平成17年度第1クール 自治制度演習演習(片木教授)              

                       

 公共経営研究科  茂 木 英 雄

 

     「イギリスと日本におけるPFI導入の経緯と現状について」

 

1.はじめに

  PFIが生まれたイギリス及び日本の導入背景・状況について考察し、これからの日

本が学ぶべきことを整理する。また、様々な角度から、日本のPFI事業の導入状況

を整理し、本研究目的である「これからの日本のあるべきPFI事業の姿」についての

一助とする。

 

2.イギリスのPFI

1)PFI誕生の背景

 イギリスのPFI誕生の背景には二つの要因があると考えられる。一つは、サッチャー首相が推進した行財政改革の流れという内部要因であり、もう一つはEU統合に向けた財政健全化というグローバルスタンダードの遵守という外部要因である。

 高いインフレと失業率に悩まされていたイギリスでは、1979年に就任したサッチャー首相が行財政改革を推進した。非効率な国有企業の経営再建を進め、電話・ガス・電力・水道・鉄道・空港・石油・石炭などの国有企業の民営化が実施され、PFIが導入された1992年までに、国有企業の2/3が民営化された。民営化に続き、公共サービスのアウトソーシングが実施された。民間企業に外部委託した方が適切であると考えられる場合には、できるだけ民間企業に委託することが望ましいという考えのもとに、多くの公共サービスの外部委託された。また、中央官庁のスリム化実施のため、行政組織のエージェンシー化を実施し、独立の財務諸表をもたせ民間企業に近い経営をさせた。

 1992年にベルギーのマーストリヒト欧州共通通貨導入が決定され、通貨統合参加資格として、財政赤字はGDP(国内総生産)の3%以下に、公的債務はGDPの60%以下に抑えなければならないことが謳われた。1992年以前から統合に向けて、財政健全化が重要な政治課題とされていた。

 イギリスのPFIは、行財政改革の流れの中で、民間の資金や経営・管理ノウハウを公共分野に導入することにより、行財政の効率化とサービスの向上を図ること目的としていた。

 

 

2)発展経緯

 イギリスのPFIは1992年、メージャー首相の保守党政権時代に導入されたが、導入当初は、順調なものではなかった。民間資金の利用は事業コストの上昇につながりVFMが得られるはずがないという懐疑的な考えが多かったことや、また民間への権限委譲を危惧する官僚は消極的な態度を示したことによるものであった。1993年にPFI推進のため、各省庁の官僚と民間企業からの出向社員で構成される「プライベートファイナンスパネル」が創設され、PFIの啓蒙・普及に当たり、また大蔵省により“Breaking New Ground-towards a new partnership between the public and private sectors”というガイダンスが発表され、PFIの基本的な考え方が整理された。しかし、案件の成立は遅遅として進まなかったことから、1994年に大蔵省は、「ユニバーサルテスティング」という施策を導入した。これは、PFI方式を検討しない公共事業に対しては一切予算をつけないという、すべての公共事業についてPFI方式での検討を強制したものであった。これにより、PFIが本格的に動き出し、1995年「PFIの理論及び実践について」のガイダンスが発表され、道路や刑務所などをはじめ、鉄道・防衛分野でもPFI事業が成立していった。

 1997年ブレア首相率いる労働党は、過去5年間のPFIの問題点・改善点を整理し、「ベイツレポート」として公表し、PFIの推進組織の改組、案件推進プロセスの改善、学習の促進、入札コストの軽減についての改善策が示した。これに基づき、「プライベートファイナンスパネル」を解散し、新たに大蔵省内に「Treasury Taskforce」が設立され、政策に関するガイダンスの発行や法制度の改正、実務面での支援を実施した。また、自治体職員のPFI推進能力の向上を目的として、大蔵省による正式なPFI研修制度が整備された。こうした諸策が成果を上げ、PFIはさらに発展していった。

     

