台湾からの留学生彭淑珍です。
早稲田で勉強して、日台両国の相互理解の役に立ちたいと願っております。
写真撮影場所:台湾東部の太魯閣(タロコ)の峡谷です。
立霧渓の深い川により浸食された大理石の峡谷です。
http://www.taroko.gov.tw/japan/index.htm
災害応急対策における警察・消防・自衛隊の役割について
公共経営研究科 修士課程
彭
淑珍
Peng Shuchen
1.はじめ
21世紀に入って、自然現象としての地球の温暖化や環太平洋地震・火山帯の活発化と、社会現象としての大規模な都市化等に伴い、災害の多発化、大規模化、複雑化、広域化がますます顕著になってきている。(河田、2003)
そのような多発化、大規模化、複雑化、広域化する災害が起こった場合に、救援・救助等の全てに渡って対応できる万能の機関が存在するという幻想を抱くのは危険であり、現実的でもない。
災害が起こればあらゆる事を地元の地方自治体がしなければならないと誤解しがちがあるが、人的、時間的に考えて、当該地方自治体だけでは対応が困難な場合が多い。支援活動を行う、消防・警察・自衛隊・ボランティアグループとの緊密な連携が必要であり、そのための日ごろの連絡と訓練も欠かせない。
地方自治体は、大規模な災害が発生した場合、又は発生するおそれがある場合において、迅速な災害応急対策を実施するために、災害対策本部を設置し、救援・救助活動を行う事とされているが、一つの地方自治体では自らの対応能力を超える場合に備え、支援部隊や物資等の応援を受ける体制をあらかじめ用意しておく必要がある。
そこで、本レポートでは、災害応急体制についてそれらの問題点を考察するとともに、今後の課題についての提言を行う。
2.防災関係機関の災害応急体制と役割
大規模災害が発生した場合、地方自治体は防災関係機関と緊密に相互連携し、迅速、適切に対処しなければならない。すなわち、災害応急対策として、地方自治体は、次のような各機関の任務分担を十分認識した上で、警察の「広域緊急援助隊」、消防の「緊急消防援助隊」、自衛隊の「災害派遣」を円滑に受入、災害応急対策を適切に実施しなければならない。
1)災害応急対策
地方自治体及び防災関係機関は、災害対策基本法第50条により、災害応急対策として、災害の拡大を防止するために、次のような事項を行うこととされている。
@警報の発令及び伝達並びに避難の勧告又は指示。
A消防、水防その他の応急措置。
B被災者の救難、救助その他保護。
C災害を受けた児童及び生徒の応急の教育。
D施設及び設備の応急の復旧。
E清掃、防疫その他の保健衛生。
F犯罪の予防、交通の規制その他災害地における社会秩序の維持。
G緊急輸送の確保。
H前各号に掲げるもののほか、災害の発生の防禦、又は拡大の防止のための措置。
2)警察―「広域緊急援助隊」―
警察では、「阪神・淡路大震災」の教訓を踏まえ、大規模災害時に都道府県の枠を越えて広域的に即応でき、かつ、機動隊員や交通機動隊員から編成され、高度の救出救助能力と自活能力を有する広域緊急援助隊を創設した。
広域緊急援助隊は、全国すべての都道府県警察に設置され、約4,000人の隊員から構成されている。隊員は、機動隊員、管区機動隊員、交通機動隊員及び高速道路交通警察隊員の中から、災害対策に対する能力、体力、気力等を備えた警察が選考されている。
警視庁及び北海道警察を除く府県警察本部の広域緊急援助隊は、各管区警察局の下、管区広域緊急援助隊として編成されている。
大規模な災害が発生し、又はそのおそれがある場合、都道府県の枠を越えて迅速に出動し、
@被災情報、交通情報等の収集及び伝達。
A緊急輸送車両の先導、緊急交通路の確保。
B規制区域への立ち入り制限、幹線道路の通行の確保と流入交通量の制御。
C避難誘導、救出等の活動。
Dパトロール。
等に従事する(警察庁警察白書)。以上の任務を的確に行うため、先行情報班、救出救助班、交通対策班、活動支援班の各班から編成されている。
3)消防―「緊急消防援助隊」―
阪神・淡路大震災を契機に、緊急消防援助隊は大規模災害時における人命救助活動をより効果的に行うため、全国の消防機関による相互応援の体制として、平成7年6月に創設された。
緊急消防援助隊は、国内で大規模災害が発生し、1つの都道府県ではその災害に対処できないときに出動し、被災地災害対策本部の指示、又は被災地の市町村長の指揮下に活動する。
平成15年6月、消防組織法が改正され、緊急消防援助隊の法制化が行われた。
消防庁長官の措置の要求に基づき、広域応援活動に従事し(消防組織法第24条の3)、地震等の大規模災害の発生時には、効果的かつ迅速な災害初期の情報等の収集、人命救助活動等を行う。その部隊の任務は次のとおりである(消防庁ホームページ)。
@指揮支援部隊―ヘリコプターにより迅速に現地に展開し、被災状況の把握、消防庁との連絡調整、現地消防機関の指揮支援等を行う。
A救助部隊―高度救助用資機材を備え、要救助者の探索、救助活動を行う。
B救急部隊―高度救命用資機材を備え、救急活動を行う。
