「英国のTCMと日本のTMOとの現状整理 −制度面などからの視点を中心に−」

 

1. はじめに

英国のまちづくりの分野では,Town Center Management(以下TCM)という取り組み1980年代に誕生している.これは,中心市街地の衰退に対処するために生まれた活動であり,行政・住民・民間小売業者などによって,地域による様々な形でのパートナーシップが組まれている.

一方,日本のまちづくりの分野では,Town Management Organization(以下TMO)という組織が存在し,まちづくりに活動に取り組んでいる.しかし現在,TMO組織へのアンケート調査などを見ると,幾つかの面で課題を抱えている状況であることが伝わってくる.

今クールでは,この両者を制度や組織形態などから見比べることで,それぞれの優れている点や改善すべき点などを明らかにし,今後のまちづくり活動のあり方について考察したい.

 

2.      TCMについて

2-1 TCMの概要

TCMとは,モータリゼーションなどに伴う都市中心部での都市の空洞化なへの対抗策として,マークス&スペンサーやブーツといった民間大手小売業者によって,自発的に創められた試みである.よって後述のTMOのように,中心市街地活性化法などのもとで始められたものではない.その取り組みの基本的なテーマとしては,郊外のショッピングセンターの成功に学び,その成功要因を中心市街地に取り入れようとするものである.その要因を大まかに分けると,清潔な環境,アクセスのよさ,全体のプロモーションとマーケティング,消費者を誘引する特別なイベントや催し物を開催するマネジメント組織の存在などが挙げられている.

 

2-2 TCM組織の特徴とTCMのまとめ役Town Manager

TCMの持つ大きな特徴としては,まずその形式が挙げられる.というのも,民間大手小売業者によって自発的に創められた試みであるため,官民のパートナーシップを基本としながら,自治体主導・官民連携・民間主導などの様々なイニシアチブが存在するのである.そのため,各地の状況によって民間企業・行政・地権者等が様々な形態の組織が構成されている.

また,Town Manager(以下TMと呼ばれる都市計画・不動産開発・経営などの専門家がまとめ役として存在していることも,TCM特徴の一つである.TMの役割としては,産業界と市民のリンク・官民の協力と調整の促進・中心市街地の管理目標の設定・アクションプランの策定や実施進捗状況の広報など多岐にわたる.実際の具体的な活動としては,住民の合意形成と組織体制の整備,交通・治安・清掃等中心市街地の維持管理,店舗・ホテルなどの不動産開発,中心市街地のアイデンティティの確立など多様な職能が求められる.彼らTMの選定は各地域が独自に行い,民間から公募によって就任するケースが多く,通常約2年程度の契約が結ばれる.また,中心市街地に利害を有する企業から,派遣出向されることも多い.

 

2-3 TCM組織形態の内訳と予算

TCM組織形態の内訳を見ると,民間と官の折半が全体の45%,官が過半を有するセクターが26%,地方政府直轄が19%,民間100%のセクターが10%となっている.このうち,TCMを民間のみの資金や人材で運営できるのは,経済基盤が確立している大都市部に限られ,中心都市では官民共同出資の主体,小都市では官が丸抱えになることが多い.

一方,気になるプロジェクトの予算財源であるが,大別するとEU・公共部門(中央政府・政府機関・地方自治体) 46%,民間部門54%となっている.TCMが得る予算規模に関しては,全体のうち53%が10万ポンド(約1800万円)以下であり,中小都市の53%が25000ポンド(約450万円)以下となっている.ノッティンガムの事例で見ると,97年度単年度では約11万ポンド(約2000万円)であるが,事業のうちパブリシティ活動や街路樹管理,バス停の屋根の設置促進や調査活動など,TCM組織自体がボランティアで行う予算ゼロのものもある.

 

2-4 その他 TCM協会

TCMのほとんどは,1991年に創立されたTCMの協会とも言うべきAssociation of Town Center Management(以下ATCM)に所属している.このATCM1991年に設立されたNGO組織で,中心市街地に関する調査研究,議会へのロビー活動,会員への情報提供を三つの柱に活動している.また,都市計画を所管している環境運輸自治省とも密接に連携したり,超党派の上院・下院国会議員240人で構成されるタウンセンターマネジメント問題超党派国会議員連盟により,活動の全面的支援をされたりもしている.

この会員は,TMや地方自治体関係者,資産家や民間企業(ブーツ:化粧品や薬の製造販売チェーン,WHスミスやマークス&スペンサー:大手量販店,ランドセキュリティ:警備会社ほか,レジャー企業や不動産業者など)などであり,会費を支払って加わっている.また,ATCMには全国を幾つかのブロックに分けた支部が結成されており,それぞれの支部においても活発な活動が展開されている.

