手法検討会が平成153月に中間報告を出している。そこでは「評価は国、都道府県、市町村においてそれぞれ行なうが、このように重層的に評価を実施することにより、国民一人一人が健康の増進に努めるための支援活動の評価が可能」4とある。国(厚生労働省)には国民全体にこの活動が周知され、自己責任のもとで健康づくり活動を推進していこうという組織的なねらいがあったと考えられる。ところが、国民側に健康日本21の活動が隅々まで浸透したことを確認できる具体的成果は、ほとんど見られない。国の中間報告においても、目標値を達成した項目は少なく、「現在の推進方策を一層効果的なものとするよう見直すことが必要である」5)という見解が出されている。この計画は、なぜ効果が出なかったのだろうか。

健康についての関心といえば、「健康ブーム」と言われる現代社会において非常に高まっているように思われる。テレビや各マスメディアは大量の情報を流し、街には健康関連商品が氾濫している。スポーツクラブやヨガなどの運動関連の教室等も、ブームに遅れまいと、次々に作られている。しかし、それらの情報や商品は一般大衆という不特定多数の人々を対象としたものである。漠然と興味・関心を持たせる効果があったとしても、個人が自分の健康に対して真剣に考えるきっかけになるまでの説得力はない。国が実施している普及・啓発活動もそれらに類似した性質を持っていると言えよう。情報の提供が適切に行われていなかったために、国民側に自身の健康への関心と責任感を持つ準備が整っていないのである。対象者を特定し、課題を明確にした情報提供が行なわれなければ、その情報は対象者にとって有益な知識とは認識されない。そのような状況において、国民に対して自己責任論を持ち出すことは時期尚早であろう。

また、国の基本計画において具体的な数値目標を設定したことで、都道府県や市区町村が「目標値を達成すること」そのものを計画の目的としてしまった。それゆえ施策や事業が住民の課題や個別ニーズに応じたものではなく、行政側のニーズに沿った内容にならざるを得なかったことは、地方分権の観点から見て問題であると言える。

 

6−2:地方自治体の役割における問題点

 本来、自由にできるはずであった地方計画が、なぜ自由にできなかったのか。そこには過去から現在まで脈々と受け継がれてきた、「国家主導」という意識が地方自治体側にあったからではないだろうか。そのために、表面的には分権の動きがあったとしても、計画を立案する自治体職員の意識まで浸透していなかった。ゆえに、このような結果が生じたと考えられる。

 地方自治体は、住民に最も近い行政組織である。なぜなら、各地域の実情を把握し、住民からの意見を直接聞くことができるからだ。行政と住民との間に情報・知識の提供と対象からのフィードバックという相互補完関係が成立することから考えて、地方自治体が行動計画だけではなく(これまでは国の役割であった)基本計画から立てることが効率的・効果的である。自らが主体的に自治の精神を持って計画を立案するという意識が、保健行政に関わる地方自治体およびその職員に欠けているということが問題である。

これまで、国および地方自治体の役割分担の現状と問題点について述べてきた。こういった状況を打開するにはどのような方策が考えられるだろうか。次項において、近年主流となりつつある地方分権の考え方をもとに解決策としての一案を提示する。

 

 

 

7 地方主体の保健行政システム構築にむけて

7−1:地方自治体主導の計画立案

保健行政における健康づくり活動は、そのほとんどがサービス提供活動であると言える。そのため、感染症や災害時の危機管理とは全く趣が異なる。危機管理は国民の命、国の存亡に関わる問題であり、その対応には莫大な予算、高度な技術、専門的人材が不可欠である。つまり、個々人のニーズを反映させるというような性質の業務ではない。ゆえに、同じ保健行政とはいえ、危機管理と健康づくり活動等のサービス提供活動は別の次元で考える必要がある。国家的に見てリスクの高い感染症などの健康危機管理においては、国がその主導権を握って対応することは当然必要であり、変えてはならない役割である。

