2005/07/22

自治制度演習(片木淳教授)

2005年度第1セメスター第3クール報告

                              玉城 朋彦

 

沖縄自治州の財政・経済問題の検討

1、はじめに

「地域の自立」論議を展開する際に、最も重要な論点は、経済の問題である。市民が安心して生活できる経済的基盤について、今回(第三クール)は、検討したい。既に第一クール報告で全体像を提示した時に三点の経済的な柱を提案した。それは、

@.ドイツの共同税の導入と、州間平衡調整による財政基盤の安定

A.沖縄州の市民による内発的な地場産業の創造(コンセプトは「癒し」)

B.日中共同開発による尖閣沖油田の開発(北海油田を先進事例として)

 の三点である。今回の報告は、この三点に、新しく次の二点を加えて検討を行いたい。

C.在沖米軍基地の地元補償問題

D.台湾からの直接投資の現状と解決すべき課題。

 

2、C在日米軍基地の補償問題

 

 在日米軍基地の75%が、沖縄県に集中している現状を過重な負担だと国民全体が認識してきている。しかし、朝鮮半島情勢や中国と台湾の緊張をはじめとする東アジア諸国の軍事力構成に変化があるまでは沖縄の米軍基地の駐留は変わらないと推測できる。現在進展が期待されている米軍基地の本土への移転、例えば普天間基地所属のKC130空中給油機の山口県岩国基地の沖合滑走路延長に伴う移転、あるいは自衛隊鹿屋基地への移転等が無事済まされても、依然として残る不均衡に対する政府からの補償は検討せねばならない。州への移行後も、米軍基地の多くが残る可能性が極めて大きいからである。

 沖縄の振興開発は、一九七二年の本土復帰以来沖縄振興開発特別措置法等の沖縄開発三法や沖縄復帰特別措置に関する法律で進められてきた。このまとめ役は沖縄開発庁で昨年度は、約3000億円。復帰後の累計は7兆6000億円(振興開発費)に上る。道路や橋梁、学校施設などのインフラ整備は本土並みになった。この振興開発の考え方は、復帰時に大きな格差のあった沖縄を本土並みの経済水準にできるだけ早く近づけようというものだ。

しかし、これは基地負担への補償ではない。いわば、島嶼を抱える県などに助成された「離島振興」と同じ発想である。けっして日本という国全体の安全のために背負っている過重負担への見返りという性格ではない。特別措置の中の基地交付金は60億円がある程度だ。在日米軍基地の負担する割合を人口一人当たりに換算すると、1対230である。この余りにも大きな差は、今回の再編後の試算である。今後も特別な負担を強いられている沖縄州には、

特別の地位や権利が与えられて然るべきである。

 例えば、現在の沖縄県の地方税約230億円の減免があってもいいのではないか。元北米一課長や安全保障課長を歴任した岡本行夫氏(今年度より本研究科非常勤講師=安全保障論)は、この問題について「7兆6000億円という、国家の経済規模に比べれば低額で済ませていられるのは、日米安保体制があるからだ。その体制維持の為に国民全体の税負担増は暴論ではない。」と述べて沖縄の過重な負担に補償を考えるべきだと提起している。

もう一人、筑紫哲也教授は、「沖縄の人は、基地を貸しているという考えで、はっきりと損益計算をして、政府に要求すべきだ。人が良すぎる。」沖縄での特派員経験があり、「ニュース23」でも、沖縄に思いを寄せた発言を繰り返される氏とは、私の幾度も番組に登板させていただいたこともあり、率直に私にそのように言われた。

復帰以降の三十三年間に特別措置が講じられても、沖縄はの一人当たりの県民所得は全国の70%強しかなく、失業率は6%台で推移している。基地関係収入約1500億円が第一次産業の総生産額より多いこういう状況で、国庫支出金や地方交付税等の依存財源は、およそ80%に達する。やはり、振興開発の予算以外の補償が必要だ。

 

3.A―a.沖縄州市民による内発的な地場産業の創造(コンセプトは癒し):観光

 