 

3.      TMOについて

3-1 TMOの概要

 TMOとは,空洞化の進展している中心市街地の活性化を図るために生まれた組織である.地域の創意工夫を活かしつつ「市街地の整備改善」と「商業等の活性化」を柱とする総合的かつ一体的な対策を,関係省庁・地方公共団体・民間事業者等が連携して推進することにより,地域の振興と秩序ある整備を図り,我が国の国民生活の向上と国民経済の発展を図ることを目的に,中心市街地活性化法において制度化された.

 

3-2 TMO組織の特徴と認定までの手順

TMOとは,TMO活性化事業「中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律」(中心市街地活性化法:1998年施行)の18条に定められた,「中小小売商業高度化事業構想」(TMO構想)を策定する組織である.つまり,先述した民主導によるTCMとは異なり,行政の法律にその存在を規定されている.そのため,組織形態は,商工会・商工会議所・特定会社(第三セクター)・公益法人と限定されている.ちなみに,特定会社では発行済み株式の総数又は出資金額の100分の3以上が地方公共団体により所有され又は出資されていること,公益法人では,財団法人であってその基本財産の額の100分の3以上が地方公共団体により拠出されていることが条件となる.

同法に基づくTMO認定までの手順だが,市町村が作成した中心市街地活性化基本計画の中に,中小小売商業高度化事業に関する記載がある場合,TMOを担う団体がTMO構想(中小小売商業高度化事業構想)を作成し,市町村の認定を受ける.そしてTMO構想に盛り込まれた事業を実施する者が,TMO計画(中小小売商業高度化事業計画)を作成し,市町村を経由して行うこととし,市町村は意見をつけて経産省大臣へ送付・認定が必要となる.

 

3-3 TMO組織の形態の内訳と予算

中心市街地活性化法施行から6年間が経過した20051月時点でのTMO実施状況だが,全国の市町村が作成した基本計画が652件,TMO構想(中小小売商業高度化事業構想)の認定済み構想数は356件,TMO計画(中小小売商業高度化事業計画)の認定済み計画数は195件となっている.その全国356件のTMOのうち,商工会は19%(69件)・商工会議所51%(182件)・特定会社29%(103件)・財団法人・公益法人1%(2件)と偏りが見られる.なお中心市街地整備推進機構の機能は,公益法人型TMOにのみ認められている.(以下の表参照)

事業収入としては,収益を上手く確保できた例として,金沢の商業施設開発・運営での年間販売額が635億(開発総事業費は4億・県からの援助あり)や,三鷹の電子商店街などによる1413万などがある一方で,佐賀のように約300の地元企業や商業者らが出資し,再開発ビルの商業保留床の保有・権利床部分の管理運営受託を行うも,テナントが思うように入居せずに自己破産をした例など様々な結果が見られる.

 

[参照:中心市街地整備推進機構とTMOとの関係]

 

中心市街地整備推進機構

TMO

主体

公益法人

商工会,商工会議所,特定会社(第三セクター),公益法人

業務内容

・市街地整備コーディネーター役として,意向や利害関係の調整等

・施設の整備事業の実施、事業への参加

・基本計画の推進に資する事業用地取得を弾力的・機動的に実施

・住民等へのアンケート調査,住民,民間事業者等による研究会の開催等各種調査研究

・その他中心市街地の整備を推進するために,必要な広報活動やまちづくり協議会の開催,地方公共団体等からの受託事業等の実施

TMO構想に記載された事業に関するTMO計画の作成・推進

・キーテナントや各商店街の特徴付けなど、域内のテナントの配置・誘致

・駐車場,ポケットパーク等の環境整備

・域内美化、イベント、共通カード等の関連ソフト事業 

支援措置

・土地取得について,地方公共団体が機構に対して貸付けを行う場合における当該地方公共団体に対する都市開発資金貸付金の貸付け

・税制の特例措置

TMO計画を作成するための
調査研究費等の助成

・キーテナント誘致のための
施設整備,家賃補填等への支援


 

3-4 その他 アンケート調査結果からみるTMOの現在

TMOに対するアンケート調査結果」(2004年度中小企業庁)によると,TMOの組織運営の面においては,「事業資金・運営スタッフ等の不足」「市町村のリーダーシップの不在」「商業集積における業種業態・店舗構成の最適化に関する専門的人材の不足」「中長期的な視点に立った継続的事業が行われておらず,単発的事業となっている」「地域住民とのコンセンサス形成不足」などが挙げられている.さらに,中心市街地の整備手法・個店運営の課題」として,「店主の意識不足による魅力ある店舗の未整備」「消費者ニーズに対応した業種構成が未対応」「後継者・新規開業者不足」「地権者等の協力不足による空き店舗等の未解消」「商業集積の核となる大型店やキーテナントの撤退」など,商店街自身に内在する課題が挙げられている.

