目指すべき地方公務員採用制度のあり方について
〜地方における公共サービス人材市場の形成に向けて〜
早稲田大学大学院公共経営研究科 大谷 基道
1 はじめに
1.1 本研究の趣旨
日本の地方自治体においては、多様化・高度化する行政ニーズに的確かつ迅速に対応するため、外部の有為な人材を機動的に採用することの重要性が認識され始め、その結果、研修等による内部人材の育成に加え、民間から当該分野に精通した人材を即戦力として中途採用することが徐々に広まり始めたところである。
この研究は、そのような現状を踏まえた上で、今後も官民それぞれの枠に縛られない適材適所の人員配置を推進すべく、それを最も効率的に実現するための新時代の地方公務員採用制度を導き出すことを目的としている。さらには、官民間の人材流動化をより一層推進するため、公共サービス分野における人材マーケットの形成を目指し、そのグランドデザインを示そうとするものである。
1.2 これまでの経緯と今回の検討内容
前期第1クール[1]では、日本の地方公務員採用制度の現状と問題点について、民間からの即戦力人材の採用が未だ限定的であることを示した。続く第2クール[2]、第3クール[3]では、海外主要国における地方公務員の採用制度の概要について調査を行い、「英国では、ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)の導入によって官民の垣根が低くなり、専門性の高い公務員の労働市場での流動性が高まったため、終身雇用制が崩壊しつつある」との点を明らかにした。それにヒントを得て、続く後期第1クール[4]では、日本版NPMとも言える指定管理者制度や市場化テストの導入の影響について分析を行い、それにより生じた余剰人員について、自治体経営の効率化を進めるためには外部=民間への転籍を促進すべく公共サービス分野における人材市場の形成が望まれるとの結論に達した。
今クールにおいては、これまでの検討結果を踏まえ、地方における公共サービス人材市場の形成を推進していくための具体的な手段について検討を進め、具体的な提案を行うものである。
本研究の対象は、公共サービスを担う地方自治体、外郭団体、民間企業・団体等の人材流動化である。地方に的を絞ったのは、NPM手法により民間化が進められているのは公共サービスの中でも住民に近い分野が中心であり、国よりも地方自治体の職員の方が人材流動化により近い位置にあることと、一般職公務員の約8割[5]が地方公務員であることによる。
ところで、国の職員でも地方支分部局の職員は、地方において住民に近い分野の業務に携わっていることがある。しかし、地方公務員が広範な分野の異動(例:農水部→商工部→環境部)を経験するため特定の専門分野を持たない者が多いのに対し、国家公務員は原則として1つの省庁内でそのキャリアを過ごすため、言わば当該分野のスペシャリスト[6]として知識・経験を深める傾向がある。その結果、民間におけるニーズ等を分析する上で微妙な差異が生じる可能性があるため、国の地方支分部局は研究対象には含めないこととする。また、地方自治体への出向経験を有する国家公務員が地方の公共サービス人材市場に参入することは十分予想され、特に地方自治を所掌する総務省職員については、その専門性から同市場の中心的プレイヤーとなることも考えられるが、全体から見ればごく少数であることから、本研究においては特に触れないこととする。
また、人材移動の範囲、人材市場のエリアについても、地方レベルを想定している。地方公務員について論じる場合、家族的な問題や生活エリアの問題で、全国的な移動に耐えられる者はそう多くはないと考えられること、地域社会・地方経済の活性化を考慮すると、東京中心の全国マーケットではなく、都道府県レベルか、広くてもせいぜい地方の中心都市を中心とするエリアでのマーケットを考えるべきであること、などがその理由である。
なお、本研究は、地方における官民間の人材流動化と公共サービス人材市場の形成をテーマとしているため、本稿において「官」と記した場合には、原則として地方における「官」=地方自治体及びその外郭団体を指すものとする。これは、国を「官」、地方を「公」と表現することもあるが、現在、「公」と表現した場合に、地方自治体とともに公共サービスを担う民間企業・団体まで含める概念が浸透しつつあるため、地方自治体を「公」と表現することを避けたためである。
2 官民間人材移動の阻害要因
2.1 民から官への移動
2.1.1 背景等
近年、多様化・高度化する行政ニーズに的確かつ迅速に対応するため、質の高い人材を幅広く確保することが極めて重要となってきている。特に、行政ニーズの多様化・高度化に伴って新たに生じた行政サービスについては、民間から当該分野に精通した人材を即戦力として新たに採用する方が効果的・効率的である。現在、民間からの人材任用は、大半が交流人事や任期付採用によるものである。しかし、優秀な人材の確保には、そのような例外的・限定的な任用形態ではなく、何の制約もない任用形態を用いて、職としての魅力を高めることが求められる。つまり、公務員採用の門戸を拡げ、現在の新卒採用・内部育成型(「特定の自治体への採用」)から、経験者・即戦力採用型(「特定のポストへの採用」)への転換、あるいは両者を並立させる必要があるものと考える。そのためには、官民間の人材流動化が不可欠であり、さらにはそれを下支えする公共サービス分野の人材市場の存在が必要である。
2.1.2 主な阻害要因
約300万人[7]に上る地方公務員の総数に比べれば、即戦力民間人材の採用はまだまだ試行段階で、採用数もごく少数である[8]。その一因は、地方公務員制度が、新卒採用→内部育成・終身雇用というシステムを標準として採用していることにある。したがって、中途採用はあくまで例外であり、給与面をはじめとして、その例外を適切に遇する制度が整備されていないため、なかなか本格的な中途採用に踏み切る自治体が増加しないものと考えられる。
また、公務員の育成は原則としてゼネラリスト指向型であり、新卒で入ってから10〜15年程度はジョブローテーションと称して多種多様な業務を広く経験させ、自治体行政全般に通じた、特定の視点に偏らない総合的な判断力を持つ人材を育成するのが一般的なパターンである。したがって、これを中途採用した特定分野のスペシャリストに適用しようとすると、どうしても一般的な人事・昇進パターンには馴染まず、人事当局としては処遇に悩むことになる。
ところで、日本の民間企業で転職がなかなか広まらない原因は、年功序列にあるとの指摘もある。日本企業では、給与体系が年齢と勤務年数で決まるため(たとえ成果主義が導入されていても、その根本はあくまでも年功序列で、成果主義は多少の差をつける程度のもの)、その体系に当てはまらない例外(例:35歳だが勤続1年目)が多く発生すると、年功序列の給与体系では対処しきれず、ひいてはその体系を維持することが困難になるため、中途採用を抑制しているとの考えである[9]。
また、中途採用者が役所独特の雰囲気に馴染めなかったり、また、優秀な人材を確保するため厚待遇で迎え入れた場合にプロパー職員から妬みの標的とされたりすることを懸念して、中途採用に踏み切らない自治体も多いと聞く。これらは、長い間、外部からの血を受け入れず、純粋培養により独特の公務員文化が広まってしまった結果、生じる一種の「ムラ社会」現象と考えられる。
2.2
官から民への移動
2.2.1 背景等