3)実績

 これまで実施された事業は公共事業全体の15%を占め、平均で17%のコスト削減効果が実現されると大蔵省は報告している。導入分野は、道路・鉄道・橋梁などの大型インフラ事業から、病院・学校・庁舎などの小規模なハコモノ事業や、防衛関連事業、IT関連事業等、広範囲にわたっている。

 

  分  野

         事     例

 運   輸

一般・高速道路、新型路面電車、空港、地下鉄

 厚生・保険

病院、介護施設、老人ホーム

 教育・文化

中学・高校、公立大学、美術館、博物館、図書館

行政施設

官庁庁舎、宿舎、在外公館、裁判所、消防署、警察署、税務署

 情   報

国民保険情報システム、税務システム、電子メールシステム

雇用相談情報システム、郵便窓口自動化

 国   防

ヘリコプター飛行訓練シミュレーター、防衛通信施設、トレーニング施設

 そ の 他

水道、刑務所、コミュニティセンター

                  (プライスウォーターハウスクーパース資料)

3.日本のPFI

1)日本におけるPFIの導入

 

 日本でも、財政悪化により公共事業費削減に対する圧力が強まる一方で、景気刺激策としての公共事業に対する要請が根強いことなどを背景に、PFIに対する関心が高まっていった。1999年7月に、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI推進法)が成立し、10月にPFI推進委員会が発足した。2000年3月に、「民間資金等の活用による公共施設等の整備に関する事業の実施に関する基本方針」が策定され、PFI事業の実施に関する基本的な枠組みが整備された。基本方針では、日本へのPFIの導入効果として、「低廉かつ良質な公共サービスの提供」、「公共サービスの提供における行政の関わり方の改革」、「民間の事業機会を創出することを通じての経済活性化」が挙げられている。そして2001年1月に、より実務的な指針として、「PFI事業実施プロセスに関するガイドライン」と「PFI事業におけるリスク分担等に関するガイドライン」が、7月に「VFMValue for Money)に関するガイドライン」が公表された。平成17年4月27日現在、基本方針策定以降に実施方針が策定・公表されたPFI事業数は193件である(内閣府PFIホームページより)。

 

2)導入状況

 日本のPFIは、基本方針公表から約6年が経ち、地方公共団体がPFI事業の74%を占め、先導的な役割を果たしている。また、事業分野別には教育文化施設や社会福祉施設をはじめとする「ハコモノ」が目立っている。これは、深刻な財政問題により必要な公共施設の整備が進まず、何か代替の財源はないかというところから、資金調達の手段として PFI を実施したことによるものである。地域別には、首都圏を中心に全国的な広がりをみせており、60の事業で実際にサービスの提供が開始されている。事業方式別では圧倒的にBTO方式が多く、関連法制度の影響があると思われる。

 PFI推進体制は整備されているが、PFI法成立後、全国の自治体数に比し、件数が伸びなやんでいるといえる。

 

 

 

 

 

【基本方針策定以降に実施方針が策定・公表されたPFI事業数】 

             (内閣府PFIホームページより)

 

(事業主体別)

25件

地 方 公 共 団 体

143件

特殊法人その他公共法人

 26件

 

 

(地域別)

北海道

埼玉

福井

滋賀

山口

熊本

岩手

千葉

13

山梨

京都

香川

大分

宮城

東京

33

長野

大阪

11

愛媛

鹿児島

秋田

神奈川

13

岐阜

兵庫

高知

国外

山形

新潟

静岡

島根

福岡

 

 

福島

富山

愛知

11

岡山

佐賀

 

 

茨城

石川

三重

広島

長崎

 

 

 

(進捗状況別) 

実施方針の策定・公表が行われた事業

12

特定事業の選定が行われた事業

民間事業者の選定手続き中の事業

18

民間事業者の選定に係る審査結果の公表等がなされた事業

25

公共施設等の管理者等と選定事業者の間で協定等が締結された事業

70

選定事業者によるサービスの提供が開始された事業

60

 