 たしかに、復帰以来相当額の沖縄対策予算が投入され、産業の育成と保護に『復帰特別措置』が機能してきた。ビール産業、セメント製造、泡盛産業に代表されるものである。サトウキビやパイナップルなどの農業も保護を受けてきた。しかし、復帰後著しい成長を見せてきたのは観光リゾート産業と薬草を原料とする健康食品産業である。珊瑚礁の海岸線には、復帰以後多くのホテルが立地し、海水浴のみならず、ダイビング、サーフィン、パラグライダー、ウインドサーフィン等海洋レジャーのメッカの様相を呈してきている。一方、ここ十年の傾向は、東京や大阪など都市部でのサラリーマン生活を終えた人達の夫婦を中心とした沖縄への移住である。彼らは那覇市の市場近くに居を定め、新鮮な野菜と魚類を得て、ゆったりとした第二の人生を送る。更に、多くの離島を抱える沖縄だが、この島々には、他府県から20代から40代の比較的若い層の人達が移り住んできている。いずれも、豊かな自然の中で生活を送りたいという思考での選択である。

 ホテルの立地にも、老後を楽しむ夫婦にも政府の補助金は一切無い。これは、沖縄の持つ海などの自然が迎えたといっても過言ではない。1972年の復帰の際に70万人しかなかった観光客数は、昨年500万人を突破した。観光が沖縄州のリーディング産業であることは、いうまでもない。新しい方向性としては、❶海外からの観光客を増やすこと。❷グリーンツーリズム・エコツーリズムなど自然一体型観光の開発。❸長寿社会の背景にある『癒し』、『薬草と食文化』を中心にした長期滞在型観光の開発。❹リタイアー後の生活地としての保養地域の開発等が考えられる。

 これらの方向性へ向けた課題としては、1.観光土産品の県産比率の向上。2.薬草に象徴される健康食品群の原料の安定供給、生産体制の確立。3.地元旅行社などによる旅行企画商品の開発などが挙げられる(地元への収益が上がらない、本土エージェントによるパック旅行は、格安料金の為地元への経済効果が少ない)。しかし、基本的には国内唯一の亜熱帯気候と、珊瑚礁のリーフに囲まれた海浜は、最も優れた観光資源であり、かえって人工の開発行為をいかに抑制できるかが、観光リゾート地としての重要なウイークポイントであろう。つまり、沖縄諸島の島々と、それを取り巻く自然をそのまま残すことが、更なる沖縄観光の発展の近道だという風に思える。世界最大の市場といわれる中国は、航空便で2時間の距離であり、台湾は1時間である。しかし、この両市場には注目すべき海浜リゾートはない。香港を含めて、誘客プレゼンテーションをすべき市場は、すぐ近くに眠っている。

更に、生活費に於ける、旅行費のウエイトが高いヨーロッパ市場からも、最近沖縄が注目されてきた。日本という国にあるという安全性と、多くの島嶼は、ヨーロッパ人の長期滞在型観光地としての条件にかなうとされ、島のコテージ型宿泊施設の整備は、家族ぐるみで長期の夏休み休暇を歓迎できる。

 3-b.薬草等の健康食品産業

 日本復帰後三十三年が経過した沖縄だが、日本の地域開発政策に習うように、沖縄の経済振興も製造業の本土からの誘致を中心に考えられてきた。しかし、米軍統治下の琉球政府時代に生まれた煙草、ビール、製糖、パイナップル缶詰、製鋼、製紙、電力、航空、醸造等を超える基幹産業の立地は、殆どなかったといえる。伝統漆器、染織等は戦前からのものだし、結局、日本政府が復帰後三十三年間に投下した財政資金は、道路など社会資本の整備には、効果があったが、企業の創出には、結びついていなかった。このような中、日本政府も沖縄県も殆ど注目していなかった産業が薬草等を中心とする健康食品産業である。うこんなど、既に国内市場で知られている商品もあるが、それ以外にもグヮバの様に本土大手飲料食品メーカーがその効能に注目し、東京の研究所で成分分析をして商品化した例もある。グヮバは、海外在住の日本人市場を中心に海外市場での位置を占めてきている。また、ヨモギは国内で産するものと種類が異なる。これは、珊瑚礁石灰岩の上にできた土壌が基本的に土地を形成しているため、カルシウム分が多いのと、亜熱帯に沖縄があるために太陽光線が強く植物に注がれて、ヨモギの効能がより発揮できる薬草になっている。主な効能は血圧低下促進であるが、県内はもとより、ソウルをはじめ肉食が多いとされる韓国市場で消費者の人気を集めて輸出が拡大している。