C消火部隊―大規模火災発生時の延焼防止等の消火活動を行う。
D後方支援部隊―給水設備、トイレ、寝具等を備えた車両により必要な補給活動を行う。
E航空部隊―消防、防災ヘリコプターによる消防活動を行う。
F水上部隊―消防艇による消防活動を行う。
G特殊災害部隊―石油、化学火災、毒劇物、放射性物質災害等特殊な災害へ対応するための消防活動を行う。
4)自衛隊−自衛隊法第83条(災害派遣)―
「防衛ハンドブック」平成九年版に収録された内閣官房広報室による世論調査によると、「自衛隊が存在する目的」という複数回答の設問に対して、66%が「災害派遣」を挙げ、「国の安全の確保」57.2%、国内の治安維持33.8%という結果になっている。
阪神大震災後、自衛隊の災害派遣について評価が高まっている。また、その年に発生したオウム事件での活動とあいまって、国防以外の自衛隊の存在価値が高まっている。
自衛隊であれば自己完結型の行動がとれることから、出動の速さよりも、次のような任務を確実に提供するということが、救援活動の中で、最も重要な役割だと考えられている。
@自衛隊でしかできない重機類による道路開設や橋梁架設。
A倒壊構造物の緊急撤去や、建物の崩壊に対する警戒。
B避難所用テントの設営や、仮設トイレの設置。
C陸・空からの偵察による災害早期における全体状況の把握。
D空輸や輸送艦による海からの救援物質の大量搬送。
E人海戦術による広域の捜索や瓦礫の撤去。
F医療や衛生、放射能や化学物質、神経ガスなどの汚染に対する専門知識と防護手段の活用。
3.災害応急体制の問題点と今後の課題
3.1災害応急体制の問題点について
1)災害等の種類の複雑化
国民の安全が脅かされる災害や危機というのは、自然災害だけとは限らない。自然災害以外の災害、事件、事故には、従来、被害が発生した原因や内容に応じて、主管する行政部局が各々対応していた。しかし、その災害が特にテロのように意図的で同時多発的に発生するもの、あるいは最初は比較的小さな被害であるが、時間経過に伴って拡大していくものである場合には、各々の個別対応では限界がある。このような災害等に対しては、可能な限り事前に対処すること、災害が発生したときに迅速に対応すること、被害を最小限にすることが重要になる。そのためには、さまざまな情報を一元的に常時把握して、総合的に対応しなければならない。
2)警察と消防
警察は基本的に人命救助そのものを本務としていないため、警察の災害応急はその警備活動の一環に組み込まれている。しかし、警備は、究極的には治安維持の性格が強く、装備も治安警備を中心に考えられており、災害時における機動性には欠ける点が指摘されている。
緊急消防援助隊は、災害応急に対応時間が短く、火災などに迅速に対処でき、人命救助における技術的練度は最も高いが、大災害が発生時には、人員、資機材の両面で対応が困難となる事が予想される。
また、消防と警察の間で、指揮統制に関する調整がほとんど行われず、災害に関する情報交換体制の整備も遅れている。
さらに、同時に複数の地方自治体から応援要請が出された場合に派遣の優先順位のルールが明確でない上、相互支援の形での活動においては、救援力について、効率的な整備が難しくなることが問題になっている。
3)自衛隊
自衛隊の任務は、国の防衛とされ、本来、災害救助のための組織ではない。自衛隊は、三組織のうちでは、機動力、不整地・路外走行能力、大量輸送能力が比較にならないほど大きいが、自衛隊のこうした「自己完結型」は戦闘後方支援を目的としており、人命救助や災害時対応のためのものではない。警察や消防と比べると、組織として鈍重でもあるし、作業能率も疑問されるという意見がある。また、ボランティア組織との「協働」も難しいとも指摘されている。
また、災害対策基本法は平成八年改正により、@市町村長は知事に自衛隊の派遣を要請できる、あるいはA知事に当該要請ができないときには直接防衛庁長官またはその指定する者に派遣要請ができる事とされたが、このことにより、市町村の安易な災害対策に結びついたり、自衛隊にすべてを任せるような無責任な市町村が出てくることが危惧されている。
3.2 今後の課題について
要は、災害救援に際して、各機関・グループがその得意、不得意を自覚し、重複や摩擦を避けて、役割を分担し合う事が必要である。
1)「自助」「共助」のあり方
災害発生の場合に備え、まず、地方自治体が自ら迅速かつ的確に対処できる強固な体制を予め構築する必要がある(自助)。
次に、火山活動や豪雨、又はテロの恐れ等により、市町村や都道府県それぞれの地域の枠を越える広域的な災害が発生する場合に、可能な限り防災相関機関との連携で対応できるよう、地方自治体は、近隣市町村や都道府県間の防災に対する政策を相互に調整するとともに、連携した定期的な実践訓練を行うことが必要である(共助)。
このような「自助」及び「共助」の重要性を再確認した上で、次のような取り組みを強化していく必要がある。
@ 災害対応能力の向上の取り組み
日常における防災関連機関における相互連関の育成、合同訓練。