(事業分野別)

教育と文化

文教施設、文化施設

60

生活と福祉

職業訓練施設、福祉施設

12

健康と環境

医療施設、保健衛生施設、廃棄物処理施設、水道施設、斎場、浄化槽

35

産業

農業振興施設、漁港、工業振興施設

まちづくり

道路、公共交通、空港、河川、公園、下水道施設、海岸保全・港湾施設、公営住宅、市街地再開発

26

あんしん

警察施設、消防施設、防災施設、行刑施設

庁舎と宿舎

庁舎、宿舎

23

その他

複合施設、その他

23

 

(事業方式別)

BTO 

Build-Transfer-Operate(民間事業者が自ら資金調達を行い、施設を建設した後、施設の所有権を公共に移転し、施設の維持管理・運営を民間事業者が事業終了時点まで行っていく方式)

138

BOT

Build-Operate-Transfer(民間事業者が自ら資金調達を行い、施設を建設・所有し、事業期間にわたり維持管理・運営を行った後、事業終了時点で公共に施設の所有権を移転する方式)

 48

BOO

BOO:Build-Own-Operate(民間事業者が自ら資金調達を行い、施設を建設・所有し、事業期間にわたり維持管理・運営を行った後、事業終了時点で、民間事業者が施設を解体・撤去する等の方式)

 13

その他

 

 15

 

(年度別件数) 

11年度

12年度

13年度

14年度

15年度

16年度

  3 

 12

 32

 46

 42

52

 

4.さいごに

 PFIとは、民間の資金や経営・管理ノウハウを公共分野に導入することで、より効率的で効果的な事業をめざす手法であり、これによって行財政の効率化とサービスの向上を図ることを目的としている。イギリスでは、行財政改革の流れの中で、PFIの基本原理のもとにPFI事業が実施されてきたが、日本のPFI導入状況をみると、いわゆるハコモノ施設建設が中心となっている。ハコモノPFIの場合、民間企業の役割は建物を建てて、長期の施設管理を行うことだけであり、民間の資金だけが注目され、民間の持つ経営能力や技術、ノウハウが生かされる余地は少ない。PFIの導入意義では問題があるけれども、ハコモノPFIは、初期投資額を軽減して負担を平準化し、公共の財政支出削減には一定の効果があること及び民間のリスク負担も少なく、地方の中堅・中小企業や地方金融機関が参加主体となりえることから、日本版PFIのひとつの形として、今後も存続していくと思われる。

平成16年6月に、民間資金等活用事業推進委員会は、「PFI推進委員会中間報告−PFIのさらなる展開に向けて−」の中で、今後、高い水準の公共サービスを低廉な価格で調達する手法としてPFIを効果的に活用するという観点から、また、産業・金融市場活性化の観点から、民間部門の経営・技術的能力を発揮する機会をより広く設けたPFI事業の展開が望まれると、「運営業務の比重が大きい複雑な事業」、「新たな金融技術が活用される事業」、「地域産業の活力を向上する事業」の3分野を掲げている。PFI推進体制のもと、今後の日本版PFIのさらなる展開が望まれている。

 

【参考文献】

完全網羅日本版PFI基礎からプロジェクト実現まで 2001.4.10 山海堂

PFIの知識 2003.1.14 日経文庫

・実践!PFI適用事業分野別事業化の手引き 2003.2.1 ぎょうせい

PFI推進委員会中間報告−PFIのさらなる展開に向けてー 2004.6.3 民間資金等活用事業推進委員会

・民間資金等の活用による公共施設等の整備に関する事業の実施に関する基本方針

・早稲田パブリックマネジメントNo.1 2004 日経BP

・内閣府PFIホームページ

http://www.nri.co.jp/opinion/region/2002/pdf/ck20021003.pdf

http://www.decn.co.jp/rensai/rensai-bk/jpfi/200310150103.htm