高齢者の失業問題解決         2年制コース2年   熊木 満喜

 

1 雇用労働政策の分権化の現在

1.1 改正雇用対策法と自治体の雇用政策

「地方分権一括法」によって、改正雇用対策法(平成11年法87)が施行され、地方自治体にも雇用施策を実施する努力義務が課せられた。この改正雇用対策法の第5条は、次のように定めている。

「地方公共団体は、国の施策と相まって、当該地域の実情に応じ、雇用に関する必要な施策を講じるように努めなければならない。」(平成1335・旧3条の2繰下)。

 これは、地方分権改革によって、それまで都道府県が設置してきた公共職業安定所(ハローワーク)が、国の機関となるなど、従来の労働行政が国に一元化される一方で、国の権限に属さない雇用施策を、地域の実情に応じて、広く地方公共団体が実施するように改めたものである。改正雇用対策法の第5条の内容はそれぞれの地方自治体が裁量によって雇用政策を行うことができると言っている。つまり、「自治事務としての雇用政策の確立」を求めている規定という事ができる。なお、同改正法は国と地方自治体の双方に、お互いの連携、相互連絡、相互協力するべきことを規定している。(同法第27条)

平成14613日、参議院本会議で、職業安定法と労働者派遣法の改正法が可決され成立、即日公布された。 今回の職安法改正によって、職業紹介事業の規制緩和の一環として、無料職業紹介事業(ハローワークの行っている職業紹介、あっせん)が地方自治体で行えるようになった。

1.2 地方自治体の雇用労働政策のメリット

 総合行政の一環としての雇用労働政策という特色が、自治体が行う雇用労働政策のメリットである。国の厚生労働省、経済産業省、農水省、総務省、文部科学省、国土交通省などが行う諸施策と、府県の単独施策を合わせて、府県レベルで統合できる可能性があり、その可能性を現実のものとする取り組みが望まれている。雇用労働政策に,就職のあっせん、職業紹介ができるという権限が付加されることは、労働供給にアプローチできるという意味で、非常に大きな意義がある。さらに加えて、府県の雇用政策としての特色を出せる事業は、市町村との連携事業である。府県と市町村との定期的な、情報交換や意見交換、政策研究の場が設置可能になることでより地域の実情に則した政策が可能になる。

1.3 市町村の役割と国・府県

 地方分権改革の進行によって、先の改正雇用対策法及び改正職業安定法に言う、地方公共団体として、市町村に期待されているものは何か。

他にも多数あるがまず市町村は、住民にもっとも身近な政府として、その機能を発揮することが期待される。つまり、広域的な移動といったハンディキャップがないので、一人一人の顔が見える相談と、個性に合った職業の斡旋を担うことができる。民間の有料職業紹介事業や、国のハローワークと競合したり重複したりすることを避けながら、これらと協調しつつ、特に国の機関や府県の機関と協力しながら相互に補完しあうように仕事を組み立てることが必要になる。

2 今後の地域開発の方向性

  1.に書いた現状を分析した上で以下自説を述べる。労働政策には2つの方法があると考える。国が全国一律の政策を実施する、もう一つは地方自治体がその地域に合った労働政策を実施する。この2つの方法にはメリットとデメリットが存在する。国が一律の政策を実施すると、全国規模で行うために相乗効果を発揮することができる。しかし、全国一律なので地域によっては非合理的な政策になってしまうこともありえる。地方自治体がその地域に合った政策を実施すると、適用範囲が狭いためそこの住民にマッチした政策を行うことが可能になる。しかし、一地域のみしか実施できないためその効果は限定的になってしまう。

現在の日本を考えると、地域によって様々なニーズが存在している。戦後のように経済発展だけを考えていれば全国一律の政策で良いかもしれない、しかし地域差が見られる雇用失業情勢の改善を図るためには、地域の自主性を生かした雇用対策を進めていくことが重要であり、よりきめ細かい単位で政策を実施していくことが効果的であると考えられる。現在、政府全体で行われている『地域再生』についても、まさに、地域雇用創造を図る取り組みであり、市町村等の地域の自発的な取り組みを国が支援するとの考え方で行われているのである。

このため、現在の地域雇用開発促進法に基づく都道府県と連携して実地する政策に加え、市町村における雇用創造に向けた地域再生の取り組みと連携して国の地域雇用対策を展開していくことが重要となっている。

以上より、高度経済成長が望めない現代においては個々のニーズを大切に汲み取れる政策が望ましい。そのためには労働政策の舵取り役を住民に近い自治体に任せた方が良いと考える。

3 地方自治体の雇用政策の現状

三重県(伊勢市鳥羽市など)の事例

(労務行政『雇用創出を伴う地域再生を目指して地域再生50の先行事例』P79

「地元の企業のニーズに応じた事業拡大支援」

3.1 地域の現状 

当地域は三重県の南部に位置し、都市部から距離を隔てていることから、事業所数が少なく、又、国内産業の低迷により有効急進倍率が0.6倍台と低い状態にある。このため、新規学校卒業者を初めとする若者が他地域に流出しており、雇用機会の増大が重要な課題である。

このような状況の下、市町村、経済団体、県などにおいて産業活性化のための新技術の開発支援、観光客の誘致などの取り組みを行っているが、第一次産業においては高齢化、後継者不足、第2次産業については、国際競争の激化や国内消費の低迷に伴う出荷の現象、第三次産業においては、観光客の減少や中心市街地の空洞化といった課題を抱えている。又、個別には、公共事業費が大幅に削減されている建設業など、新分野への展開を余儀なくされていくものも見られる。地域においては、各企業とも新技術・新商品の開発、販路の拡大、新分野の進出等により、事業の維持あるいは事業の拡大を目指しているところであるが、多くの企業において、そのような新たな事業展開に必要なノウハウ、人材、情報などが不足している。そこで、これまで実施してきた産業活性化のための取り組みとあわせて、地域雇用機会増大促進支援事業を実施することにより、企業の新たな事業展開を支援し、それにより雇用の増大を図ることとする。