A 災害対策本部機能の一層の強化への取り組み
災害対策本部庁舎及び情報通信設備の耐震化の推進。
現地災害対策本部機能の一層の強化。
B 広域応援体制の一層の強化への取り組み
広域応援の要請、出動及び受入体制の迅速化。
民間応援関係機関、ボランティア活用の具体化及び受け入れ体制の強化。
C 消火・避難誘導対策の迅速化への取り組み
同時多発火災に対処するための、消防力の一層の強化および消防力の効率的運用体制の確立。
D 救援活動の迅速化への取り組み
広域的な生活必需物質等の運輸確保及び応急給水活動の充実。
2)的確な災害情報の共有
現在、各防災機関が個々に防災情報システムを整備しているが、相互の連携がとれていない面もあるため、効果的な防災対策に結びついておらず、国、地方公共団体等、各種防災機関の間で防災情報の共有化が必要である。
災害時の被害軽減や迅速な対応のため、災害・防災情報を一元管理し、 大規模災害時に有効な応急対応を行うには、現地からの映像、その他の情報の収集・伝達が必要不可欠であるため、大規模災害の初動期において必要とされるヘリコプター映像情報、その他の情報の収集能力を高めて、高機能情報通信対応防災行政無線の整備を促進することによって、災害情報の伝達機能を強化し、災害関連情報を共有化し、相互に活用することにより、大規模災害時における広域応援活動を円滑に行う必要がある。
地方自治体、消防、警察、自衛隊その他関係各機関による応急活動を総合調整してプライオリティをつけていく災害対策専門の組織を国に常設することも考えられる。
3)アメリカのFEMAのような常設組織の設置
FEMA(Federal Emergency Management Agency)―アメリカにおける緊急時の対応は、まず地方政府がその任にあたり、地方政府は必要に応じて州政府へ、州政府はFEMAへ助言、指導、援助を要請する。FEMAは、要請があれば諸機関が有効かつ効率的に各々の任務を遂行できるように緊急時対応を組織化し、指揮・指導する。連邦政府の緊急時対応は、技術的な支援に係るものと非技術的な支援に係るものに大別され、FEMAが統括する。
阪神大震災では日本政府の初期行動の遅れが問題となった。
その後、内閣の危機管理機能の強化に関する意見を集約して、危機管理監が設置されている。(内閣法第十四条の二)内閣危機管理監の職務は、平時には、関係省庁の体制整備について、内閣の立場から点検・見なおし等を行うとともに、災害が発生したときに、対処について総理大臣、官房長官等を補佐し、初動措置について関係省庁に連絡指示し、各部門を総合調整する。危機管理監のもとには、自衛隊、警察、消防から現職の幹部職員が派遣されている。この幹部職員も危機管理監の指揮下にいるので、平常時から各機関との連携も強化されるし、事件、事故、災害が発生したときには、この各機関からの派遣職員を通じての情報収集や応援、あるいは派遣要請などは従来にも増して迅速に対応することができるようになる。といっても、災害が発生した直後には、各機関の大勢の緊急救援活動が錯綜することが予想されるが、情報収集、救急搬送、救助活動、輸送物資等の役割分担を予めFEMAのような常設機関が調整して決定する仕組みが必要である。日本は先進諸国の中で、一元的な危機管理機関を持たない唯一の国と言われている。(林 春男、2003)しかし、都市における洪水災害の激化、南海トラフ沿いの広域巨大地震の発生、同時多発テロ事件、近隣国からのミサイルの脅威、SARSなど、各種の予想外の危機的な状況が続発しており、各種の危機に対応できる一元化された危機管理機関の構築は見直していく必要がある。
参考文献
河田 恵昭(2003):『防災学講座4-防災計画論』,京都大学防災研究所編,p25-63,山海堂。
田中伯知(1998):『災害と社会構造−危機管理の論理−』,p59-113,芦書房。
林 春男(2003) :『命を守る地震防災学』,p43-48,岩波書店。
警察庁警察白書ホームページfrom http://www.pdc.npa.go.jp/hakusyo/index.htm Retrieved Nov. 11, 2003
愛知県警察 広域緊急援助隊 ホームページfrom http://www.pref.aichi.jp/police/info-m/saigai/koukin.html
Retrieved Nov. 21, 2003
消防庁 ホームページ from http://www.fdma.go.jp Retrieved Nov. 11, 2003
自衛隊の災害派遣について知ることのできるページ from http://www.geocities.co.jp/WallStreet-Stock/5761/
Retrieved Nov. 23, 2003
中央防災会議 「防災情報の共有化に関する専門調査会」ホームページ from http://www.bousai.go.jp/jishin/johokyoyu/ Retrieved
Nov. 20, 2003