指定管理者制度導入の経緯と現状について

公共経営研究科1年  三屋 宰子

 

1.   はじめに

2003年6月の地方自治法(以下「法」とする。)の一部改正により、「公の施設」の管理に関する制度の改正がなされた。つまり、地方公共団体の管理権限の下で、具体的な管理の事務・業務を出資法人(1/2以上の出資等)、公共団体(土地改良区等)、公的団体(農業協同組合、生活協同組合等)が執行する「管理委託制度」から、地方公共団体の指定を受けた「指定管理者」が管理を代行できるものである。また、総務省の通知によれば、この改正により現行の設置条例を3年以内(2006年9月まで)に公の施設の管理条例を改正するよう求めており[i]、現在、全国の地方公共団体ではその対応に迫られている。

 そこで、今クールでは、「指定管理者制度」導入の経緯、現状、及び問題点について、順次整理していきたい。

 

2. 「指定管理者制度」の概要

2.1「指定管理者制度」導入の背景

 「指定管理者制度」導入の目的は、総務省の通知によれば「多様化する住民ニーズによ

り効果的、効率的に対応するため、公の施設の管理に民間の能力を活用しつつ、住民のサ

−ビスの向上を図るとともに、経費の節減等を図ることを目的とするもの」とある。これ

は、行政改革会議の「最終報告」(1997年12月3日)の中で「民間のゆだねるべきはゆだ

ね、また、地方公共団体の行う地方自治への国の関与を減らさなければならない。」、つま

り「『官から民へ』、『国から地方へ』」の提唱が起点になっていると言える。この基本理念

を深く影響づけたのは、NPM(ニュー・パブリック・マネージメント)であった。NP

Mの概念は多義性であり、学界においても共通の認識が得られているわけではないが[ii]、経

済財政諮問会議によれば、「民間企業における経営理念、手法、成功事例などを公共部門に

適用し、そのマネジメント能力を高め、効率化・活性化を図るという考え方。1980年代半

ば以降、英国やニュージーランドなど諸外国において形成され、(1)徹底した競争原理の導

入、(2)業績/成果による評価、(3)政策の企画立案と実施執行の分離、により、行政の意識

を、法令や予算の遵守に留まらず、より効率的で質の高い行政サービスの提供へと向かわ

せ、行政活動の透明性や説明責任を高め、国民の満足度を向上させることを目指すもの説

明されている。[iii]その後、2001年に閣議決定された同会議による『今後の経済財政運営及

び経済社会の構造改革に関する基本方針(骨太の方針)』の中で「民間でできることはでき

るだけ民間に委ねる」という原則のもと、官民の役割分担の項目の中に「建設、維持、管

理、運営それぞれについて、可能なものは民間に任せることを基本にする。国及び地方公

共団体等の事業にPFI事業の活用を進める。」という記述などを契機に、「指定管理者制度」創設に向けた取り組みがなされていったものである。既に1999年に制定された「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)」により、民間活力の導入の取り組みは始まっていたものの、施設の設計、建築、維持管理及び運営までの全てを民間が行う方式であり、また手続きの煩雑さ等の問題点などから、件数は着実に増加してはいるものの大幅増とは言えない状況であった[iv]。従って「指定管理者制度」による民間活力の導入が期待されている。

 

2.2「指定管理者制度」の概要

(1)「指定管理者」の定義

 「普通地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設(「公の施設」)を設けることができ」(法244条)、公の施設の管理については、「普通地方公共団体は、公の施設の目的を効果的に達成するために必要があると認められるときは、条例の定めるところにより、法人その他の団体であって当該普通地方公共団体が指定するもの(「指定管理者」)に、当該公の施設の管理を行わせることができる。」(法第244条の2第3項)と規定されている。つまり、体育施設や文化施設などの公の施設は原則直営であるが、要件を満たした指定管理者に管理を代行させることができるのである。「指定管理者制度」が導入される前は、地方公共団体の管理権限の下で、具体的な管理の事務・業務を出資法人(1/2以上の出資等)、公共団体(土地改良区等)、公的団体(農業協同組合、生活協同組合等)が執行する「管理委託制度」であった。この改正により、「管理委託制度」では民間企業やNPOなどの民間事業者は対象外だったが、「指定管理者制度」導入により門戸が開かれたのである。

 