3.2 地域開発・産業振興の取り組み

➀ 商工業振興

先端的成長産業の集積を目指した「パールバレー構想」を策定し、低廉で高速の情報ネットワークの整備を促進しながら、コールセンター、データセンター、ソフトウエア産業などの情報通信関連産業の集積を目指しており、当該産業の進出に対しては補助制度を設けている。その他、地域企業の活性化を目指し、新製品開発に対する支援、産官学の連携による新技術の共同研究、起業に対する支援、経営に関する各種研修、相談等を実施している。

A 観光振興

伊勢神宮、熊野古道、伊勢湾岸の地域資源、伊勢えび、牡蠣、あわび、松坂牛などの特産品といった地域の観光資源について、観光マップなどによりPRを図ると共に、新たな特産品、土産物などの製品開発を奨励している。又、物産観光館、観光連盟などへの補助、宿泊施設の活性化に関する研究に対する補助などを行っている。

➂ 農林水産業振興

豊かな地域資源から生み出される生産物を、消費者ニーズに対応した高品質、高付加価値名物とするため、農産物の特産品化の推進、水産物の試験養殖を行っているほか、後継者確保のため、就業体験の実施、I・Jターン者の住宅の整備・提供などの取り組みを行っている。

3.3 地域における雇用労働面の課題

当地域においては、上述の取り組みにより、地域産業の活性化を図っているところであるが、各企業などにおいて新聞や展開、新商品・新技術の開発、品質管理技術の向上、販売戦略の構築などを推進していくために必要な人材、ノウハウ、情報などが地域に不足しているため、これらの取り組みが進展しにくくなっている。また、企業を誘致する場合にも、当該企業のニーズに応じた地域人材の不足がネックとなっている。

3.4地域雇用機会増大促進支援事業の内容

➀ 事業額5000万円

A 事業の内容

イ 高度な人材育成

新技術・新商品の開発、販路の拡大、新分野への展開など新たな事業展開を目指す企業、NPOなどのニーズに応じて、県内外の大学、研究機関などから専門家を招き、各種研修を実施する。又県内外の教育訓練機関、専心企業などへ地域内の企業の技術者を派遣し、先進技術についての実地研修を実施する。

ロ 高度な人材の誘致

新技術・新商品の開発、販路の拡大、新分野への展開など新たな事業展開を目指す企業のうち、新規雇用が充分に期待できるものに対して、ヘッドハンティング会社を活用し、新たな事業展開における中核的な人材を誘致する。

 

ハ 企業誘致

 

4 三重県の事例からみた今後の雇用対策

3の分析より以下自説を述べる。地方都市は仕事が無いため若者が大都市へ流出してしまっている。その結果地方都市は、慢性的な人材不足に悩んでいる。若者の大都市への流出をくいとめるためには労働需要側、企業に掛け合って工場などを誘致することが必要である。若者が仕事を求めて大都市へ移動する必要のないように地方都市に働く場を作る。この結果、若者は地元で就職するようになり人材不足が緩和されると考える。この際、地方自治体は企業に対して減税などのメリットを提示することなども考えられる。また、地方自治体は、工場などを誘致することによって若者の流出を食い止めるばかりでなく税収源も手に入れることが出来る。「うちの地方に来て下さい」または、「若者は大都市に行かないで下さい」という告知だけでは人材不足を解決することはできない。その地方に住むメリットが存在しないといけない。自治体が労働者に対して与えられるメリットとは、労働機会の提供である。今までは、不況といったこともあり労働供給側を中心に対策が採られていた。これからは、労働需給両面からのアプローチを考えていくべきである。

以下では、企業誘致の現状を分析する。

 

5 企業誘致の現状

5.1 動き始めた企業の設備投資
 国内における企業の設備投資の動きが、回復の兆しを強めている。半導体や液晶関連が好調な電気機械産業、また、自動車関連産業などを中心に、堅調な需要の伸びに対応して、生産態勢強化の傾向が見られる。一時期は中国への進出による空洞化が懸念された製造業だが、現在ではむしろ、国際競争力を維持するため、研究開発分野や先端技術を含む製造工程を中心に、国内回帰の動きを強めている。(根拠;経済財政白書より)
 日本政策投資銀行から発表された「地域別設備投資計画調査」によると、2005年度の設備投資計画は、国内全10地域(北海道、東北、北関東甲信、首都圏、北陸、東海、関西、中国、四国、九州)で増加の値を示した。全地域での増加は、1990年以来15年ぶりの動きである。
5.2
 地域間競争の中で展開される誘致活動
 こうした状況を受けて、ここ十数年にわたり苦戦を強いられてきた各自治体の企業誘致活動も、少しずつ勢いを取り戻し始めている。しかし同時に、地域間の競争も激しさを増しており、各地域が独自性を打ち出して、他との差別化を図るための努力が行われている。その内容は、用地価格の引き下げ、補助金など優遇制度の充実、各種インフラの整備、人材の育成・供給、産業の集積、産学官連携の構築、その他様々である。そして、こうした制度や仕組みを整えることと共に非常に重要なのが、企業誘致担当者の熱意や誠意に基づいた、適切で迅速な対応である、というのが、多くの進出企業から聞かれる声である。(根拠;経済財政白書より)
 

参考:神奈川県自治総合センター『自治体学研究』03年秋号

労務行政『雇用創出を伴う地域再生を目指して地域再生50の先行事例

厚生労働省編『労働経済白書』平成17年度

内閣府編『経済財政白書』平成17年度