自治制度演習(片木淳教授)

2005年度第1セメスター第2クール課題・報告

 

                      公共経営研究科 玉城 朋彦

 

 「沖縄自治州への認識と組織の検討」

はじめに

 第二十八次地方制度調査会は現在、道州制の導入をめぐる議論を展開している。北海道や九州といった規模での州政府の樹立に向けた地域割り、中央から各地域(州)への権限の委譲といった基本的な構想の審議は来春までに纏められ答申される。

沖縄県は近世まで琉球王国の歴史を有し、廃藩置県後に琉球藩、更には沖縄県として近代日本に組み入れられてきた歴史を持つ。しかし、第二次世界大戦後は、日本から切り離され米軍施政権下で二十八年間にわたる琉球政府という自治政府を持っていた。沖縄の人達の記憶は、祖先からの言い伝えと共に、琉球の独自の文化に支えられた歴史と、亜熱帯の自然と共に生きてきた民族の主体性(アイデンティティ)の継承発展である。いま道州制の導入に際して、主体的な意思決定の可能性が大きく広がろうとしている。この機会を正面から受け止め、琉球の文化と歴史の新たなる進歩にしたいと思う。

 その実現に向けて、いかなる行動をとり、いかに取り組んでいくべきかの考察である。

今回(第2クール)は、地方制度調査会小委員会への総務庁案と、県民意識、各政党の検討状況、そして州政府の組織案の考察を試みる。

 

1、第二十八次地方制度調査会小委員会の地域割り案と沖縄

地方制度調査会の道州制についての検討作業は、来春二月を目途にまとめられる予定だが、さる五月二十七日の小委員会に総務省から検討資料としての区域割り案が初めて例示された。それによると都道府県の分割は原則として行わないとし、国の出先機関の管轄区域に準拠するものとされている。総務省案は下記の通りである。

8地域案:北海道、東北、関東甲信越、中部、近畿、中国・四国、九州、沖縄。

*9地域案:中国と四国を別にする。

10地域案:関東甲信越と中部を関東、北陸、東海に分ける。中国、四国も別。

11地域案:関東甲信越を北関東、南関東、中部を北陸、東海に分ける。

12地域案:更に九州を南九州と北九州に分ける。(東京都は独立)

この案で見る限り、沖縄県については、私の予想通り、沖縄県単独で沖縄州を形成している。しかし、これはあくまでも総務省からの例示に過ぎず、小委員会で決定されたものではない。勿論地方制度調査会の最終報告までは半年以上の時間が残されている。よって、この総務省の例示を、各県がどのように読み解くかが重要だろう。総務省筋の情報に拠れば、この五案は、案に過ぎず、小委員会の論議を待ちたいとの事である。しかし当日の地元紙琉球新報は、あたかも単独での「沖縄州」が決定したかのように一面記事として大きく取り上げている。通信社からの配信記事に喜ぶのはまだ早いような気がするのだが。地元沖縄での議論が未熟で県民の声を聞きたいとする総務省の意図を汲み取らなければなるまい。確かにわが国唯一の亜熱帯の気候で、九州からも距離があり、琉球王国としての独自の歴史や文化を持ち、戦後は28年間の米軍統治の下で「琉球政府」という自治体験を持ってはいる。しかし、地方制度調査会の審議の情報は十分に報道されず、従って県民の認識もこれからである。どのように世論を形成していけばよいのだろうか。総務省案に安堵感を抱くのは禁物であり、危機感を持って対応するべきであろう。

 

2、沖縄県関係者の意識の現状

@     現地におけるシンポジウムでの意見(5/21/沖縄国際大学)

