地域防災の促進―災害ボランティア・コーディネーターについて

公共経営研究科 修士課程

45032009彭 淑珍

Peng Shuchen

1、 はじめに

近年、地震災害、豪雨災害、そして噴火災害等において、多数のボランティア活動団体による災害救援に関する積極的なボランティア活動が展開されてきている。自主的防災活動の代表的存在の一つになってきたとも言える「災害ボランティア」だが、まだまだクリアすべき課題も多い。

災害発生時、被災地域には、きわめて多くのボランティアが同時参入してくるが、それらボランティアを適切に配置し、迅速に支援活動につかせる環境を整備しない限り、被災地は一時的にせよボランティアによる「群雄割拠」に陥り、支援活動そのものの有効性が損なわれてしまう危険性がある。このような危険性を回避するには、平時から災害ボランティア活動に対する制度的枠組みを組み立て、緊急時におけるボランティア間の活動調整(コーディネート)を円滑にするシステムづくりが不可欠である。そこで、本レポートでは、このようなシステムを含め、災害ボランティアを最大限に活かし、支援活動を迅速に展開するための方策について考えていきたい。

 

2、 災害ボランティア・コーディネーターの必要性と役割

1)災害ボランティア・コーディネーターの必要性

阪神・淡路大震災以降、ボランティアによる救援活動の効果や重要性の理解が進み、体制整備や社会的支援など充実されつつある一方、阪神・淡路大震災の教訓が十分に活かされなかった問題点や新たな課題も明らかになってきた。その一つに、災害ボランティア・コーディネーターの専門的な人材の必要性が挙げられる。

各地で災害対応策が検討され、ボランティア・コーディネーターの養成も進みつつあるが、実際に災害救援活動を経験したコーディネーターはまだ少数である。日常のコーディネートの業務をベースにしながらも、特に災害時には、状況に応じたすばやい判断・対応やプログラムの開発・変更・中止等が必要であるため、意識的に訓練の機会を設ける必要がある。

2)災害ボランティア・コーディネーターの役割

ボランティア・コーディネートには、ボランティア人材の適切なる動員・派遣・現場配置、相互派遣等に関する個人ボランティアの組織化、グループ内部およびグループ間での人員配置調整、救援物資、資金や物的資源の最適配分規定の確立、ボランティア活動に不可欠な被災地ニーズの収集、迅速かつ正確な情報伝達を実現するための情報センターの設置、各ボランティアグループによる活動内容や活動方針の相互確認等、きわめて多くの作業課題が含まれる。

そのようなコーディネートをする人は「ボランティア・コーディネーター」と呼ばれ、通常は、ボランティア・センターのスタッフが担っている。災害時におけるボランティア・コーディネーターは、ボランティアを円滑に受け入れ、効果的な活動へ導く重要な役目を担っている。

コーディネーターの役割は、ボランティア活動主体間における相互調整であるが、それを項目別に分類すると、

@       意思決定機関や意思伝達経路等などの組織間体制(ネットワーク)の調整。

A       活動に必要な諸資源(人、物、情報、時間)の調達・集約・配分の調整。

B       活動方針や意見の調整。

C       各活動主体が担当する活動内容や分野、活動場所等のテリトリーに関する調整。

D       各係の連絡調整。

 

3)災害ボランティア・センターの中で、行政、ボランティアコーディネーター、一般ボランティア三者の役割分担は、次のようになっている。

 

災害ボランティアセンターの役割分担

福祉関係行政機関

災害ボランティアコーディネーター

一般ボランティア

(団体或いは個人)

災害対策本部の命令を受けて災害ボランティア支援本部を設置する。

・災害対策本部や社会福祉協議会との連絡を密にし、スムーズな運営に努める。

・災害対策本部との通信手段を確保する。

・災害対策本部との情報や支援要請を取り次ぐ。

・必要な資機材の調達を災害対策本部に依頼する。

・市町村の備蓄資機材・備品の使用を状況に応じて許可する。

・災害ボランティア支援本部運営に必要な費用を町財政当局と協議し執行する。

・町内外から集まるボランティアを対象とする天災タイプのボランティア保険加入のための資金について町財政当局と協議し、対応する。

・各避難所に災害ボランティア支援支部を設置し、ボランティアの宿泊場所等を用意するとともに、通信手段を確保する。

・報道機関への対応

 

・災害ボランティアセンターを町職員、社協職員と協議しボランティア活動を調整する。

・県災害ボランティア支援支部より情報の収集をする。

・ボランティア及びニーズを募集する活動をする。

・ボランティアの登録、受付をする。

・ニーズの登録、受付をする

・一般ボランティアに対し活動前に保険の加入を確認し事前オリエンテーションをする。

・活動を紹介し、活動オリエンテーションをする。

・活動後のフォローをする。

・業務開始前、最新の被災状況を収集しミーティングをする。

・業務終了後、当日の反省と翌日への引き継ぎのためのミーティングをする。

・常にボランティアの健康に注意し、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や燃え尽き症候群に注意する。

・災害ボランティア支部との連絡調整を行う。

・次の災害に役立てるため記録はまとめて保存する。

 

・災害発生後近隣の救助支援のため、災害ボランティア・センターに集まる。

・必要に応じてボランティア・コーディネーターの補佐をする。

・ボランティア活動をする。

 

(静岡県長泉町災害時ボランティアコーディネーターの会の災害ボランティアマニュアルにより作成。)

 

3、 災害ボランティア・コーディネーターの養成

阪神・淡路大震災で始まった災害ボランティア・コーディネーターは、災害時においてボランティアの中心となり、重要な役割を担っている。現在、全国の市町村においては、災害ボランティア・コーディネーターの養成が積極的に行われている。