「官から民へ」の考え方の下、現在、指定管理者制度や市場化テストの導入が急ピッチで進められている。そこで問題となるのが、官から民に移行した業務に従事していた公務員の処遇である。自治体としては、業務は民間に委ねてみたものの、余剰人員をいつまでも抱えていては人件費の削減が伴わず、場合によっては民間委託費の分だけ余計な支出が上乗せされる最悪の結果にもなりかねない。また、当該職員にとってみても、これまで従事していた業務で蓄積したノウハウを活かすことができるのなら、その業務を新たに受託した民間企業で働くほうが働き甲斐があるだろうし、社会的に見ても、その方が無駄が少ないものと考えられる[10]。
しかし実際には、官から民への人材移動は少ない。最近では官に見切りを付けて民に移籍する者も見られるようになったが、大多数の一般職員からしてみればそれはあくまで例外である。では何が官から民への人材移動を妨げているのだろうか。
2.2.2 主な阻害要因 −その1 自治体職員の都合―
まず、職としての安定性が挙げられよう。自治体職員には地方公務員法の規定により強い身分保障がある。そもそもは政治的中立を守るための措置であるが、自治体職員にとっては、終身雇用制を事実上担保しているように認識されている。当然ではあるが、それに比べれば民間の方が安定度が劣るため、官から民への人材移動の足枷となっているものと容易に想像できる。現に、別添の茨城県職員を対象としたアンケート調査の結果においても、その傾向が顕著に表れている。
これに関連するが、退職金や年金の問題もある。現行の退職金や年金制度は、途中で官から飛び出すことを前提としていないため、官から飛び出すと経済的な損失が大きくなってしまう。これは事実上、終身雇用制を前提としているためであり、職としての安定性の問題と同様、官から民への人材移動の阻害要因の1つとなっている。
また、職員の能力意識の問題もあろう。前出の茨城県職員アンケート調査結果においても、「自分は民間では通用しない」「民間で通用するかどうか不安」を理由として、民間への転職は考えられないとしている職員が多く存在した。その理由の多くが、「専門性を高める育て方をされておらず、民間で通用する専門性を有していない」であったことを考えると、自治体におけるゼネラリスト型の育成パターンも阻害要因の1つと考えられる。
2.2.3 主な阻害要因 −その2 民間の都合―
このような阻害要因を克服して公務員が民間に転出しようとした場合でも、民側の評価が阻害要因になる場合がある。公務員の転職を支援している人材コンサルタントの山本直治氏によると[11]、民間企業における公務員の一般的なイメージは、以下のとおりである。
・ ゼネラリスト育成型の人事異動パターンの結果、専門性が低い
・ コスト意識・競争意識がない
・ 与えられた仕事しかしない=仕事を取って来られない=営業ができない
・ 安定している(=公務員を辞める人は変わり者、堪え性がない、何か特別な事情を抱えている、など)
これを見ると、民間企業は公務員について非常に醒めた目で見ていることがわかる。このような心理的障壁を乗り越えてまで採用されるには、それなりの能力・経験が必要である。同氏によると、公務員が民間に採用されるためには、専門的な能力・経験を有することが必須とのことで、前出の茨城県職員の実感は的を射ていたことになる。特に、35歳を超えると管理職あるいはその一歩手前での採用になるので、給料に見合った専門的知識・経験を有していることが強く求められる。逆に、30歳未満であれば、専門性を有していなくても将来性を見込んでの「ポテンシャル採用」として採用されることもある。なお、どのような分野が採用されやすいのかについては、以下のとおりである。
・人事:役所の人事仕事が異動・配置中心なのに対し、民間の人事は育成中心なので、経験ありとは見なされない。人材育成の経験があれば採用の可能性がある。
・経理:役所の会計は独特なので経験として見なされない。簿記資格を有するか、企業会計が理解できれば、採用の可能性がある。
・総務・庶務:庶務的業務は民間にも当然あるが、役所の総務の知識・経験は、わざわざ中途採用するほど評価すべきものではない。
・法務:役所の法務と民間企業の法務とは内容が異なるので、経験とは見なされない。また、法務系の専門家は非常に多く、競争が激しい。
・営業:企業誘致など、法人営業の経験があれば、営業職での採用可能性がある。
・企画系:行政系のシンクタンクやコンサルタント会社は、特定分野に詳しければ最も採用可能性の高い分野である。
・技術系:現場経験しか経験と見なされない。技術は日進月歩の世界なので、技術の現場を離れて事務的な仕事に従事していると、そのブランクを問われる。また、退職後すぐに関連業者に就職することは倫理上問題がある。
3 解決方策の例
3.1 退職手当計算方法の特例制度の整備
退職手当制度については、例えば国家公務員が自己都合退職した場合の支給率は、10年勤続者に比べ、20年勤続者はその4倍、30年勤続者は7倍、40年勤続者は9倍[12]と、勤続年数が長いほど上昇しており、加えて、支給率に乗じるべき月額給与も普通は勤務年数が長いほど高額であることから、より長く勤務する方が有利となっている。
つまり、今のまま勤めていれば加速度的に退職手当の額が上がるということは、敢えて自ら職を辞して民間に転籍することにはマイナスの要因となる。これについて、いわゆる市場化テストの根拠法である公共サービス改革法では、国家公務員が一時的に民間に転籍した後に再度国家公務員として採用された場合、退職手当の算出に際して期間を通算する特例[13]を設けている。これは、官民競争入札等で落札した民間事業者が、事業の円滑な実施、業務遂行の方法についてさまざまな創意工夫を行う観点から、それまで公共サービスの実施に従事していた公務員の受入れを希望する場合を考慮してのものである。国にとっても、これに応じることは、@良質な公共サービスをより低いコストで提供するという官民競争入札等の目的にも合致し、A公務に復帰した場合のフィードバックも期待できることから、人の移動を円滑化するための措置としての特例である[14]。
これに対し、地方公務員の退職手当は、各地方公共団体の条例に基づいて支給されるため、市場化テスト法では特例などは定められておらず、各地方公共団体において、このような特例が必要と判断した場合には、条例で同様の措置を講ずることになるものと考えられている[15]。これについては、2006(平成18)年4月の総務大臣の国会答弁[16]において、「地方公務員についても同様の取り扱いが適当である」との見解が示されているところであり、各自治体の積極的な取り組みが期待されるところである。
なお、このような規定は、現在のところ市場化テストの場合に限って議論されているところであるが、有為な人材を官民の垣根を越えて適材適所に配置するためには、このような規定を広く一般に適用することが必要である。
3.2 年金制度の一元化
わが国の公的年金制度は、国民年金制度と被用者年金制度に大別され、被用者年金制度は厚生年金保険制度と3つの共済年金制度から構成されている。
<図1 公的年金制度の概要>
出所:地方公務員共済組合連合会ホームページ[17]
このうち、地方公務員に適用されるのが地方公務員等共済年金であり、民間企業従業員の多くに適用されるのが厚生年金である。たとえ転職しても、国民年金、厚生年金、共済年金の合計加入期間が25年になれば、それに応じた年金を受給することができるようになっている。