 しかし、将来の沖縄州の代表的な商品の可能性を秘めているのは、抗癌作用を持つ「もずく」と「栴檀」であろう。もずくの持つヌルヌル感には「フコイダン」と呼ばれる成分が含有されているが、最近二カ年間で研究者の研究が進展し、胃癌と胃潰瘍、そしてHIV

に効果があることが実証された。がん細胞をフコイダンが包み込んで消滅させるというのだ。この成分は、天婦羅料理のように過熱をしても消滅しない事が判明し、また(乾燥もずくのように水分を抜いて乾燥もずくとして店頭で販売し、消費者が自宅で湯を注ぐことで原状に戻すことができる。加熱しても、乾燥させてもフコイダンは死滅しない。このもずくは、世界では南太平洋と沖縄を北限として生育しており、鹿児島県や和歌山県と競合をすることはなく、まさしく沖縄州の州特産になる。

この視点の背景には最近「ごーやー」という方言名が本土でも定着した苦瓜が、沖縄特産ではなく鹿児島や宮崎、あるいは茨城でも生産と出荷がはじまり、沖縄からの発信商品が、市場で競合状態を表出させていることにある。しかも、他府県の商品表示も「茨城ごーやー」だったりする。方言が共通語の市民権を得たことは喜ばしいが、競争状態では、生産者は少々悲しいだろう。似たような事例では北海道産の「沖縄そば」や台湾産の「沖縄黒糖」がある。台湾産の黒糖の場合、品質がまったく異なる「赤糖」が原料であり、独特の味と効能を持つ黒糖(黒砂糖)とは、異なるのである。昨今の沖縄ブームは、景気の低迷が言われる中で、

他府県の企業に類似商品の生産と市場開発を促す結果になっている。

 沖縄が、日本の一部として認識されてきている結果だともいえるが、沖縄の生産者や流通業者、あるいは行政は、ブランドの確立を急ぐべきであろう。同時に沖縄州としての、市場戦略本部の体制を作らなければ、他府県や海外との競争に勝ち残れない。州になったときの

内発的な産業の育成と、市場開発にもっと、力を注ぐべきではないか。


 


商品名

効能

系統

市場の状況:特徴

 

@うこん(うっちん)

二日酔い

薬草

沖縄産の薬草系商品の原点

 

Aくみすくちん

 

薬草

 

 

Bグヮバ(バンシルー)

血圧降下作用

薬木

@     ヤクルト本社がペットボトルの「蕃爽麗茶」を既に発売

A沖縄では「グヮバ茶」発売

 

C栴檀(せんだん)

癌の消滅(マウス実験済)

薬木

生物資源活用研究所で研究開発。

現在はドリンク剤。近年中に製薬工場の建設開始。

 

Dもろみ酢

 

産業廃棄物

泡盛の製造工程で残る「もろみ」が原料。

 

Eよもぎ(ふーちばー)

血圧降下作用

薬草

日本のよもぎとは品種が違う。

珊瑚礁石灰岩の土壌に強い太陽光線が成分を成長させる。

 

Fアガリクス茸

 

 

南米原産だが国内への普及元。

テレショップで全国展開。

 

Gノニ(八重山アオキ)

体調不良

宿便

薬木

 

 

Hえらぶ海蛇

高血圧、血流促進

蛇類

琉球列島近海の海蛇。

需要が多く、不足分をフィリピンから輸入。

 

I深海鮫エキス

脳細胞活性化

魚類

琉球列島近海の深海に生息

DHAEPA成分が脳の働きを向上

 

 

 

 

Jもずく(フコイダン)

胃癌

胃潰瘍

HIV:エイズ

 

もずくの生産の北限は沖縄本島近海。とろりとした成分がフコイダンで、胃癌を除去する事が実証済み。

乾燥もずくに人気。

 

 

 もうひとつの商品である、栴檀は沖縄本島北部の山林に自生する樹木である。この樹液を搾り成分分析をした結果、抗癌作用の存在が確認された。地元出身の元厚生省ウイルス研究室長だった研究者が、退職後帰郷し、脚光を浴びる薬草以外の花木の悉皆調査の結果、判明したもので既にマウス実験において、乳癌などの癌細胞が次第に消滅することが実証されている。現在、アンプル剤として健康食品として市販が始まっているが、国内外の製薬企業から薬品化の引き合いが来ている。研究者の発想には、あくまでも、沖縄の商品として開発したいという考えがあり、政府の北部振興策予算(1995年に発生した米海兵隊員による女子小学生暴行事件の後、地元への慰謝事業の性格を持つ、特別予算が組まれている。)を使って製薬工場の建設計画が始動している。