例を挙げると、

1)静岡県では、地震等の災害時におけるボランティアの救援活動を、迅速かつ効率的に実施するため、ボランティアの活動拠点の設置・運営を担い、地域に参集するボランティアの受け入れ調整を行う人材「災害ボランティア・コーディネーター」の養成を行っている。

@ 養成

   平成8年度から12年度の5年間に709人を養成した。その後も事情により実質的な人員が減少しているため,毎年追加養成(30〜50人)を行っている。

  709人の職業別内訳は,次のとおりである。

災害ボランティア・コーディネーターの職業

職業別内訳

人数

割合

ボランティア団体役職員

239人

33.7

社会福祉協議会関係者

96人

13.5

企業関係者

91人

12.8%

福祉・医療施設関係者

90人

12.7

自主防災組織関係者

63人

8.9%

自治体職員

48人

6.8%

その他

82人

11.6%

  「静岡県における防災教育について」による作成

A 研修内容

   講座は、「静岡県の地震対策」、「阪神・淡路大地震から学ぶ」、「災害救援と精神的ケアのあり方」、「ライフラインと緊急輸送路」、「ボランティアの受け入れ体制」などであり、4日間で行っている。追加養成については同様の講座を3日間で行っている。

2)愛知県犬山市では、行政主導の「災害ボランティア・コーディネーター」養成講座を各地域の自治会・婦人会組織等に実施している。そこで、実際の自治活動との連携を重視し、実効性の高い、災害ボランティア・コーディネーターを養成している。

3)新潟県上越市では、災害ボランティア・コーディネーターの養成講座において、希望者には、アマチュア無線や、日本赤十字社の救急員の資格が、取得できるなど、より専門的な知識を、身に付ける支援を行っている。またその対象も、高校生以上とし、幅広い年齢層の、参加を呼びかけている。

 

4、 災害ボランティアコーディネーター問題点と課題

  阪神淡路大震災がおきた1995年は、ボランティア元年といわれ、のべ百数十万人のボランティアが駆けつけたといわれている。しかし、その多くの善意が決して全部実ったわけではないことも反省点になって、災害ボランティアコーディネーターの育成の重要性が論議され、多くの自治体では、これまでコーディネーター養成講座が実行されてきたが、多くの経験を積んだ今では、いくつの問題点が明らかになってきた。

いわゆる、多くの「マニュアル人間」をつくることになったり、「指示待ち人間」であったり、コーディネーターとしての欠点があることも指摘されてきた。

そこで、以下、災害ボランティアコーディネーターについて、今後の課題を検討する。

 

1)ボランティア・コーディネーターが活動する場所としての災害ボランティアセンターの充実

「なぜタダのボランティア活動にお金がかかるの?」との意見が少なくない。確かに、ボランティアに日当はいらない。交通費、食費、宿泊費、ボランティア保険料など、全て自前でやって来る場合が大半である。

    しかし、支援活動を進めるためには、電話やファックス等の通信費、コピーや筆記用具などの事務費、そして実際の支援活動を行うための資機材も必要となる。

    行政の協力を得て公営施設にセンターを設置して、光熱費・通信費・事務費などは市が負担するように、これらによって「資金集め」「会計」両面で労力の軽減が可能となり、その分支援活動に集中させることができる。 例えば、「現物支給」的な支援方法にも考えられる。

2)災害ボランティアコーディネ一タ一養成の拡充

明日にも大地震が、起こるかもしれないといわれる現状下において、現在の「災害ボランティア・コーディネーター」の養成数や内容で、災害ボランティアセンターの運営は、本当に可能なのか、疑問である

また、養成講座は、市民の自由参加で、そのため居住者の内でも、参加者に偏りができ、この状況では「災害ボランティア・コーディネーター」の「いる区」と「いない区」、「多い区」と「少ない区」が出来る可能性がある。地域における構成人数への配慮をするとともに、講座修了者に対する、フォローアップ講習を実施するなど、実効性の高い「災害ボランティア・コーディネーター」の普及を図るべきである。

3)災害ボランティアコーディネ一タ一制度の確立

理想を言えば、地域毎に災害ボランティアコーディネ一タ一の組織が築かれ、そのまとめ役として都道府県単位の組織があるというのが望ましいと思う。各ボランティア団体は、今後さらに自分たちのレベルアップを図るとともに、地域毎のまとまりを築いていくようにすべきである。各地域事情を知っている者がコーディネーターとして参加することにより、支援活動がより進み易くなることは明らかである。

 

 

引用・参考

早稲田大学社会科学研究所都市研究部会(1996)「阪神・淡路大震災における災害ボランティア活動」第2、8章 早稲田大学社会科学研究所

川上哲也 「災害ボランティアコーディネーターの組織化とその活動について」、『消防科学と情報』No.73(2003.夏号)。from 消防科学総合センター ホームページ http://www.isad.or.jp/cgi-bin/hp/index.cgi?ac1=IB17&ac2=73summer&ac3=2998&Page=hpd_view  Retrieved May.30, 2004 

愛知県防災局防災課 ホームページ http://www.pref.aichi.jp/bousai/coordinator/

Retrieved Jun.5, 2004 

静岡県長泉町災害時ボランティアコーディネーターの会 ホームページ

http://www.susono.com/~new/nsvc/siryo/v-shien01.html  Retrieved Jun.5, 2004

長野県地域防災計画http://www.pref.nagano.jp/kikikan/keikaku/sashi/shinsai/3/3-36.htm  Retrieved Jun.15, 2004

静岡県における防災教育について「消防科学と情報」ホームページhttp://www.isad.or.jp/cgi-bin/hp/index.cgi?ac1=IB17&ac2=71winter&ac3=2713&Page=hpd_view  Retrieved Jun.14, 2004