では、健康づくり活動に視点を移してみると、国と地方自治体の役割はどう見直すことができるだろうか。ここで、サービスを商品として考えてみたいと思う。経済学的観点から見ると、サービス(商品)は需要と供給の一致する部分においてそのサービスの価値が決まる。住民の主体的参加があり、住民のニーズを満たすものが提供されなければ、そのサービスの価値はないとみなされる。その結果として、住民にとっては費用対効果の低い政策(サービス)という評価になってしまう。

 では、地方公共団体が基本計画を立案することで、どのようなメリットが考えられるだろうか。第1は住民ニーズの具体化である。計画立案過程で住民との意見交換、アンケート調査などを実施することによって具体的なニーズ、課題を把握し、計画・施策に反映することができる。第2は効果的な普及・啓発活動ができるということである。これは第1のメリットにも類似するが、保健所や公民館など公共の場所を使用し、住民のニーズ・課題に即した内容の健康教育を実施すれば、住民が自らの健康を意識するきっかけとなる。第3は保健行政サービスの貨幣価値の創出である。本当に住民がサービスを必要としており、その価値を認めているならば、住民に対してサービス提供に係る費用の一部自己負担を求めることも可能である。行政と住民が共に負担を分け合うことで、サービスは行政と住民とが協働することで提供されるものだというコンセンサスを得られる。第4は競争原理による自治体サービスの多様化である。計画の自由化に伴い、ある自治体が若い世代向けの子育て支援サービスの提供システムを整えたとする。すると、そういったサービスを受けたいという希望者は転入してくる可能性が高くなる。一方で、別の自治体が壮年者向けの健康づくり活動支援サービスの提供を始めたとする。同様にそのサービスを受けたいという希望者が転入する可能性が高くなる。これらの場合、その対象となる世代以外でも、いずれそのサービスを使うことになる世代(潜在的ニーズのある対象者)の流入も予測される。それにより各自治体に独自性が生まれ、保健行政サービス以外の部分においても活性化が期待される。

 国としては、膨大な予算を非効率的な計画に投入するよりも、計画立案・予算執行の権限を地方自治体に委ね、支援的側面に徹するというボトムアップ方式を導入することで、地方の自由度が増し、より一層の効果が期待できる。

7−2:国家主導の行政システム、その役割の見直し

 4項でも述べたが、国が専念するのは、国家的問題となる性質のもの、もしくは全国規模・全国的視野で実施すべき性質のものとされている。5−1項でも述べたように健康づくり活動はサービス提供活動であるため、統一された方法では柔軟な対応できず、効果が出ないのである。地方自治体が、自らの基本計画をそれぞれに立てることができれば、国があえて計画を立てる必要はない。

戦後まもない時期には国が主導して「健康」を目標とした全国的な施策を展開することで、わが国の公衆衛生のレベルは飛躍的に向上した。この背景には、国民の健康が戦後日本の復興にとって不可欠であったからだと考えられる。しかし、それは近代までの考え方であり、現在の社会状況に即しているとは言いがたい。なぜなら、日本は医療が進歩したことにより、世界第1位の長寿国となった。つまり、「生命の量」が増大した6)のである。そして、量だけでは満足できず、今度は「生命の質(Quality of Life)」を求めようとする動きが強まっている。また、高度経済成長からバブル崩壊を経て、現在の社会は安定期とも言える成熟社会に突入している。成熟社会とは、「人口と消費の成長はあきらめても、生活の質の成長はあきらめない社会」とデニス・ガボールは自著「成熟社会」(1972)において指摘している。これは「人々が何に価値を見出すか」についての端的な表現7)であり、これを国民一人一人の健康観に当てはめると、各個人が目指す健康の価値は、今後さらに多様化するということが予測される。戦後のシステム、考え方がそのまま踏襲されていることによる弊害が、「健康日本21」における活動の効果に現れているとも考えられる。