(2)業務範囲

 「管理委託制度」では、委託契約に基づき具体的な管理の事務・業務を執行するだけであったが、「指定管理者制度」では業務権限が拡大した。つまり、総務省の通知によれば、「地方公共団体の長は、条例の定めるところにより、指定管理者に使用許可を行わせることができるものであるが、使用料の強制徴収(法231条の3)、不服申し立てに対する決定(法238条の4第4項)等法令により地方公共団体の長のみが行うことができる権限については、これらを指定管理者に行わせることができないものであること。(法244条の2第3項関係)」とあるように、地方公共団体の長のみの権限は法令により依然としてあるものの、施設管理運営の主要な業務である使用許可について、指定管理者が直接できるようになったことは特筆すべきことである。

 

(3)指定期間の設定

 「指定管理者の指定は、期間を定めて行うものとする。」(法238条の4第4項)とある。「管理委託制度」では、事実上無期限に同一団体と契約を締結することができたが、「指定管理者制度」の下では期間を定めなければならなくなった。この「指定期間」については、特に定めはないので自治体の先行事例では1年から10年以上まで千差万別である。[v]

 

(4)「指定管理者」の選定

 法上は、選定委員会の設置や公募等が要件とされているわけではないが、選定委員会の設置が合理的であり、また選定にあたり、特定業者のみ申請させることは、民間事業者を活用する制度改正の趣旨からも適切とは言えないため、公募等により複数の業者に事業計画書を提出させる運用が望ましいとされる。また、選定をする基準は、「住民の平等利用が確保されること、事業計画書の内容が、施設の効用を最大限に発揮するとともに管理経費の縮減がものであること、事業計画書に沿った管理を安定して行う物的能力、人的能力を有していること」とされている。

 

(4)議会の手続き

まず、「普通公共団体は、法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか、公の施設の設置及び管理に関する事項は、条例でこれを定めなければならない。」(法238条の4第2項)とあり、「指定管理者の指定の手続き、指定管理者が行う管理の基準及び業務の範囲その他必要な事項」(法238条の4第4項)を定めた条例について、議会で議決しなければならない。「指定の手続き」とは、申請、選定、事業計画の提出等、「管理の基準」とは、休館日、開館時間、使用制限の要件等、「業務の具体的範囲」とは、施設の維持管理、個別の使用許可等とされる。次に、「普通地方公共団体は、指定管理者の指定をしようとするときは、あらかじめ、当該普通地方公共団体の議会の議決を経なければならない。」(法238条の4第5項)という規程がある。具体的な議決事項については、公の施設の名称、指定管理者となる団体の名称、指定の期間等である。なお、2004年6月1日現在での全国調査では、公募197件(44.7%)、非公募224件(50.5%)であった。[vi]

 

(5)利用料金制

 利用料金制については、「普通地方公共団体は、適当と認めるときは、指定管理者にその管理する公の施設に利用に係る料金(「利用料金」という。)を当該指定管理者の収集として収受させることができ」(法238条の4第4項)、「利用料金は、公益上必要があると認める場合を除くほか、条例の定めるところにより、指定管理者が定めるものとする。この場合において、指定管理者は、あらかじめ当該利用料金について当該普通公共団体の承認を受けなければならない。」(法238条の4第5項)と規定されている。公の施設の利用に係る料金を自らの収入として収受する利用料金制度は、1991年よりあったが、「指定管理者制度」の導入により、利用料金を指定管理者が収受することができるようになり、より効果的、効率的な管理運営が可能になってくる。

 

3. 「指定管理者制度」の問題点

 ここまで、指定管理者制度の概要について順次整理してきたが、私が昨年度まで文化施

設を所管する部署で実際に体感したことなどを踏まえて、二点の問題点を提起する。

 

3.1「施設のあり方」の議論の欠如

第一に、指定管理者移行のタイムリミットばかりが最優先され、肝心の「施設のあり方」についての議論がなされていないのではなかろうか。つまり、直営施設であれば専門職員の処遇をめぐる反発、管理委託施設であれば既存の出資法人などの団体の存亡に関わることなので特にプロパー職員の雇用問題、また競合が予想される各種団体のリサーチなどに終始しており、肝心の施設のコンセプト、ミッションについて今まで十分な議論されてきたか、また、この機会を契機に議論され、それが職員の共通認識になり、かつ市民に浸透させる、または今後できるか、という観点が欠如しているのではないか。コンセプト、ミッションが明確になれば、次のステップとして施設としての経営戦略の議論が出来てくるはずである。指定管理者制度はあくまでツールであり、これを契機に各施設の根本概念を見直す好機であるはずである。しかし、現状では現有人員優先で直営または指定管理者制度の導入かの選択がなされているだけに過ぎない。総務省の通知には、指定管理者制度導入の目的を「多様化する住民ニーズにより効果的、効率的に対応するため、公の施設の管理に民間の能力を活用しつつ、住民サービスの向上を図るとともに、経費の節減等を図ること」とある。とかく、経費節減効果ばかりが注目されるが、それ以前の施設の根本概念に立ち返らない限り、いくら経費が節減されても住民ニーズ向上がなされるかの検証が出来ないのではなかろうか。もちろん、経費節減効果も自治体の財政状況を鑑みれば重要な効果ではあることは否定しない。しかし、もしも基本概念が不明確なまま一定の周期で指定管理者の選定をすることになれば、その都度施設の経営方針が揺らぎ、ひいては利用者である市民のサービスの低下につながりかねない。施設の管理者が誰になろうと、施設の最終責任者は施設を設置した自治体にある。まずは、施設の基本概念を自治体が市民ニーズを聞きながら再構築することが先決ではないか。