沖縄での道州制に関する関心は、いまいち弱いと言わざるをえない。その理由は、情報回路の弱さである。課題を一般市民が得る最大の手段は、日刊新聞に拠るところが大きいのが普通だが、沖縄県の場合、日本に復帰して三十三年の歳月が過ぎたものの、全国紙とされる朝日新聞や毎日新聞等を自宅で定期購読する割合が低い。その原因は地元紙二紙の購読者が殆どを占め、本土紙の介入する余地がないこと。更に東京版の全国紙や、西部版(福岡本社発行版)の価格が航空輸送のため割高になり、購読者数の伸びは殆ど無いのが実情である。そして、沖縄県では第二次世界大戦後公共交通機関としての鉄道が復興されなかった為、いわゆる駅の売店が存在せず、従って駅に於ける新聞販売も存在しない。このような社会は、全国紙による情報の流通が隔離された地域と考えられる、今回の地方制度調査会の審議過程もあまり報道されていない。地元二紙は東京支社に記者を配置しているものの、その主たるテーマは在日米軍の再編問題であり、日常の取材と併せても、道州制に関しての報道は、今回の総務省例示が一番大きく扱われたのが異例ともいえるだろう。従って、県民の道州制についての情報は、極めて低いと言わざるをえない。大学等の研究者や自治体の職員、県議会議員などの有識者が提起を行い、県民の意識を高めようとしている。そのような中五月二十一日土曜日の午後、沖縄国際大学において「道州制の導入と沖縄の将来を考える」シンポジウムが開催された。私は基調報告と討論の司会をしたが、聴衆は約三百人。会場からの意見は、多くが「沖縄はかつて琉球王国であった。独自の文化を再確認し、アイデンティティを再発見する良い機会だ。」「子孫に沖縄の歴史や文化を継承するチャンスの到来である。」というような精神論が多く見受けられた。道州制への認識は沖縄だけでなく全国的にも未だ低いといわざるを得ない。

A     東京在住の沖縄県出身者の意見(5/24/関東沖縄経営者協会)

なぜ、今「道州制」なのかという基本的な疑問はむしろ、東京で活躍する沖縄県出身

者で組織する関東沖縄経営者協会の人たちが懸念していることだ。政府の財政危機と地方への権限委譲は、東京に住んでいれば当然の議論として掌握されている。

ここで「沖縄自治州の課題」と題して講演を行ったところ、沖縄県出身のリーダ達からは

州としての財政的な側面や経済的に自立する方向性を質す意見が多く、論議が広がった。

ドイツ方式の共同税やそれに伴う平衡配分、更に尖閣沖の石油・ガス田の日中共同開発による税収などの予測を示しながらも、あくまでも沖縄の自然を活かした内発的な健康・薬草産業、観光・ヒーリング産業が基本になることを報告した。道州制論議も尖閣沖のガス田開発も現在進行形のテーマであり、聴衆の理解度はいまいちの感があるものの、沖縄現地よりは現実的に問題の把握は出来ていたと言えよう。一方、地域の自立の論議の中心になるこの問題に疑問を呈する声もあった、しかし、この意見は現在の補助金に依存する体質の保守継承でしかない。補助金依存の体質からの脱却という命題が認識されていない。

この事をどのように広く理解させていくかが、大きなポイントである。道州制に即して単に『沖縄州』を創ることではないということ。沖縄の自然や地理的、歴史・文化的特性をどのように発揮すれば地域の経済自立に繋がっていくのかがテーマだ。

 

3、各党の調査検討の実情

@     自民党道州制調査会の検討作業と県出身国会議員の意識(6/8自民党本部)

それでは、沖縄県選出の国会議員は、この問題をどのように見ているのだろう。大学院の科目にある「国会インターンシップ」(国会稲門会寄附講座)を受講して先月末から国会に通う期間に議員達にインタビューを試みた。沖縄県選出の国会議員は自民、公明、社民、民主、共産、無所属の衆参あわせて十一人いる。その内自民党所属の代議士(稲門会)が党道州制調査会に所属していた。自民党がこの問題には早くから取り組んでいると思われるが、先週の会議に出席して後の言葉は「未だ先だよ」であった。「沖縄は単独で州にならざるを得ないだろうが、今の県と同じ領域ではないか。州になる意味が良く見えない」といわれた。未だ先という言葉に、道州制の導入による沖縄のこれからの可能性を見出せない怠惰とも思える様子が伺えた。党のその道州制調査会は三月から月一〜二回のペースで持たれているが、会期末とされる今月十九日までに一定の方向を提示する予定だ。