では、今後議論されなければならない問題は何だろうか。

それは、国が主導となり全国的規模で実施する政策として「健康づくり」は適当なのか否かということである。生活保護や福祉など、いわゆるセーフティネットとは異なり、健康には個々人の自由裁量にゆだねられる部分がある。疾病構造が感染症から慢性疾患メインへとシフトし、病気や障害を持ちながら、どのように自己実現していくかが論点の中心となってきているため、全国規模という大きなフィールドで考えるのは逆に難しいのではないかと考えられるからだ。健康は基本的人権であるという考え方が戦後の保健行政における基本理念である。それは、健康=すべての人に平等に配分されるものと考えられるが、別の見方をすれば、人権であるからこそ、一律に押し付けられるものではないという解釈もできる。誰を対象としているかも定かでないような啓発用ポスターを街に貼ることよりも、健康を求め、必要とする人々に正しい情報を提供し、行動変容を促すことから「健康づくり」は始まる。これは、地方自治体が住民のニーズに即した基本計画を主体的に策定する根拠となり得るだろう。

また、啓発活動の中には教育も含まれる。「健康」とはどのようなものか、漠然とした概念や理想論を押し付けるのではなく、「健康な生活リズム」、「健康な食習慣」等、具体的な言葉で、次代を担う子どもたちに最低限持つべき知識として伝えることも重要である。現在は、教育行政においても民間セクターの進出が見られることから、国が官民双方の連携を制度および実務の両方で推進していくことが求められる。

上記のように、今後、国の役割として期待されるのは、国民および地方自治体のサポート的存在となることである。「縁の下の力持ち」というような役回りを、国が率先して引き受けなければ、様々な分野での地方分権が進む中で、取り残されるのは国ということも考えられる。現在の行政の在り方が問われているという危機感を国が持たなければ本当の改革は実現しないのではないだろうか。

 

8 おわりに

 本稿において、国、都道府県、市区町村の役割分担と問題点について分析し、解決策に関しても一案として提示はしたが、これはあくまでも(現在の)公共部門のみで保健行政サービスを担うことを前提としている。民間のセクターが「健康日本21」において、どの程度参入しているのか、また、各パブリックセクターに従事する職員の意識やモラル等の現状については言及することができなかった。官民の境界線が曖昧になっている現代では、それらの状況についても議論することが必要であろう。

さらに、健康そのものを政策の目標とすることが適当なのかという問題もある。行政評価が定着しつつある中で、適切な目標設定、評価指標を模索することも重要な課題である。国は財団法人に普及・啓発活動を委託し、費用の補助を行なっている。しかし、それらの評価がどのように行なわれているのかについては、本稿で取り上げることができなかった。もし費用に対する効果が低いという評価になれば、その補助金を地方へ配分する方が効果的であるということが言えるかもしれない。

また、日本に先駆けて保健医療制度改革を実施したイギリス等、先進国の実績と現状についても、今後の保健行政のあり方を模索する上で重要な資料になると考えられる。イギリスにおいて、PFIを導入したことで、官から民へという流れの一つの見本を示した手法、実績は非常に興味深い。

これらの課題については、セカンドクール以降に取り組みたいと考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

引用文献

1)2)日野秀逸(1995).“保健活動の歩み 人間・社会・健康”医学書院

3)財団法人厚生統計協会(2005).“図説 国民衛生の動向”厚生統計協会 

4)5)健康日本21ホームページ http://www.kenkounippon21.gr.jp/index.html

6)桝本妙子(2006).“健康社会学への誘い”世界思想社

7)青山佾(2003).“東京都市論”かんき出版

 

参考文献

厚生労働省ホームページ http://www.mhlw.go.jp/

東京都ホームページ http://www.metro.tokyo.jp/

葛飾区ホームページ http://www.city.katsushika.lg.jp/  

島田晴雄(2004).“日本を元気にする健康サービス産業”東洋経済新報社

米山公啓(2000).“健康という「病」”集英社新書

老川祥一(2000).“よくわかる地方自治のしくみと役割”法学書院

森下正之・吉永元孝・小林暁峯・立岡浩(1999)“医療・福祉PFI”日刊工業新聞社