また,「国と自治体への要望の自由記入欄」を見ると,補助金を弾力的に使いやすくしてほしいとの要望が多くある.具体的なものとしては,複数年度化や早期交付,事業補助費としてだけでなく運営費の補助を求めるものなどである.

 

4.      考察

 TCMTMOを取り巻く環境を,資金面・法制度面などから比べてみたい.

まず根拠となる法だが,前者には設置根拠が無いのに対して,後者では中心市街地活性化法に規定されている.そのため人材面でも,前者は契約を結ぶTMを公募している点からもわかるように,都市計画やマーケティングの専門家が比較的自由に雇われているのに対して,後者はアンケート結果の「スタッフ不足」「リーダーシップ不在」「専門的人材不足」「単発的事業」などの言葉からもわかるように,事業資金が乏しくかつ専門家の専業従事者が少ないTMOが多いことがわかる.この点は,様々な補助金が存在するものの,対象とされるプロジェクトが規定されることが多い日本のTMOを巡る状況に対して,英国では中央政府からの都市政策関連補助金のうち,Single Regeneration Budget(統合再生予算)という,省庁を統合した総合的な予算制度を通じて与えられるChallenge Fundの存在があることや,民間からの寄付が多い点にも要因があるのではないかと考えられる.

また事業面から見ると,前者のTCMは住民の合意形成と組織体制の整備のような利害調整の取りまとめや,交通・治安・清掃等中心市街地の維持管理,店舗・ホテルなどの不動産開発,そしてそれらプロジェクト実施進捗状況調査やアンケートなどが主な仕事として見られるが,日本においてそれら事業は,中心市街地整備推進機構の機能として公益法人型TMOにのみ認められている.しかし,その公益法人型は日本では全体の1%(2件)と少なくなっている状況にある.

さて,これらはどちらがより好ましいのだろうか.一見,TCMの持つ専門的人材を雇ってまとめ役とする仕組みが,そこで発揮されるだろうリーダーシップによって人々の意識を高め,その結果生まれた組織をまとめ易くなるという点で,より優れていると考えられる.また,より多くの資金を民間からも幅広く集められているTCMの仕組みも同様である.しかし,街に関わるほとんどの人々が自らの街の現状に対して危機感を抱き,多くの主体が参加するパートナーシップに基づく街造りが積極的に取り組まれれば,リーダー的存在など必要がない可能性も存在する.また,もしTCMという仕組みが良いとしてそのまま日本に取り入れようとしても,日本の町レベルでの商習慣を考えれば,大企業が入り込んでくるのはそぐわない・想像できないという意見もある.ならば,現在のTMOの仕組みをそのまま使い続ければ良いという声もあろうが,それが良いとも言えない.というのも, TMO組織の形態の内訳や,アンケートに補助金に関する要望が多いことを考えると,日本では街の活性化を図る際に,TMOと補助金という法律によって規定された道が先に用意されていることで,始めに組織ありき,つまり補助金を貰う受け皿としての認識がTMO設立の目的として多く,街を活性化したいという目的が薄れてしまっているようにも考えられるからである.もし本当にどうにかして街を変えたいと思うのであれば,補助金を得られても法律に規定されて縛られる組織ではなく,活性化策に対してより高い自由度を得るためにTMO以外の道を選べばいい.しかし実際はTMOという組織を選びながらも,資金などに対して不満を述べている現状がある.

これらから考えると,今後の日本では英国におけるTCMのような自由な組織形態による多くのまちづくりの成功例が社会で認知されるか,もしくはTMOが現在受け取っている補助金が,より様々なプロジェクトに柔軟に使用できる総合的かつ裁量の与えられたものになることが期待されるわけだが,そのどちらが優れているか・実現が可能かどうかや,先述した疑問の結果などについては,今後のレポートにて触れていきたい.

 

参考文献

日経産業消費研究所/編著(2003)『日本のタウンマネージメント:街づくり機関・TMOの活動調査』日経産業消費研究所

蓑原敬・河合良樹・今枝忠彦(2000)『街は要る!』学芸出版社

三船康道+まちづくりコラボレーション(2001)『まちづくりの近未来』学芸出版社

横森豊雄(2001)『英国の中心市街地活性化−タウンセンターマネジメントの活用−』同文舘出版株式会社

 

参考WEBサイト

株式会社 金沢商業活性化センター「金沢TMO

http://www.kanazawa-tmo.co.jp/

タカハ都市科学研究所「タウン・センター・マネージメントとは」

http://www.udit.co.jp/uk09.htm

中心市街地活性化推進室「Q&A(支援策・各論)」

http://chushinshigaichi-go.jp/qa/ans4.htm

電子政府の総合窓口「e-Gov(イーガブ)」

http://www.e-gov.go.jp/

中小企業庁「2005年版中小企業白書」

http://www.chusho.meti.go.jp/hakusyo/