A     民主党有志の検討作業の実情

民主党は政権奪取後十年以内に、道州制を導入することをマニフェストに記した。しかし、具体的な取組は無い。日米安保に対する施策は現地で容認されず、沖縄県議会では議席を持っていない。第二自民党と揶揄する向きもある。衆議院比例区に地元歌手が当選したがタレントとして沖縄ブームによる当選であり地元では、期待は無い。その一方、一部の地方分権に関心を持つ代議士らが沖縄調査を展開する等の動きがあるものの、党の具体的な提起に迄に至っていない。弱腰は、現地での認知を遠のかせている気がする。

B     沖縄社会大衆等党の結党五十五周年活動方針(4/29第69回党大会・那覇市

戦後誕生したこの社会大衆党は、本土復帰と共に政党の系列化が進み存続が危ぶまれたが、左翼の中核的政党として、現在でも県議会や市町村議会に勢力を誇っている。その党大会で、初めて「道州制」の導入に賛意を示した。活動方針は「地域の特性を活かした沖縄をめざし、押し付けの合併を越える道州制の展望を模索する」とアピールしている。系列化を拒むこの土着政党は衆議院に一議席を持っており、審議会や政府の動向を素早くキャッチし沖縄地元で訴えて戦略が必要に思える。

C     社会民主党の県議会議員の取組み

沖縄の現地の議会筋の情報によると、最もこの問題に熱心なのは社民党の県連幹事長だった。先日再会した折に意見の交換をしたが、やはり県議会でも目下の焦点は在日米軍基地の再編とその中心課題である普天間基地の返還、辺野古移設埋立の問題で、従って道州制の問題は彼の独壇場の様相がある。彼と共に八月下旬にイギリスのドーバー海峡に位置するジャージー諸島(海峡諸島)やフィンランドのオーランド諸島に現地調査に出かけることになった。両地域共に国境に位置し複数の国家によって統治された歴史を持つ島嶼自治州である。沖縄と類似の歴史体験を持つ地域にてサーベイを行い現地の実態を把握しようというものである。あわせてイギリスのスコットランド州も訪問し北海油田の発掘によって地域にどれほどの経済波及効果があったのかの調査も行うことになった。県議会に於ける議論展開と私の修士論文執筆に向けての共同企画である。県レベルでは彼と、県東京事務所の中堅職員が情報を敏感にフィードしているのが現状だ。県全体の情報触覚が鈍感であるとの印象をどのように変化させればいいのだろうか。超党派での市民運動の構築が急務だ。

 

4、沖縄自治州の構造案

@、内閣府の沖縄現地での出先機関である沖縄総合事務局をはじめ各省庁の沖縄県への

単独の出先機関は次の通りである。地方制度調査会も自民党道州制調査会も県庁への組織統合を提案している。公正取引委員会・管区行政評価局・総合通信局(地方郵政監察局・地方郵政局)・財務局・税関・国税局・地方農政局・経済産業局・鉱山保安監督部・地方整備局(空港・港湾も)地方運輸局・行政連絡会議・電力会社。一方、沖縄単独には無く、九州管区のもある(福岡在)それらは、管区警察局・矯正管区・地方更正保護委員会・法務局・入国管理局・公安調査局・地方厚生局・森林管理局等である。