<参考:地方公務員共済組合における退職共済年金受給資格>
@
65歳以上であること A
1年以上の組合員期間を有すること B
組合員期間等※が25年以上であること ※「組合員期間等」とは、地方共済組合の組合員期間(国家公務員共済組合を含む)、国民年金法に規定する保険料納付済期間(厚生年金の被保険者期間及び私立学校教職員共済制度の加入者期間を含む)、国民年金法に規定する保険料免除期間、国民年金法に規定する合算対象期間、を合算した期間をいう。
出所:地方公務員共済組合連合会ホームページ[18]
これについては、2006(平成18)年4月に共済年金と厚生年金の一元化の基本方針が閣議決定[19]され、12月には与党年金制度改革協議会において2010(平成22)年度に共済年金を廃止して厚生年金に一元化するとの合意がなされた[20]ところである。今後は、この方針を基にして、2007(平成19)年の通常国会に関連法案が上程される予定となっていることから、近い将来、問題は解決に向かうものと考えられる。
3.3 公務員採用・育成方針の見直し
これまで地方公務員の人材育成といえば、新卒者を定時に一括採用し、自治体内部におけるジョブローテーションとOJT[21]により広い視野と知識・経験を見につけさせる手法により、ゼネラリストを育成するのが一般的であった。しかし、近年の行政ニーズの多様化・高度化に伴い、あらゆる分野で機動的に質の高い人材を確保することが極めて重要となっている。特に、行政ニーズの多様化・高度化に伴って新たに生じた行政サービスについては、当然のことながら自治体内部にその分野の専門家は存在しない。そのような場合、研修等による内部人材の育成も重要であるが、短期間での育成が困難で、かつ、既に民間の方が優秀な人材を多く輩出している分野においては、民間から当該分野に精通した人材を即戦力として新たに採用する方がより効果的・効率的である。
したがって、民間での知識・経験を有する人材を機動的に採用するため、採用枠の一部を新卒者対象から経験者(中途採用者)対象にシフトすることが求められる。それとともに、中途採用された特定分野のスペシャリストの処遇を考慮し、終身雇用を事実上前提とする制度から、終身雇用を前提としない制度へのシフト(あるいは両者の並立)の検討も必要となろう。例えば、自治体内におけるキャリアパスについては、これまでの新卒採用→内部育成・昇任のパターンから、即戦力採用→特定ポストへの任用・年功による昇任なしのパターンへ移行することが望ましいと考える。
なお、これは決してゼネラリストの存在そのものを否定するものではない。これまで、自治体では新卒者を中心とする新規採用職員に多くの異なる分野の業務を経験させ、幅広い業務に通じたゼネラリストとして育成してきた。しかし、近年の行政ニーズの多様化・高度化により、ゼネラリストとしての自治体職員が有するべき知識が質・量ともに大きく拡大し、1人が蓄積できる限界量を超えつつある。そうなると、既に民間企業がそうしたように、各人の担当分野を狭めてスペシャリスト化することが必要となる。
ただし、スペシャリストを多く抱えることは、組織や業務手法、視点の硬直をもたらすとともに、環境の変化に対する対応力の低下をももたらす。したがって、それらを統括する行政経営のスペシャリストが必要である。これはあくまで多分野に精通した従来型ゼネラリストではない。各分野に精通したスペシャリストを「縦軸(縦方向)のスペシャリスト」とすれば、各分野のバランスをとりながら全体最適を考えて行動する行政経営のスペシャリスト、いうなれば「横軸(横方向)のスペシャリスト」である。なお、このような人材の供給源としては、アメリカにおいて同種の働きをしているシティ・マネージャー等の多くが行政管理系の大学院を修了しているのと同様に、日本においても近年設立が進んでいる政策系・公共経営系の専門職大学院が大きな役割を果たすことを期待される。
これまでも各部局横断の組織を創設して自治体全体を統括する事例は多く見られたが、そこで従事する職員は選ばれたエリート職員ではあっても、決して経営のスペシャリストではなかった。図2のような人事パターンにより各部局職員の専門性を高めつつ、全体最適を図る試みはこれまでなかったのではないかと思われる。
<図2 「横方向のスペシャリスト」と「縦方向のスペシャリスト」>
← 横のスペシャリスト
・・・・・ ← 縦のスペシャリスト
福 商 環 農 土
祉 工 境 業 木 (出所:著者作成)
3.4 自治体による転籍支援
官民を問わず、何がしかのスキルやノウハウをもった人材は社会的資産であると言える。自治体で働く職員にもそれなりのスキルやノウハウを持つ者がおり、その技能・知識の蓄積、つまり人材育成には多額の税金が投入されている。それを考えずに、余剰人員となった者を、内部配置転換によりまったく違う分野でゼロからスタートさせるのは、これまでの投資が失われることであり、社会的に見て大きなコストの損失である。したがって、余剰人員を最も効果的に活かすのは、これまで官が担っていた業務を引き受けることになる民間企業に転籍させることである。
ところで、民間が新たに官の業務を担う場合、通常は最初の数か月間は移行期間として元々従事していた職員と民間の社員とが技術移転のため同時に働くことが多い。そうなると、人的コストは一時的ではあるがこれまでの2倍近くになる。それを避けるためにも、元々働いていた職員はそのまま民間に転籍してもらうのがベストである。しかし、そこでネックとなるのが、当該職員の給与水準であろう。公務員時代と民間移籍後とで大きな差があって、それを是正するため給与を引き下げるのであれば誰も転籍しないし、逆に従前の給与水準を維持するのであれば引き受ける企業は通常あり得ない。
それを解決する1つの手段として、その差額を自治体が補填することが考えられる。民間企業が人員整理で子会社や関連会社に余剰人員を引き受けてもらう場合、従来の給与との差額を定年まで補填する形で引き受け先企業に金銭を支払うことがある。それと同様に、自治体が職員を受け入れてくれる企業に公務員時代との給与差額を補助金のような形で交付するのである。それにより、たとえ一時的にコストが上昇しても、長いスパンで見て人員削減の効果がそれより大きいのであれば、官民トータルの社会的コストの面から見ても効率的であると思われる。
なお、特定の民間企業に補助金を交付することについて、税金の使途の観点から是非が問われる可能性がある。これについて、補助の対象となる企業はこれまで官が担っていた業務を引き受けることになる民間企業であり、その選定には通常は入札などの競争が伴うことから、予め入札条件にその旨を入れておけば単なる契約条件の1つに過ぎず、落札した者がその利益を得るのであるから、恣意的な補助とはなり得ない。また、受入企業も、受け入れた公務員が定年を迎えるまで雇用しなければならないリスクを補助と引き換えに負うのであるから、特段の利益とも言えない。
あるいは、民間に転籍した公務員の収入を税金を使っていつまでも保障することについても批判が予想される。これについては、感情的な問題もあって対応が難しいが、前述のとおり、広い視野の下で補助金総額と人件費削減効果との比較考量を行い、人件費削減効果の方が大きいことを示しつつ、補助がなければ余剰人員をいつまでも抱え続けることになる財政的・社会的デメリットを示すことで解決できるものと考える。
4 地方公共サービス人材市場の形成へ
4.1 労働市場とは?
