インターネットを利用した防災広報の実態と問題点

 

公共経営研究科 修士課程

彭 淑珍

Peng Shuchen

 

1 はじめに

  住民は、自ら災害に備えるための手段を講ずるとともに、自発的防災活動に参加する等防災に寄与するように努めなければならない。(災害対策基本法第7条第2項)。

  自らの身の安全は自らが守る」のが防災の基本であり、住民は、この観点に立って自主的に災害に備えるとともに、行政機関の行う防災活動と連携・協力することが求められる。  

  災害の被害を最小限に食い止めるためには、住民が、日ごろから自分の地域の危険性を正しく理解して、それに対する備えを十分にし、災害が発生した場合に適切な行動をとれるようにしておく必要がある。

  そして、そのためには、行政機関が住民に対してきめ細かな防災広報を実施することが重要である。

  災害対策基本法42条により市町村防災会議は、国の防災基本計画に基づき、当該市町村の地域に係る市町村地域防災計画を作成し、その中で「防災のための教育、訓練、情報収集および伝達等」を定めることをされている。

  そのような防災広報を効果的に実施していく上では、最新の科学技術の成果であり、迅速性、移動性、同報性、広域性等の特長を有するインターネットを活用して、防災情報の収集、広報等を行っていくことが非常に重要である。

      

2 インターネットを利用した防災広報の実態

 

  住民が被害を未然に防止できない原因としては、「知らない、気にしない、行動しない」のいわゆる「3ない」が指摘されている。即ち、

@     知識がないために災害そのものの発生や恐ろしさが意識できない

A     知識はあっても、たいしたことはないと高をくくってしまう、あるいは、自分のところには起きないと思い込んでしまう

B     行動にまでは至らない

の「3ない」である。

  インターネットには、@不特定多数の者に対し同じ情報を配信できる「同報性」、A全国規模のネットワーク展開、アクセスポイント展開が可能な「広域性」、Bパソコンと携帯電話の普及でどこでもサービスを利用できる「移動性」、C迅速・正確に情報を収集して、最新の情報を手に入れ、送出できる「高速性」、という特徴があるといわれている。

そのような事から、現在、市町村においては、インターネットを利用した防災広報が実施されているが、その際、これらの「3ない」を解消するため、以下の三点重点項目とされている。

A.       防災知識の普及

@     避難経路、避難場所、案内標識等を示した防災マップ

A     災害に備えた普段の心得や発生時の心得

B     発生後の行動等についての啓発事項

C     警察、消防、防災センターとの緊急時の通信方法

B. 防災意識の啓発・高揚

@       当該地域において予想される災害

A       特殊建築物などの定期調査報告のお知らせ<注1>

B       気象災害情報

C.防災行動力の向上

@       建築物などの耐震診断の助成制度<注2

A       防災施設整備や防災まちづくり活動支援

B       防災ボランティアの募集、訓練など

 

3 インターネットを利用した防災広報の問題点と今後の検討課題

 

  インターネットを利用した防災広報に関して、検討すべき課題をまとめると以下の4点である

A. 災害はいつ来るかわからないため、市町村地域防災計画を作り、住民への意識喚起を訴えても、現実感に欠けがちであること。

地域防災計画については、その実効性を確保する点から、それぞれの計画の位置づけと関係、その内容、業務の役割分担等を精査し、現実感をもたせるための定量的な目標の設定など改善方策を検討する必要がある。

また、地域の災害関係情報については、住民が一番よく知っている場合もあり、ハザードマップ作成等の際には積極的な住民参加を促すべきである。

B.インターネットやパソコン通信サービスの中には、高齢者、障害者にとって操作が困難なものがある。

 高齢者、障害者の通信方法においては、「ファクス」が最も多い。しかし、災害時には迅速な情報が伝わらない状況が考えられ、リアルタイム性を持った通信手段を早急に整備することが望まれる。文字メール、ファクス、映像の統合、携帯電話などによる文字メールや「テレビ電話」など、情報バリア・フリー環境の整備が期待される。

C. 国、都道府県情報の共有化・標準化や双方向化が遅れている。

   国、都道府県相互の間においてコンピュータシステムで収集した災害情報を迅速に共有するためには、システムを相互に接続することが必要であるが、実際にはデータ項目・データのフォーマット・通信プロトコル等の相違の問題があり、共有化が困難な状況にある。現在、各都道府県がそれぞれ防災情報システムを開発しているが、都道府県を越えるような大規模な災害等に迅速に対応できるよう、できるだけ共有化・標準化を図っていく必要がある。

   また、行政機関から住民への情報発信に加えて、住民からの情報発信・提供による双方向の情報提供を促進し、住民の相談に積極的に応ずる必要がある。

D. 災害発生時においては、電話回線の輻輳等の事態が発生することから、通信機能の強化や多様な通信手段の確保が重要である。

   現在、情報教育の一環としてインターネットによるネットワーク化が進められている学校を防災情報の拠点として活用していくことが考えられる。

   

4 まとめ

 

以上述べてきたように、災害時においては、住民自らが「自分の身は自分で守る」という意識を持ち、これに基づいて適切な行動をとることが重要である。そしてこのため、住民が的確な判断に基づき行動できるよう、市町村をはじめ行政機関が風水災害等の正しい知識や防災対策の知識の向上に努めるべきである。

特に、大規模な災害が発生した場合には、すべての応急対策について行政機関が対応することは困難であるから、住民自らの自主防衛意識と行動が重要である。

また、行政機関が災害時に迅速かつ的確な応急対策を行うためには、被害情報を早期に収集、集約する必要がある。

市町村の行政部局、消防機関、医療機関や関係団体等がインターネットを活用して、災害情報ネットワーク構築し、一般住民や民間ボランティア団体は、それにアクセスして、防災情報を収集することができる防災ネットワークを早急に整備していくことが重要である。

 

<注1> 建築基準法第2条第2参照。

<注2> TOKEN耐震診断・改修ホームページ 耐震診断に対する東京都内公共機関の助成制度一覧 http://www.token.or.jp/taishin/finance1.htm

 

参考 

 

板橋区防災課ホームページ  from http://www.city.itabashi.tokyo.jp/bousai/

 Retrieved Oct. 10, 2003

小牧市消防本部のホームページ  from http://www.k-net.or.jp/~komakifd/index.html#in

 Retrieved Oct. 15, 2003

新宿の危機管理ホームページfrom http://www.city.shinjuku.tokyo.jp/bousai/index.html

 Retrieved Oct. 17, 2003

中央防災会議「防災基本計画専門調査会」ホームページ 防災基本計画専門調査会(第4回)配布資料 from http://www.bousai.go.jp/kaigi/chousa/chousa04/c04_index.html

  Retrieved Oct. 10, 2003

練馬区役所 防災のページfrom http://www.city.nerima.tokyo.jp/bousai/index.html

  Retrieved Oct. 10, 2003