この状況は、沖縄県が米軍統治下から日本に復帰して県としての体制確立ができるまでの制度の整備の遅れから来るものと、九州から遠距離にある為、沖縄県単独に設置されたものなどがあるが、自民党の道州制調査会の議論の中では、中央政府は、外交、防衛に業務のウエイトを置くべきで、法務省関係の矯正・更正関係も州に下ろすべきだとの指摘がある。更に私見を述べれば警察、入国管理、公安も在日米軍兵士及び家族の在住(約五万人)や、基地に起因する犯罪の多発状況に鑑みて、あるいは台湾、中国からの不審船の領海侵犯の多発からも、沖縄州単独の管区警察を置くべきだと思う。警察、矯正、更生保護、出入国管理、公安を纏めた形での法務機関(部)等を設置すべきではないだろうか。

A、この他、国会議員制度では、衆議院の比例区が九州比例区になっている。比例区に

ついては自民党の調査会で「州ブロック代表」に移行すべきとの案がでており、総務省案に見合う形になっている。

B、司法関係では、家庭裁判所、地方裁判所までは、県内にあるものの高等裁判所が福

岡にしかない。沖縄州にも高等裁判所を設置すべきであろう。沖縄刑務所はあるものの許容量の拡大、日米地位協定の改定にも絡んで、更に中国、台湾人をはじめとする外国人収容に対応できる新設が特に必要だ。

C、これら国の出先機関に対応する沖縄県庁の組織は、知事公室、企画部、総務部、商

工観光部、健康福祉部、農林水産部、土木建築部、教育委員会、警察本部などである。外局や第三セクターも抱えているが、いずれも他の都道府県と変わりは無い組織である。この県庁組織に沖縄にある政府の出先機関を統合させた形で「沖縄自治州政府」を組織していくべきであろう。他の同州の場合複数県での合体だが、沖縄単独州の場合は、那覇市に州政府庁舎を置くことが望ましい

D、国の存立に関わる外交、防衛施設、金融機関の監督は中央政府が担う。(総務省案)

現地那覇市には、沖縄大使を代表とする「外務省沖縄事務所」があり、米軍基地に関する業務を中心に業務を行っている。県に大使が配置されているのは北海道と沖縄だけで台湾、中国の密航船や領海侵犯にも対応する機能を所持している。更に防衛庁関係では、やはり米軍基地問題に対応する防衛施設庁の那覇防衛施設局がある。外務、防衛の二拠点が既に存在しているが道州制以降後も重要性は高まることは充分予測される。それは、米軍基地の返還と、膨大なその跡地利用の責務が日本政府にあるからだ。勿論環境汚染の処理や地権者への原状回復による充分な補償の窓口でもある。そして、日中共同での尖閣沖のガス田・油田の開発に関係しての外務省沖縄大使の役割も今以上に重要な役割を果たさねばなるまい。

この他、義務教育についても中央政府の基本方針にしたがい、地域の特性を出していくことが考えられる。今回の論議には含まれていないが。課税権については沖縄州独自の投資減税の導入や、海外企業立地促進に向けた税制の緩和が必要な他、外国人向けの学校法人設立に向けた制度の緩和も実施されるべきであろう。

E、政府系金融機関については、米軍統治下で設立された琉球開発金融公社(米民政府設立)と琉球政府設立の大衆金融公庫の流れを継ぐ沖縄振興開発金融公庫があり、日本政策投資銀行、中小企業金融公庫、国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、住宅金融公庫、独立行政法人福祉医療機構の機能を地域で纏めた形で業務を行っている。州になっても継続されるべきであろう。もうひとつ中央銀行である日本銀行は復帰時に那覇支店を開設し、業務を展開、復帰時に戦後二十八年間使用してきた米ドルから日本円への通貨交換の役割を果たした。これも、そのまま存続となるだろう。

最後に

実施については、審議メモによると北海道と沖縄で先行実施があり得ると総務省の香山次官は調査会において見解を述べている。北海道は小泉総理の発言もあり取組が進んでおり、沖縄県も民意の一致に向けての党派を超えた市民運動の構築とが必要になっている