労働市場とは、「資本主義下で、労働者と使用者により、需要・供給の法則に従って労働力を取引商品として形成される抽象的な市場」と解釈される[22]。理論上は、外部労働市場論(古典的労働市場論)と内部労働市場論があり、前者は、職種別の等質的な労働力が企業等を自由に出入りするマーケットと捉え、後者は、企業の内部に一般外部労働市場とは遮断された独自のマーケットがあると考えるものである[23]。
わが国のように終身雇用制や年功序列型の賃金システムをとるところでは、企業の内部に労働市場が存在していると考えられている。この考えによれば、企業の中で必要とされる技能は特殊かつ当該企業固有のものであるため、内部育成された社員が他企業へ移籍してもその価値は低く、転職の可能性は低いとされる。また、内部育成により習得された知識・経験が昇給・昇格に結びついており、年功序列的な賃金制度のもとでは一つの会社にずっと長く勤めた方が有利であるとの判断も働くようになる[24]。
これに対し、例えば米国においては、雇主と労働者の行動によって労働サービス(労働力)の需給が決まる「外部労働市場」のメカニズムが働いている。雇用の流動性が高く、転職や中途入社が頻繁に行われるような社会ではこの外部労働市場型の人材調達メカニズムが機能しており、米国の労働者は少しでも自分の商品としての価値を高めることに努め、また、大学院での教育システムなど社会の仕組みも就職後の能力開発を可能とするように柔軟な構造となっている[25]。
ところで、これを地方自治体に置き換えてみると、外部人材の採用はごく一部であることから、ほぼ100%が内部労働市場型であると言えよう。これまで見てきたとおり、それを100%ではないにしろ、現在よりはかなり広範に外部労働市場型へ移行しようとするのが本稿のテーマである。したがって、以後、本稿において「労働市場」(あるいは「人材市場」)という場合には、特に注釈のない限り、外部型を指し示すものとする。
4.2
公共サービスの実施主体を雇主とする労働市場=「地方公共サービス人材市場」
これまで、地方公務員の従事する業務については、行政の永続性、広範にわたる法令知識、独特な文書事務や仕事の進め方などにより、民間とは異なる知識や経験が必要と考えられてきたため、地方自治体の人材任用については、内部労働市場型が適用されてきた。
しかし、財政危機等を背景に業務の効率化を追求する中で、IT、資金管理、観光、あるいは総務・管理部門など、民間と変わらない業務があることが認識されて民間へのアウトソーシングが進み、また、指定管理者制度や市場化テストの導入によって、さらに多くの業務が民間でも対応可能なことが明らかになった。そうなると、内部労働市場型を維持する理由は見当たらず、当然ながら民間も含めた広い人材市場から必要な人材を機動的に選ぶ方が効果的となる。
他方、労働者としての地方公務員の立場から見た場合、地方公務員が職を辞して民間人材市場に出たとしても、自治体内部で蓄積してきた知識・経験が民間でそのまま役に立つことが少なく、人材としての魅力に乏しいという状況にあった。しかし、市場化テスト等の導入によって自治体と民間の業務の垣根が低くなり、また、3.3で述べたように地方公務員のスペシャリスト化が進めば、地方公務員が民間で必要とされる場面も多くなろう。
そうなれば、現在の転職市場の中に、公共サービス分野での人材市場が形成されることが十分予想される。また逆に、官民間の人材流動を活発化させようとするならば、そのような人材市場が形成されるような施策を積極的に推進していく必要がある。現時点から見れば、遥か遠く彼方の目標と思われるかもしれないが、民間においても10年前にはまだまだ転職が一般的でなかった。それが、ここ10年間の転職市場の急成長は目を見張るばかりであり、今は民間では転職はごく当たり前のことになっている。これにはバブル崩壊後の企業再編というきっかけがあったのだが、公務員の場合、市場化テスト等の導入がそれに当たると考えられ、今後、公務員の転職が急速に一般化する可能性を秘めていると言えよう。
4.3
地方公共サービス人材市場の定義等
地方公共サービス人材市場の対象業務範囲は、従来、自治体が担ってきた業務全般であり、官民競争入札等の結果、民間が担うことになった業務を含む。したがって、雇主は、自治体及び民間企業・NPOなどの民間団体である。また、この場合の「公共サービス」とは、別に直接的な住民サービス業務に限らず、自治体業務一般の意味としての広義の行政サービスを指すこととする。
また、市場の構成要素は、公共サービスに従事しようとする人(供給者=売り手)及び公共サービス従事者を求める自治体及び民間企業・NPOなどの民間団体(需要者=買い手)である。加えて、場合によっては、仲介者たる転職斡旋会社の存在も考えられる。
ところで、能力要件のマッチングがうまくいった場合、売り手と買い手の妥協点は待遇諸条件、特に給与条件になろうかと予想される。しかし、どのくらいの水準が妥当なのであろうか。官民の転職市場が現存しない以上、民民転職の場合の相場観が適用されることになるのであろうが、今後、官民間の転職が活発化するようになれば、官民間である程度共通した相場観を有する必要が生じよう。これについて、当初は民民転職時の相場観と公務員給与を総合的に判断した水準が適用されることになろうが、市場が活発化するにつれ、市場原理に従って落ち着くべきところに落ち着くのではないかと考える。
4.4
市場形成のための諸条件
当然のことながら、売り手と買い手が揃って登場しなければ市場は成立しない。したがって、これまでも述べてきたように、公務員が民間に転出しやすくするような制度・環境整備、あるいは、民間から公務員への登用を増加させるための取り組みが第一である。また、受け皿もなくてはならない。自治体が積極的に中途採用を行うようになれば、それも1つの受け皿であるし、自治体業務が民間に流れればそれだけ公務員の転出機会も増えるため、市場化テストや指定管理者制度の積極的な導入を進め、公共サービスを担う民間企業・団体を増やすことも必要である。
そのようにして登場人物が整った後は、人材の需要と供給の個別マッチングを円滑に進めるためのコーディネーター役が必要である。官が旗振り役となって、ハローワーク等でそのような斡旋業務を行うことも可能であろう。また、転職斡旋会社や人材コンサルタントの活用も考えられるが、そのような場合、一般に転職後の初年度年収の30%程度を手数料として雇主が支払わなければならないと言われている。それを避けてコストを抑えようとするならば、ウェブサイトの活用が考えられる。既存の転職情報サイトでは、潟潟Nルートの「リクナビNEXT[26]」やエン・ジャパン鰍フ「エンジャパン[27]」、転職ポータルサイトの「ジョブダイレクト[28]」や「仁王[29]」などが有名であるが、中には数十万円以上とも言われる掲載料が必要とされるところもある。このほか、公的機関やボランタリーベースでのサイトについて見てみると、例えば国連関係機関などの国際公務員については、求人情報のリストが外務省国際機関人事センターのホームページ[30]に掲載されており、総務省では国家公務員人材と民間求人とをマッチングするための「国家公務員人材バンク[31]」をホームページ上に設置している。また、2.2.3においてインタビュー内容を記述した山本直治氏が主宰する公務員のための転職支援サイト「役人廃業.com[32]」には、「役ナビ[33]」という公務員向け求人情報を整理して掲載するブログも既に用意されている。このような手法は民民の転職でも非常に効果的に利用され、安価で効率的なマッチングが可能であって、公共サービス人材市場の形成に際しても非常に大きな役割を果たすものと考えられる。
<図3 外務省国際機関人事センター
国際機関職員募集ホームページ>
