自治制度演習レポート                 公共経営研究科・塚田大海志

 

「普天間飛行場跡地利用に見る地権者合意形成の方向性と課題」

 

はじめに

 沖縄において、地権者による合意形成は、円滑な跡地利用を推進するための最重要な要素の一つである。したがって、当該自治体は、跡地利用計画を策定する際、的確に地権者の利用意向を把握しておく必要がある。

本クールでは、宜野湾市に焦点を当てる。現在、宜野湾市では、普天間飛行場跡地利用に際して、地権者の意向を把握するために様々な調査業務を展開している。本稿では、特に地権者を対象としたアンケート調査結果を分析し、地権者を巻き込んだ跡地利用のあり方を探ることが狙いである。

普天間飛行場は県内で唯一、大規模返還跡地に指定されており、その利用手法は、今後の沖縄全県の基地返還跡地について参考になるものとして注目を集めている。また、私の研究においても、地権者の視点から同飛行場の跡地利用における論点を、定量的なデータを用いて整理し直すことは、有益であると考える。

 

意向調査の目的

宜野湾市では、平成15年度末に「宜野湾市都市マスタープラン」が策定され、次いで、宜野湾市及び沖縄県により、平成16年度から3ヵ年計画で、「普天間飛行場跡地利用基本方針」のとりまとめが行われている。これらの策定に当たっては、民有地が大半を占める普天間飛行場の地権者意向の把握が、重要であると確認されている。

これまで、普天間飛行場の地権者等に対する取組みとしては、平成13年度には、地権者等への情報提供や意向把握の方法、合意形成活動の理念、段階ごとの目標等を定めた「普天間飛行場関係地権者等意向把握全体計画」が策定された。そして、平成14年度より「普天間飛行場跡地利用に関する意向調査[1]」が実施されている。

本調査の目的は、各種計画の策定に際して、考慮すべき地権者の生活状況や抱えている問題・課題等を明確にし、計画へ反映する条件と検討課題を提示するとともに、今後の合意形成活動の適正化・効率化に向けた基礎資料とすることにある。 

 

意向調査の分析(平成15年度・大規模駐留軍用跡地等利用推進調査・N=1729)

 

1)回答者の属性

 回答者の3/4以上(77.3%)が宜野湾市内居住者である。性別に関しては、男性が約7割、女性が約3割であり、回答者の平均年齢は約60歳、60歳以上の回答者が56%を占める。よって、4割以上(43.6%)が無職である。なお、回答者の約7割が地主会に加入している[2]

グラフ1を見て欲しい。今回の調査で留意すべきは、性別・年齢に偏りが生じており、特に高齢者が多いことである。普天間飛行場の返還は決定済みであるが、その具体的な時期はいまだ明示されておらず、最短でも15年後である。近い将来に地主の世代交代も予想されることから、若年層の地権者や高齢地権者の家族等の意向把握にも力を入れていく必要がある。

グラフ1 年齢

                      

所有する軍用地面積については、所有規模に分散が見られるものの、「1000u以上3,000u未満」との回答が最多であった。また、過年度調査と比較した場合、500u未満の所有者が増加している。理由としては、大規模土地の所有者や複数土地の所有者において、相続などにより地権者一人当たりの所有面積が減少しているためだと考えられる。

一年間の軍用地料については、「300万円未満」の回答が最も多く、全体の6割(無回答を除くと全体の8割弱に達する)を超えた。年間総収入に占める地料の割合としては、全体的に回答は分散しているが、年齢別に見た場合、50歳以上については、年代が高くなるにつれて総収入に占める割合も高くなる傾向にある。

なお、労働力世代における無職の割合は、「30歳代前半9.1%」、「30歳代後半7.4%」、「40546.1%」であり、県内完全失業率(平成14年度・沖縄県調査)よりも高い傾向にあった。総収入に占める地料の割合がそれほど高くないとはいえ、地料収入と労働意欲の衰退は無関係ではないようである。

グラフ2 年間総収入に占める地料の割合

2)土地活用の意向について

 土地活用に関する集計結果(グラフ3)としては、回答件数を母数とした割合で見ると「自己住宅」が最も多く、次いで「予定なし」となっている。また、収入を得るための土地活用としては、「賃貸住宅」が最多となっている。

全体的な回答と面積の関係からは、所有面積の小さい地主ほど「自己住宅」を、大きい地主ほど「土地賃貸」や「商業ビル」を回答している傾向にある。他方、収入に占める地料割合別に見ると、地料割合が高くなるに従って、「土地賃貸」の回答が増える傾向にある。 

これらのことから、活用方法を見出せない地主も少なくない反面、地料への依存度が高い地主は、返還後も地料同様の現金収入を得たいと考えていると言えよう。


なお、土地(軍用地)所在地が「わからない」を選択した回答者は、他と比較して「土地売却」の意向が非常に強い傾向が見られる。土地売却予定の地主は、軍用地そのものへの関心が低く、跡地利用に対して消極的であると考えられる。