沖縄には上記の表のように多様な健康食品群があるが、いずれも、ストレスフルな日本社会あるいは海外への市場性を持つ商品として将来性は高い。課題はそれぞれの企業体質の強化と、原料の安定供給体制の確立である。更に商品履歴の徹底による商品安全性の信頼を得ることである。

 

4.D台湾企業の直接投資による産業育成

 

 沖縄と最も近い外国は台湾である。かつて、終戦直後には、日本との貿易が禁止状態であったことから、台湾との密貿易が盛んな時期が沖縄にはあった。台北や基隆には、第二次大戦中に多くの県人が疎開していたこともあって、密貿易船は、疎開先からの帰還者とともに多くの食糧を密輸入し、沖縄からは日米双方の武器、軍艦、戦車などの兵器のスクラップが輸出された。戦後も落ち着くと、台北のCAT(中華航空)が那覇と台北間に就航し交流が深まった。因みにパイロットは在沖米軍兵士が退職後に就職した。その後、船舶や中華航空(CAL)の運航が整備された。現在でも台北中正国際空港には、搭乗口に「琉球」行きと書かれた表示のあるブースが残っている。このように、勿論東京、大阪との交流が多い中で、他府県とは異なる台湾との交流の歴史を沖縄は持っている。

 その台湾からの直接投資が表面化したのは、1999年の香港の中国への返還が直前になった頃にまず動き出した。企業行動を展開していた台湾の企業が投資先を香港から沖縄へ変更しようという動きであった。当時沖縄県経営者協会会長であった稲嶺惠一現沖縄県知事が台北で李登輝総統と面談し、この席で台湾の経済界トップが沖縄への、企業進出の提案をしたのである。国民党の国営企業は、石垣島へのリゾートホテルの進出、那覇新都心への立地などを示した。しかし、日本の企業立地への優遇措置は薄く、法人税の低減、投資減税の実施なども併せて求めたものの、減税措置などは、見込めないとしてこの時の投資行動は成果を見ることなく終わった。

 しかし、最近になっても台湾側の投資意欲は衰えておらず、那覇新都心地区への投資プランが案として浮上している。その一つはITを主体にしたコミュニケーションビルと、その入居だが、結局実らなかった。台湾側は沖縄に中間製品を持ち込み、最終商品に完成して出荷しようという企画を持っている。商品には『日本製』(made in Japan)という表記が可能になることがある。台湾製ではなく、日本製にして日本市場と中国本土市場を狙おうという市場開発計画が伺える。

台湾の直接投資は、❶リゾートへのホテルの立地。❷東京ー沖縄間の通信回線が特別措置で格安な為にIT企業の立地を目論む。❸那覇空港に隣接する沖縄自由貿易地域等のフリー・トレード・ゾーンに企業立地し、中間製品の持込による、日本製の最終商品づくり。の三パターンがあると思われる。と同時に投資行動を躊躇させているのは、法人税や投資減税などの日本の税体系が、なんら優遇措置を示さない為、立地の意思決定を揺るがせている。道州制の導入による沖縄州が実現した時には、税制についての早急な解決が待たれている。台湾、中国という隣国との関係構築に欠かせないからである。沖縄州独自の税体系の構築を検討すべきである。

 

5.さいごに

 沖縄の自然特性や地理的特性を活かした産業の創造には、他府県を越えたものがある。更に沖縄本島北部名護市に指定した「国際金融特別区」も、中部太平洋岸と那覇空港近接に設置された「沖縄自由貿易地域」もある。しかし、この二つの特別措置は現行の税体系の中では、充分な機能を果たしておらず、州制度以降後は、大幅な規制緩和が求められる。

その結果として、地域活性化の柱に成り得る。

 そして、多様なこれらの産業振興策は、あくまでも沖縄州の住民が主体的に検討、実施をすることが重要だ。日本政府も、東京の経済界や産業界もあくまでも、助言者であるから。