<図4 公務員向け就職情報サイト「役ナビ」>
4.5
市場形成のデメリット
市場が形成され、官民間の人材流動化が進展した場合のデメリットとして、自治体の優秀な人材が民間に流れてしまうことが考えられる。自治体にとっては痛手であるが、人材市場内での転職ということであれば、広い目で見れば公共サービスに携わることは変わらず、住民の視点から考えれば特段のマイナスではない。
流動性が高まって担当者が頻繁に入れ替わるようなことがあれば、業務の継続性確保が困難になったり、秘密情報の流出危険性が高まったりすることも考えられる。しかし、これはマニュアルや引継書面をきちんと整備するとともに、雇入時に守秘義務を明示して誓約を求める、違反時の罰則規定を厳しくするなどの措置を講ずることで対応が可能であると考える。民間からの中途採用者には生え抜き公務員のような厳格な倫理意識が身につかないのではとの危惧も一部にあるようであるが、生え抜き公務員だからといって全員が厳格な倫理意識を有しているとは限らず、逆に、中途採用で敢えて公務員を目指す者の中には公務への高い志を持っている者も多い。仮にそのような危惧がどうしても残るようであれば、採用後の研修等により公務員としての倫理意識の取得・向上を図ることで対応が可能である。なお、行政の継続性について、NPMの導入によりクローズド・キャリア・システムからオープン・キャリア・システムへの転換が進んだニュージーランドでは、短期間で業績を上げようとする傾向が強まり、長期的視点からの政策立案を求めることが難しくなったとの指摘がある[34]。これは、転換を急激に進めたための弊害であり、本邦においては当面はクローズド・キャリア・システムとオープン・キャリア・システムの並存を図りつつ、オープン・キャリア・システム上、次のポストにステップアップするために不可欠な業績の向上についても、当面はその評価を弾力的に行うことで対応すべきと考える。
また、終身雇用制が崩れ、中途採用者が増加すれば、誰が育成するのかという問題も生じるであろう。日本型終身雇用制は内部での人材育成に優れた制度である。これが崩壊すし、育てても外部に流出するとなれば、誰も内部人材育成に尽力しないという結果を招きかねない。当面は、終身雇用制が完全に崩壊するほど人材流動化が進むとは思えないが、仮にそうなった場合には、人材を社会全体の資産として捉え、いずれ外部流出するにしても、社会全体への貢献は変わらないとの考えを社会全体が共有して育成に当たることが肝要である。
ところで、官民流動化のデメリットとして最も深刻なのが非正規雇用者の増加である。自治体等の正職員であった者が、業務の民間化に伴って転籍した場合、多くがそのまま正規雇用者として雇用される。しかし、臨時職員として契約を更新してきた者については、民間転籍に伴ってパート職員化され、給与水準が大幅に下がってしまう事例が(独)国立病院機構などで出てきている[35]。受託した民間企業にしてみれば人件費は可能な限り抑制したいと考えるのが当然であるが、正規雇用者と非正規雇用者との収入格差が大きな問題となっている昨今の情勢を鑑みるに、労働政策上、一定の配慮が必要であると考える。
これとも関係するが、官と民とでは追求するものが大きく異なり、どんな成果が求められるのか、業務遂行に際して何を優先すべきか、などの考えも大きく異なるため、必要とされる職員像も大きく異なる。また、法に守られた公務員と民間の労働者では労働環境も大きく異なるため、官民をまたぐ人材市場の形成にはそういった点についても留意が必要である。
4.6 地方市場の特色
このほか、地方における人材市場の特色についても留意が必要である。地方公務員の中には、長男であるなど何らかの事情で実家近くに住み、働かざるを得ない事情を抱えるものが少なからず存在する。それを考えると、転職による移動範囲は、通勤可能な範囲にとどまることになろう。
また、前に述べたとおり、地方人材市場への国家公務員の進出も考えられる。特に、地方支分部局の職員については、国の機関の整理・統合や、道州制への移行可能性等を勘案すると、市場参加の機会は十分にある。あるいは、総務省の自治部門の職員が「行政経営のスペシャリスト」として市場に参加してくることも十分予想される。十分な知識・経験を有する者であれば、これは受け入れる自治体、民間企業・団体、あるいは最終的なサービスの享受者である住民にとっても大いに喜ぶべきことであり、逆に、地方公務員は国家公務員に負けないよう(=市場での商品価値が劣らないよう)日頃からの努力・研鑽が求められる。
5 官民間の人材流動化を促進するための提言
多様化・高度化する行政ニーズに的確かつ迅速に対応するため、外部の有為な人材を機動的に採用する必要性が高まっている。また、指定管理者制度や市場化テストの導入によって官の業務が民間にシフトし始めているが、人件費の削減と人的資産の有効活用を図るためには、業務とともに人材も民間にシフトすることが必要である。
そのためには、官民それぞれの枠に縛られない適材適所の人員配置を推進すべきであり、短期的には官民間の人材流動化のより一層の推進を、中・長期的には公共サービス分野における人材マーケットの形成を図る必要がある。以下にその具体的施策を10本、導入プロセス順に示す。
5.1
STEP 0:人材流動化に対するアレルギーの払拭
転職が身近なものになりつつある民間と違い、一生を同一自治体内で終えることがほとんどの地方公務員にとって、雇用の安定を揺るがしかねない人材流動化には、たいへんなアレルギーがあるものと思われる。これは、前述の茨城県職員アンケートにおいて、手厚い身分保障から離脱することへの不安が民間転出の大きな阻害要因となっていることからも明らかであり、特に、民間人材との競争については、「専門性を有する民間人材とは互角に争えない」とする意見が多く、非常に不安視していることが読み取れる。
したがって、官民間の人材流動化を図る前に、まずは自治体内部での人材流動化、つまり自発的な意思による異動に慣れ、さらには近隣自治体間の人材移動の促進を図り、人材流動化へのアレルギーを払拭することが先決であると考える。その際には、官民問わず、どこに行っても有用な人材として認められるように、職員が自律的にキャリア・デザインを描けるようにすることが求められる。
自治体内部における本人の自発的意思による異動を促進する手段としては、庁内公募制が多くの自治体で実施されている。しかし、これは公募対象となるポストが執行部によって選定(限定)されており、本人の完全なる自由意思によって異動を促進するものとは厳密には言い難い。中には、実施はされたものの、人気部署はまったく含まれず、誰も行きたがらないような部署の仕事ばかりで、制度が形骸化してしまったところもあると聞く。
職員の完全な自由意思による異動を促進する手段としては、庁内フリーエージェント(FA)制度や庁内ジョブポスティング制度がある。それらの概要と実施に際しての留意点等について以下に述べることとする。
【提言1 庁内フリーエージェント制度の導入】
日本でFA制度と言えばプロ野球のイメージが強いが、プロ野球のそれがFAを宣言した者に対して球団がオファーをかけるというシステムであるのに対し、一般企業におけるFA制度は、社員から希望部署にアプローチを掛ける点が大きく異なる。
庁内FA制度は、一般企業のそれと同じく、職員が社内すべての業務の中から従事したい業務を自ら選択し、その担当部署に自身を売り込む制度である。既に多くの自治体で実施されている庁内公募制が公示された部署/業務に応募する「庁内求人型」であるとするならば、FA制度は庁内すべての部署・業務を対象として職員が選択可能な「庁内求職型」であると言えよう。
民間では既に多くの企業が社内FA制度を採用しており、例えば、先進的な制度で知られる東芝においては、2002(平成14)年度から図5のとおり実施している。
