2004.6.19

                                      公共経営研究科1

                                           大平公一

地方分権一括法による地方自治法の改正内容とその評価

 

1.はじめに

 本レポートの目的は、地方分権一括法の内容について検討することである。具体的には、地方分権一括法の施行に伴い改正された地方自治法の内容の概略についてまとめ、その問題点について検討することである。

 この1999年に成立した地方分権一括法は、地方自治法を中心に475本の関連法律を改正するものであった。特に、地方自治法は、大幅に改正された。では、具体的に地方自治法のどの条文が改正されたのであろうか。また、地方公共団体は、どのような役割が求められるようになったのだろうか。

 このような問題意識から、本レポートでは、地方公共団体に関して規定されている制度について考察する。すなわち、地方分権一括法により改正された、地方自治法の主要な改正点について検討し、地方自治法のどこがどのように改正されたのかについて考察する。そして、私なりの評価をしてみたい。(以下では、地方分権一括法により改正された地方自治法を新地方自治法、改正前の地方自治法を旧地方自治法とする。)

 

2.地方自治法の主要な改正点

 以下で検討するように、地方自治法の改正は、地方公共団体の自主性・自立性を高める改正であったといえよう。

(1)国と地方公共団体の役割分担の新設

 新地方自治法は国と地方公共団体との役割分担に関する規定を新設した。それは基本的な役割分担、立法原則、解釈・適用原則である。役割分担として、地方公共団体の役割は、地域における行政を自主的かつ総合的に実施すること(2条の2の第1項)とされた。そして国の役割が4つ明記され2)、その他の住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本としている(1条の22項)。

 次に、立法原則として、国が地方公共団体に関する法令の規定を定める時は、地方自治の本旨に基づき、かつ、国と地方公共団体との適切な役割分担を踏まえたものでなければならないとする(211項)。

さらに、解釈・適用原則として、地方公共団体に関する法令は、地方自治の本旨に基づいて、かつ、国と地方公共団体との適切な役割分担を踏まえて、これを解釈し運用しなければならないと規定する(212項)。

 このような地方公共団体の役割、国と地方公共団体の役割分担の規定、立法原則、解釈適用原則は、国の活動の指針に関する規定であるといえよう。すなわち、国が地方公共団体に関する立法やその解釈をする際は、地方自治の本旨を踏まえ、かつ国と地方公共団体との適切な役割分担を踏まえなければならないということである。つまり、国は立法また法解釈において、地方公共団体の自主性・自立性に十分な配慮をする必要があるということである。

 

(2)機関委任事務制度の廃止

 機関委任事務とは「本来主務大臣が直接執行すべき事務であるが、個別の事務ごとに法律ないし政令で都道府県知事・市町村長(東京特別区長を含む)、都道府県・市町村(特別区を含む)の行政委員会を主務大臣の地方機関として位置づけ事務執行を委任したもの」1)である。この機関委任事務は、改正前の地方自治法の別表に規定されていた。このように、民主的に選出された都道府県知事や市町村長を国の地方機関と位置づける機関委任事務制度は、中央集権体制の典型的な制度として考えられてきた。すなわち主務大臣と地方公共団体の首長の関係、対等な関係ではなく主従の関係であった。

今回の地方自治法の改正で、機関委任事務は廃止され、これまで機関委任事務とされてきた事務は、自治事務・法定受託事務に振り分けられた。そして、若干の事務が国の直接執行事務とされたのである。つまり、主務大臣と首長の関係は、対等な関係になったのである。このような地方公共団体の首長を国の下級機関と位置づける性質を持つ機関委任事務制度の廃止は、主務大臣と首長の関係を対等にしたという意味で、地方公共団体の自主性・自立性を高めるものであったと考えることができる。

 

(3)新たな事務区分

 旧地方自治法では地方公共団体の事務として、公共事務・団体委任事務・その他の行政事務の3区分が定められていた。また、国の事務であるが地方公共団体の首長が執行する事務として機関委任事務が規定されていた。

 しかし、新地方自治法では機関委任事務制度の廃止に伴って新たな事務区分を規定した。新たな事務区分においては、地方公共団体が処理する事務とは「地域における事務」と「その他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるもの」である。このような事務は地方公共団体の事務であり、自治事務と法定受託事務がある。自治事務も法定受託事務も地方公共団体がその権限と責任において処理するものである。

 

(4)条例制定権の拡大

 これまでの機関委任事務については条例を制定することができなかった。すなわち、機関委任事務は国の事務であり、地方公共団体の首長が国の地方機関として事務を執行しているのであるから、地方公共団体の議会はこの事務に関して条例を制定することはできなかったのである。しかし、機関委任事務が廃止され新たに設けられた自治事務・法定受託事務は、地方公共団体の事務であるから「法令に反しない限り」条例を制定することができるようになった。これは、地方議会の権限が拡大したことを意味する。

 