 

土地活用の方法(グラフ4参照)について、「多少の負担を背負っても、全て自分で土地活用を行いたい」という回答は、26.7%である。無回答を含めた残りの数字は、73.3%になる。つまり、土地活用について現段階で、「自分で土地活用を行いたい」という強い意思表示をしている地主が、4分の1に過ぎないと解釈できる。実際、13.9%が収入を得るための土地活用を考えていない。残りの36.6%も組織、或いは複数名のグループによる活用を考えている。したがって、魅力ある跡地利用計画が出来上がったら、大方の地権者が、それに賛同する可能性が高いと言えるのではないか。

 また、土地活用のための支援としては、「金銭面」との回答が最多であり、全体の半数近くに達した。次いで、「企画面」、「公平・安定収益の仕組み」との回答が、共に3割強を占めた。逆に、「支援不要」と答えた地主は、1割以下とかなり少ないため、ほとんどの回答者が何らかの支援を希望していると考えられる。行政に対する地主の期待は、比較的大きいと捉えることができる。

 

 

 

地権者の計画作りへの関わり方

 跡地整備の進め方(グラフ5参照)に関しては、「まちの発展に役立つ地域から」との回答が4割強と最多であり、「地権者が自己利用する区域から」と「全ての土地をいっせいに」が約2割ずつ、ほぼ同数で続いている。純粋に『跡地整備』の進め方のみについて抽出・分析した場合、「まちの発展に役立つ地域から」との回答が約5割に達する。まちづくりにおける段階的整備に関して、一定度の地主の理解は得られていると考えられる。

他方、関係地権者が、跡地利用の計画策定にどのように関わったら良いかという質問に対しては、「一地権者として積極的に参加する」という回答が17.9%、「アンケート調査から地主の考えを取り入れてくれれば良い」との回答が34.2%であった。これらを合わせると52.1%となり、過半数を超える地権者が、公共性を持ったまちづくりに対して高い意識を有していると読み取れる。

だが、実情はどうであろうか。現在、宜野湾市では、地権者が主体的に計画策定作業に関われる場の保障として、地権者懇談会を定期的に開催している。ところが、アンケート集計結果によれば、「一度も参加したことがない」地主が、43.4%にも及ぶ。また、高齢の地権者が多いことから、若年層を対象にした懇談会も開かれているが、こちらの参加状況も特定の地主に限られている状況にあるようだ。

返還跡地の有効活用によって、これまでの軍用地料に換わる収入を得なければならない地権者は少なくない。返還跡地は地権者個人の財産である。これまで懇談会に出席したことのない地権者は、地料依存から脱却できるような財産運用を図るためにも、一部の関心の高い地権者や行政に任せきりにするのではなく、積極的に跡地利用計画の策定に参画していくべきだ。一方、行政においては、今後、地権者各人の跡地利用に対する参加意識を高めることが課題となる。

過去に沖縄では、地権者が主体となって組織された「整備組合」によって、土地区画整理を行った事業が複数ある[3]。地権者主導でまちづくりが進められ、行政はサポート役に徹した好例といえよう。大規模跡地となる普天間飛行場の場合、利用用途が多岐にわたり、事業の規模は大きくなるものの、地権者主体の組織的な枠組みを検討するという点で、宜野湾市が検討する価値は十分にあるはずだ。これについては、今後のレポートで詳述することとしたい。

 

【参考文献・資料】

宜野湾市「普天間飛行場跡地利用に関する意向調査」2003・2004年度版

宜野湾市「ぎのわんのまちづくり―普天間飛行場関係地権者等意向把握全体計画―」2002

宜野湾市ホームページ(http://www.city.ginowan.okinawa.jp/

来間泰男『沖縄経済の幻想と現実』日本経済評論社、1998



[1] 宜野湾市「普天間飛行場跡地利用に関する意向調査・報告書」2004年。本稿のグラフは、同報告書より引用したものである。

[2] ただし、地主会への加入登録があっても、「加入していない」と回答した人も多くいた。これは、相続などの際に、相続人が意識しないところで地主会登録の引継ぎが行われている可能性などが考えられる。その後の宜野湾市の調査によれば、実際の地主会加入状況は、99.4%である。

[3] 来間泰男『沖縄経済の幻想と現実』(日本経済評論社、1998369397頁。参考として、1973年に返還された天願通信所跡地(具志川市みどり町)の土地整理事業があげられる。みどり町は住宅地を中心とした返還跡地の利用に至っているが、地権者を主体とする「集団和解方式」を採用し、区画整備組合から表彰を受けた経緯を持つ。また、同じ頃に返還された読谷村・渡具知地区も同様の経緯を踏んだ。