<図5 東芝における社内FA制度の実施フロー>
出所:辻 雅英「東芝のグループ内公募制度・社内FA制度」を参考に著者作成
FA制度の大きな特徴の1つは、人事部局が主体的に関与せず、あくまで各部署と応募者の直接のやりとりで話が進められることである。同社においては、選考結果が出て本人の最終意思確認がなされた段階で初めて対象社員の現所属部署に連絡が届く。現所属部署は成約した異動を拒否することはできないが、人的リソースの減少及び過去の育成投資に対する補償として、対象者の年収の5割をトレードマネーとして異動先部署から受け取ることができる。なお、これには、「それだけのお金を支払ってでもほしい人材か否か」を受入先に十分吟味させる趣旨もあるとされている[36]。
東芝の例にある「社員」を「職員」に置き換えれば、自治体の話としてもまったく違和感がない。つまり、実施時季等の問題はあるとしても、これをほぼそのまま導入することが可能であると考えられる。トレードマネーについても、庁内各部署が民間企業のカンパニー制のようにそれぞれの経営責任を明確にし、コスト意識の醸成と効率的な運営を図るためにも、人材に対する補償として予算枠を一部譲渡するのは有効であると考える。
【提言2 庁内ジョブポスティング制度の導入】
ポスティング制度と聞いて、まず浮かぶのはやはりプロ野球選手が大リーグに移籍する際に実施されるポスティング制度であるが、ここで言う「庁内ジョブポスティング制度」は、「庁内公募制度」の発展型とも言うべきものであり、特定のポジションについて当該部署から募集がなされ、それに対して我こそはと思う職員が応募するシステムである。
民間でもいくつかの企業がジョブポスティング制度を導入しており、その中でもアメリカン・エクスプレスにおいては、1954(昭和29)年の日本進出以来、人事異動はほぼ100%が同制度により図6のフローのとおり行われている。
<図6 アメリカン・エクスプレスにおける社内ジョブポスティング制度の実施フロー>
出所:木名瀬 武「アメリカン・エクスプレスのジョブポスティング制度」を参考に著者作成
このシステムは、米国に本社を持つ企業であるため完全な米国型モデルとなっており、そのまま日本の自治体に当てはめることは困難である。このモデルが成立するためには、その前提としてすべてのポジションにジョブ・ディスクリプション(職務記述書)が整備されるとともに、職務等級と給与レベルが決定されていなくてはならず、それなくしては業務内容と待遇の明示が困難となる[37]。しかし、その完全な実施は、職能給制度から職務給制度、つまり終戦直後に法律まで制定されながら公務員への導入が見送られた職階制への移行を意味することになる。職階制については、@職務記述書及び職務給の整備・改定作業に莫大な手間がかかる、A人事配置や組織編成の硬直化を招く、B職務記述書に記載された仕事に明確な責任を負う一方で、それ以外は職責外とするなど蛸壺化が進む、などの懸念があるところであり、そのままの形で導入することには未だ異論が強い。
したがって、このモデルを日本の地方自治体に導入する場合には、提示される職務内容と待遇は弾力的な記述にせざるを得ず、その結果、ある程度の記述が可能となる一定ポジション以上への適用となろう。そのため曖昧さが残るのはやむを得ないが、以下のとおり、それでもこの制度を導入するに値する大きなメリット[38]がある。
・ 基本的に自分の選択でそのポジションにいることになるため、強いられてその仕事をしているということが言えず、モチベーションの向上が期待される
・ ジョブポスティングの選抜プロセスから、自治体内での自身の評価を客観的に知ることができる
・ 管理職は自分の部署に応募者があるように魅力的な職場を作ることが求められ、その結果、職員満足度が高いものになる
・ 外部に人材を求める前に内部公募を行うことで、結果的に外部から人材を採用することになっても、迎え入れる職員の納得度が高くなる(拒否反応が低くなる)
ただし、その実施に際しては、以下の各事項を遵守する必要がある。これなくしては、その実効性は担保されない[39]。
・ キャリア形成は各自の責任であり、当該制度を利用して他部署へ異動する者を温かく送り出せる雰囲気・風土の醸成に努めること
・ 各部署のリーダーに当該部署の経営者としての自覚を促すため、人事業務(人材確保業務)は人事部局に任せるのではなく、部署のリーダーの業務とすること
・ キャリア形成は各自の責任であることから、落選者から求めがあれば以後のキャリア形成の参考に審査結果を開示すること
【提言3 広域的な人事管理制度の導入】
現在、自治体間の人材移動としては、研修としての交流人事や県職員が市町村の助役[40]や課長として出向などがあるが、これらはいずれも本籍を元の自治体に残したままの移動であり、また、本人の意思というよりは業務命令による配置転換の一環であって、本稿が目指すところの人材移動ではない。
人員管理の効率化には、スケールメリットを活かす点から、市町村合併や広域連合、道州制の進展が期待されるところである。しかし、現状が当面続くと仮定した場合、複数自治体が共同で人事管理を行う一部事務組合を設立することも考えられる。ただ、組合で事務を行うにしても、任用行為は各自治体ごととなるので、自治体間を跨いだ異動は、形式的には現在の交流人事のような派遣形式か、あるいはフランスのように一歩進んで転籍まで認めるか、ということになろう。いずれにせよ、そこで前項のようなFA制度やジョブポスティング制度を実施すれば、これまでより大きな人材市場が形成されることになる。実際に、結婚やUターンなど、自治体間の転籍を希望する者も少なからず存在しており、また、自分の能力を活かす業務は今の自治体には存在しないが、他の自治体には存在するというようなことも考えられるため、隠れたニーズは一定以上存在するものと考える。
そこまで実現すれば、当該区域で公共サービスを担っている民間企業・団体も含めた「公共サービス人材市場」の形成まであと一歩である。
5.2
STEP 1:すぐに着手可能な官民間の人材流動化施策
【提言4 自治体における中途採用の拡大】
官民間の人材流動化を図るため、まず民→官への流れを現在よりも大きくする必要がある。中途採用については、特にそれを妨げる法令上の規定はないため、各自治体の取り組み次第ということになる。なお、東京都では既に中途採用拡大の方針を打ち出しており、2007(平成19)年度採用試験から、民間企業等でのキャリアや実績を活かしてもらうため、政策ニーズに合わせた分野で専門性の高い人材を適切に確保・活用するための「専門人材採用試験」を実施することにしている[41]。
また、中途採用者の速やかな定着を図るため、役所独特の言葉遣いや慣行を改めることで疎外感を、実力主義の徹底により妬みを、それぞれ排除することで、閉鎖社会的な雰囲気を一掃することも重要である。
【提言5 自治体人事育成方針の見直し】
提言4とは逆に、官→民の流れを創出するため、地方公務員が民間に転出できるような条件整備を行う必要がある。公務員が民間に受け入れられにくい理由の1つに専門性の不足があるため、それを克服できるような人事育成方針、人事異動パターンの見直しが不可欠となる。つまり、浅く広くのゼネラリスト型人事からスペシャリスト型人事への移行である。ただし、スペシャリスト偏重型では視野が狭くなり、全体最適を図ることが難しいという難点があるので、両者共存型の複線型人事パターン(本稿p.9 図2参照)が理想である。
5.3
STEP 2:制度改正を伴う官民間の人材流動化施策
【提言6 自治体の退職金制度、年金制度等の見直し】