(5)関与等の一般ルール

 旧地方自治法では国の地方公共団体に対する関与の方式について、統一的なルールを定めていなかった。機関委任事務や団体委任事務に関する関与の方式は、その根拠法に規定されていたにすぎない。唯一、機関委任事務に関する包括的な指揮監督権が旧地方自治法に規定されていた3)

 新地方自治法では、国は地方公共団体の事務には法律またはこれに基づく政令によらなければ、その処理に関し、関与することができないという関与法定主義を規定した(245条の2)。つまり、国が地方公共団体に対して関与するには非権力的なものも含めて法律の根拠が必要であることが要請されるのである。また、国の地方公共団体に対する関与の一般的な方式が規定された。すなわち、自治事務については、「助言又は勧告」、「資料の提出の要求」、「是正の要求」、「協議」が基本的な関与の方式である。法定受託事務については、「助言又は勧告」、「資料の提出の要求」、「同意」、「許可又は承認」、「指示」、「代執行」、「協議」が基本的な関与の類型である。さらに、地方公共団体の自主性・自立性に配慮するために、関与の基本原則が定められた(245条の3)。それは、国が地方公共団体に関与する際は、その目的を達成するために必要最小限度のものとし、かつ、地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならないというものである。

 

(6)国地方係争処理委員会

 国の関与の方式等に関するルールが規定され、その実効性を担保する目的で設けられたのが国地方係争処理委員会制度である。これは、国の関与に対して不服がある地方公共団体は、国地方係争処理委員会に審査を申し立てて、その上で訴訟を提起することができるというものである。

 

3.私見

 前章で検討した地方自治法の改正点をまとめると、地方自治法の改正により、制度上地方公共団体の自主性・自立性は向上したといえよう。すなわち、国と地方公共団体の役割分担の新設は、国は地方公共団体の自主性・自立性に配慮した立法や法解釈することを規定したものである。これは国の地方公共団体に対する働きかけを規律した規定であり、その意味で地方公共団体の自主性・自立性は向上したといえる。また、機関委任事務の廃止は、国と地方公共団体を対等な立場にすることを意味し、地方公共団体の自主性・自立性を高めたといえよう。さらに、機関委任事務制度の廃止に伴う条例制定権の拡大は、地方議会の自主性を高めるものであり、それは地方公共団体の自主性を高めることを意味する。そして、国の地方公共団体に関する関与の方式等のルール化は、これまでに比べて地方公共団体の活動を自由にした。

このように、改正された地方自治法の内容は、地方公共団体の自主的な活動の幅を拡大するものであり、また国からの自立性を高めるものであり評価できる。では、このような制度を前提として、問題となるのは、地方公共団体は新地方自治法の要求にこたえることができるのかということである。つまり、地方公共団体は国に依存せずに自主的に活動することができるかということである。例えば、国が地方公共団体の政策に対して助言をしてきたような場合に、受動的な姿勢でいたのではこれまでと何も変わらない。地方公共団体には、国の助言に対し反発するような態度が望まれる。国地方係争処理委員会は、この点を考慮しての制度であるといえよう。そこで、このような態度を取るために必要とされるのは、地方公共団体の首長や行政機関の職員、また地方議会議員の意識である。このような人々が新地方自治法の趣旨をしっかりと理解し運用していく必要がある。

 

4.おわりに

 このように、制度上、地方公共団体は、国と対等な立場となり、自由に活動することができるようになった。しかしながら、このような法律の要求にこたえるためには、知事、市長、町長、村長、また行政機関の職員、地方議会議員の意識改革が必要である。つまり、彼らには、新地方自治法にあった意識が求められる。その意識とは、自分達は地方自治の担い手であり、国には依存せずに自主的に活動するというものである。ここで問題となるのは、地方公共団体の首長、行政機関の職員、また県会議員、市会議員がこのような意識を持っているのかということである。この制度変化により、制度を運用する人々の意識が、どのように変化したのかについては、今後の検討課題としたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

注)

1)新地方自治法2条の22項は国が担う役割は、@国際社会における国家としての事務、A全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動に関する事務、B地方自治に関する基本的な準則、C全国的な規模・全国的な視点で行うべき施策及び事業であると定めている。

2)新藤宗幸『地方分権 第2版』(2002,岩波書店)215頁参照のこと。

3)旧地方自治法では主務大臣が機関委任事務の執行に際して持つ権限として、技術的助言・勧告、資料提出要求、法令の解釈運用基準、指示命令などの指揮監督権、違法是正措置要求、取消・停止、職務代執行を規定していた。

 

《参考文献》

・大橋洋一『行政法 行政過程論Administrative Law and Process』(2001,有斐閣)

・小早川光郎・小幡純子編「あたらしい地方自治・地方分権」ジュリスト増刊(有斐閣,2000

・新藤宗幸『地方分権 第2版』(岩波書店,2002

・西尾勝『未完の分権改革』(岩波書店,1999

・原田尚彦『地方自治法の法としくみ 全訂三版』(学陽書房,2001

・松本英昭『新版 逐条地方自治法』(学陽書房,2001