 

3.2チェック機能の未整備

 第二に、指定管理者制度のチェック機能の不十分さである。事業報告書の提出については、「指定管理者は、毎年度終了後、その管理する公の管理の業務に関し事業報告書を作成し、当該公の施設を管理する普通地方公共団体に提出いなければならない。」(法第244条の2第7項)、そして中身については、「普通地方公共団体の長又は委員会は、指定管理者の管理する公の施設の管理の適正を期するため、指定管理者に対して、当該管理の義務又は経理の状況に関し報告を求め、実地について調査し、又は必要な指示をすることができる。」(法第244条の2第10項)の規程がそれぞれある。まず、事業報告書について留意しなければならないのは、事業のアウトプットのだけではなくアウトカムについても明記されていなければならないことである。このために自治体は、指定管理者に選定の際に提出させる事業計画書からアウトプット、アウトカム目標を記載させることが大前提である。このような書類等に基づいた評価が、提出先の自治体だけで行われるのでは不十分であり、複数の多角的な視点から評価が行われることが望ましいと考える。その受け皿として考えられるのは、第一に指定管理者の指定の議決をした議会である。本来は、議会への報告義務はないが、情報公開の観点からも積極的に情報を提示していくことが必要だと考える。そして第二は外部の評価組織である。新潟市の「公の施設に係る指定管理者制度に関する指針」(2004年12月1日)では、「指定管理者の業務について評価を行うときは、指定管理者候補選定委員会を活用し、外部の意見も聴取するよう検討するものとする。」とあるが、同委員会の活用は未だ不十分な状況であることに加えて、当市の選定委員会の構成は担当部・局長と複数の外部の有識者のみであり、利用の当事者である市民の視点からの評価がなされる仕組みがない状況にある。より透明性の高い評価をする観点からも、新しい仕組みを早急に検討しなければならない。

 

4. おわりに

 3で述べた問題点に係る先進自治体及び新潟市の具体的事例及び解決策等については、今

回十分に取り上げることができなかった。次クール以降に取り組むこととしたい。

 

【参考文献】

稲継裕昭『NPMについて−諸外国と我が国の取り組み』、国際文化研究第26号、2000年

文化政策提言ネットワーク編『指定管理者制度で何が変わるのか』、水曜社2004年、

P8〜24(小林真理、中川幾郎、片山泰輔)

地域協働型マネジメント研究会編著『指定管理者制度ハンドブック』、ぎょうせい、2004年

自治体アウトソーシング研究会編『改訂版Q&A自治体アウトソーシング』、自治体研究社、2004年

 



[i]総務省自治行政局長、『地方自治法の一部を改正する法律の公布について(通知)』(以下『通知』とする。)総行第87号、2003年7月17日、以下「総務省の通知」と記しているものは、同所からの引用である。

[ii]稲継裕昭『NPMについて−諸外国と我が国の取り組み』、国際文化研究第26号、2000

年、P2

[iii] 経済財政諮問会議ホームページ、「ニュー・パブリック・マネージマント(NPM)」

http://www.keizai-shimon.go.jp/explain/progress/npm.html、2005.10.21

[iv] 内閣府PFIホームページ、http://www8.cao.go.jp/pfi/、2005.10.11、国内における件数は2000年度で12件であったが、2003年度では42件に増加している。

[v]総務省自治行政局行政課『公の施設の指定管理者制度の導入状況に関する調査結果』、2004

12月 2004年6月1日現在において全国の指定管理者制度導入施設総件数1,550件のう

ち、最も多い区分は3年(35.4%)であった。

[vi]総務省自治行政局行政課『公の施設の指定管理者制度の導入状況に関する調査結果』、2004

12月、上掲