勤務期間(共済組合加入期間)が長ければ長いほど支給額が高くなる両制度は、官→民の異動を妨げる要因の1つであるため、これらを見直すことも検討すべきである。その場合、自治体の条例改正で対応可能な退職金については、年数が多くなるほど加速度的に金額が伸びる計算方法を見直すとともに、一時的に民間に出て再度自治体に採用された場合に退職手当算出期間を通算する特例制度を制定することが考えられる。また、年金については、共済年金と厚生年金とを一元化する方向で次期2007(平成19)年通常国会への法案上程が予定されているため、その推移を見守ることとする。
【提言7 自治体による転籍支援】
有為な人材は社会全体の資産(人財)であり、自治体内部で燻らせているくらいなら民間で有効に活用すべきである。そのためには、職員が自ら民間に転出できるような環境づくりが必要であり、それは自治体が余剰人員をいつまでも内部に抱えるリスクを減らすことに貢献するという付随的効果も生む。このような点を考慮し、従来、官が担っていた業務を落札した業者が自治体職員を受け入れる場合、従来の給与水準を保証するため、その差額を自治体が交付金等の形で補填することも必要である。
5.4
STEP 3:発想の大転換が必要な官民間の人材流動化施策
【提言8 自治体への就職から、特定ポストへの就職へ】
官民間の人材流動化には、自治体職員のキャリアパスの見直しも必要である。新卒採用→内部育成・昇進のパターンでは対応しきれず、外部から有為な人材を登用する場合には、それなりのポジションで遇することが一般的であるが、それが増加すれば新卒採用→内部育成・昇進型との整合性を図るのが困難となる。そのため、原則としてすべてのポジションの任用は、まずは自治体内部を対象に、それで埋まらなければ外部人材を対象に公募で行うこととし、その実施に際しては提言2の庁内ジョブポスティング制度を活用する。
<図7 採用・昇進パターン概念図>
(従来型:内部選考) (将来型:内部公募と外部公募の併用)
(出所:著者作成)
【提言9 公共サービス人材市場の形成促進】
自治体内の全ポストを公募で任用することになれば、それなりの転職市場が形成されることが予想される。また、公共サービスを担う民間企業・団体への就職も、同じ転職市場で賄うことができるため、公共サービス分野における人材市場の形成が期待される。
そのためには、提言5に示したように、売り手たる公務員の資質向上を図ることが不可欠であるとともに、買い手の整備−市場化テストや指定管理者制度の積極的な導入による参入民間業者・団体の増加−によって公共サービスの担い手の育成を図ることも不可欠である。加えて、新たな公共サービスの担い手は、こういった民間企業・団体だけではない。欧米では、政策系シンクタンクなど多くのNPOが設立され、活発な活動を展開している。日本でも一部のNPOや地縁団体が指定管理者に指定されている例があるが、まだまだ少数である。日本とは寄付等に対する考え方の相違もあるが、今後は、非営利団体の育成も公共サービスの担い手=人材市場における買い手の整備の観点から重要であると考える。
<図8 公共サービス人材市場概念図>
(出所:著者作成)
【提言10 民間事業者の活用等】
市場を形成しただけでは、それが活用されるかどうかは不透明である。民間転職市場においても、仲介業者や情報媒体等の発展と対応するように市場が拡大したことは事実である。したがって、当市場についても、それを扱う情報サイトの整備や転職支援業者の参入が必要である。まずは、ハローワークにおいて積極的な広報を図るとともに、転職情報ポータルサイトを設置して各方面に積極的な掲載を働きかける。加えて、転職支援業者への働きかけを進めるとともに、自治体自らが利用者となり、官民間の人材移動(転職)の取り扱いに力を入れてもらうことも重要である。
6 おわりに
2006(平成18)年12月7日に開催された経済財政諮問会議[42]において、民間有識者議員[43]から以下の提案[44]がなされるなど、国家公務員については官民交流の議論が活発化してきている。
・
官民間の人材移動を抜本的に拡大するという方向性は重要
・
若い時点から官と民の垣根を低くするキャリアシステムを構築し、大学・民間等でも活躍できるようにすべき
・
現在の「国と民間企業の間の人事交流に関する法律」は、一時的な交流を想定した法律であるため、これを抜本改正し、官民間の人材流動化の障害となっている諸制度(給与・年金・退職金など)を官民のイコールフッティング実現の観点から見直すべき
・
具体的には、公務員の賃金や退職金の勤続年数に比例した上昇ペースを抑制し、民間への転出が著しく不利にならない状況を整える、民間の優秀な人材の受け入れの障害とならない給与制度など
また、これを受けて、同会議の席上、安倍総理大臣から「新しい時代の公務員制度改革のあり方として、官と民の人材移動を抜本的に拡大する必要がある」旨の発言があり[45]、また、佐田公務員制度改革特命大臣も「支援体制の整備等により、官民間の人材移動の抜本的拡充を図る」との方向性を示した[46]。加えて、菅総務大臣からも「官民交流の抜本的拡大を図るため、来年度から国・経済界・有識者等からなる官民交流推進体制を整備する」ほか、「地方公務員についても、国家公務員における公務員制度改革の検討も踏まえ、改革を推進する」との方向性が示された[47]。したがって、地方においても官民間の人材流動化が進展し、公共サービス人材市場が形成される気運が近い将来高まることが期待される。
ところで、業務を民間に委ねることによって生じる余剰人員については、いわゆる2007年問題で団塊の世代(1947年〜1951年生)が大量退職することを受けての配置転換で吸収可能とする見方もある。地方公務員一般職の60歳退職者数を見てみると、確かにここしばらく年3万人ペースで推移していたのが、年7万人ペースにまで増加する見込みである。しかし、市場化テスト等の導入により、今後、官の業務が民に委ねられるスピードはますます加速し、逆に退職者数は団塊の世代の退職が一段落すれば元のペースに落ち着くことになろう。したがって、来年度から各自治体で本格導入される市場化テストの結果によっては来年度から、あるいは、遅くとも団塊の世代の退職が一段落する2011年度を過ぎれば、多くの余剰人員が自治体内にとどまることになる。現在、多くの自治体にはそのような余剰人員を抱えておく財政的余裕はない。「官から民へ」の流れが急速に進展し、小手先の改革では対応しきれないほどの大きなパラダイム転換期が到来しつつある。官が担うべき業務は何で、それを遂行するためにはどのような組織が必要なのかを明らかにした上で、早急に抜本的な対策=官民間の人材流動化を図る必要があると考える。
<図9 地方公務員一般職60歳退職者の推移>
出所:内閣府「今週の指標No.654 団塊世代が大量退職を迎える地方公務員」2005年9月5日付
【参考文献】
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城 繁幸(2006)、『若者はなせ3年で辞めるのか?年功序列が奪う日本の未来』、光文社
片岡 寛光(1998)、『職業としての公務員』、早稲田大学出版部
大森 彌(2006)、『官のシステム』、東京大学出版会
中野 雅至(2006)、『間違いだらけの公務員制度改革』、日本経済新聞社
樋口 美雄(2001)、『人事経済学』、生産性出版
八代 尚宏(1999)、『雇用改革の時代』、中央公論新社
佐野 陽子(1989)、『企業内労働市場』、有斐閣
日本経団連出版編(2004)、『社内公募・FA制度事例集』、日本経団連出版
内閣府、「今週の指標No.654 団塊世代が大量退職を迎える地方公務員」2005年9月5日付
読売新聞、「公務員も厚生年金 政府・与党方針」、2006(平成18)年11月27日付
週刊東洋経済(2006年12月9日号)、東洋経済新報社
【参考URL】
栗田学、「スペシャリスト育成と真のゼネラリスト」、大和総研ホームページ、http://www.dir.co.jp/publicity/column/060425.html、2006/12/1
年金の壷−国民年金・厚生年金等のツボを押さえる−、http://www.miyabi.jougennotuki.com/、2006/12/8
地方公務員共済組合連合会、http://www.chikyoren.go.jp/frame_layout/frame02.html、2006/12/8
外務省国際機関人事センター、http://www.mofa-irc.go.jp/、2006/12/8
総務省 国家公務員人材バンク、http://www.soumu.go.jp/jinji/jinzaibank/index.html、2006/12/8
役人廃業.com、http://www.yakuninhaigyo.com/、2006/12/8
役ナビ、http://www.yakuninhaigyo.com/blog2/index.html、2006/12/8
内閣府経済財政諮問会議、http://www.keizai-shimon.go.jp/、2006/12/8
[1] http://www.f.waseda.jp/
[2] http://www.f.waseda.jp/
[3] http://www.f.waseda.jp/
[4] http://www.f.waseda.jp/
[5] 人事院(2006)、『平成17年度年次報告書』による(特定独立行政法人、日本郵政公社等の職員を含む)
[6] 外から見れば当該分野のスペシャリストであるが、省庁内部からの視点で見れば、当該省庁内で様々な部局の業務を経験し、当該省庁内におけるゼネラリストとして育成されるものと考えられる
[7] 総務省(2006)「平成18年地方公共団体定員管理調査」による一般職の地方公務員数
[8]
http://www.f.waseda.jp/
[9] 城 繁幸(2006)、『若者はなせ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来』、光文社
[10] これについて、福嶋浩彦 我孫子市長は「民営化される事業に従事していた職員は、今後は民間企業の従業員としてその仕事を続けるのか、あるいは配置転換してでも公務員という身分を選ぶのか、そういう選択を迫られる時代になる」とコメントしている。(「週刊東洋経済 2006年12月9日号」)
[11] 2006(平成18)年12月9日、直接面談により聞き取り
[12] 総務省人事・恩給局、「国家公務員退職手当支給率早見表(平成18年4月1日以降)」、
http://www.soumu.go.jp/jinji/pdf/teate_t_gaiyo_2.pdf、2006
[13] 公共サービス改革法第31条
[14] 内閣府公共サービス改革推進室、http://www5.cao.go.jp/koukyo/kaisetsu/chikujyo/chikujyo5.pdf、2006/12/01
[15] 前出内閣府「公共サービス改革法入門編」p.59
[16] 2006(平成18)年4月7日 衆議院・行政改革に関する特別委員会における総務大臣答弁
[17] http://www.chikyoren.go.jp/frame_layout/frame02.html
[18] http://www.chikyoren.go.jp/frame_layout/frame02.html
[19] 厚生労働省、報道発表資料「被用者年金制度の一元化等に関する基本方針について」(2006(平成18)年4月28日付)、http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/04/h0428-4.html
[20] 読売新聞Web版、「厚生・共済年金一元化の最終案、自民と公明が了承」、2006(平成18)年12月8日付(http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20061208ia21.htm)
[21] On-the-job Trainingの略。職場内で行われる職業指導手法の一つ。上司や先輩が部下や後輩に対し、具体的な仕事を通じて、仕事に必要な知識・技術・技能・態度などを指導し、修得させる事によって、全体的な業務処理能力や力量を育成する活動。
[22] 三省堂、『大辞林 第二版』
[23] 法政大学大学院経営学研究科 佐野哲教授講義シラバス、http://www.i.hosei.ac.jp/~hbs/homng/index.html、2006/12/6
例えば、あるポストに欠員が生じたとき、古典的な理論では企業等はその職種の外部市場から従業者を調達するが、内部労働市場論によれば、社内もしくはグループ内からの異動や昇進で欠員を埋めることになる。企業規模が大きければ人材も豊富であると考えられ、特殊な技術が職場の訓練で培われるものであればあるほど、外部から調達するよりも合理的だと考えられるためである。
[24] 佐野陽子(1989)、『企業内労働市場』、有斐閣
[25] 同前
[26] http://next.rikunabi.com
[27]
http://employment.en-japan.com/
[28]
http://www.jobdirect.jp/
[29] http://nioh.jp/
[30]
http://www.mofa-irc.go.jp/
[31] http://www.soumu.go.jp/jinji/jinzaibank/index.html
[32] http://www.yakuninhaigyo.com/
[33] http://yakuninhaigyo.com/blog2/
[34] 稲継裕昭(2002)、「第5節 官僚システム」、宮川公男・山本清編著『パブリック・ガバナンス』、日本経済評論社
[35] 「週刊東洋経済 2006年12月9日号」、東洋経済新報社
[36] 辻 雅英(2004)「東芝のグループ内公募制度・社内FA制度」、日本経団連出版編『社内公募・FA制度事例集』、日本経団連出版
[37] 木名瀬 武(2004)「アメリカン・エクスプレスのジョブポスティング制度」、日本経団連出版編『社内公募・FA制度事例集』p.93、日本経団連出版
[38] 前出木名瀬(2004)pp.101-102
[39] 同前pp.100-103
[40] 地方自治法改正により2007(平成19)年4月から副市長
[41] http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2006/08/20g87200.htm
[42] 平成18年第28回会議
[43] 伊藤隆敏、丹羽宇一郎、御手洗冨士夫、八代尚宏
[44] 有識者議員提出資料、http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2006/1207/item4.pdf
[45] 大田経済財政対策大臣記者会見要旨、http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2006/1207/interview.html
[46] 佐田大臣提出資料、http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2006/1207/item5.pdf
[47] 菅大臣提出資料、http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2006/1207/item6.pdf