地方自治制度演習

第1セメスター第3クール 片木 淳先生

45041019−1 小暮 大祐

テーマ:人口減少化での地域活性化策

 

1.はじめに

「1.29ショック」。ついに日本の出生率がここまできた。特に東京都では全国最低の0.9987という水準まで低下している。出生率が「1」ということは父母という2人の人間から1人の子供しか生まないことを意味し、これは一世代ごとに人口が半減するということである。この「1」に出生率は限りなく近づいている。

このレポートでは人口減少が今後の日本社会にどのような影響を及ぼすのか考え、とくに人口減少が大きいと予想される地方・過疎地域がどうように対応すべきか、検証するものとする。

 

2.人口減少に対する考え方   

楽観説 人口増減は一国の盛衰に密接にかかわっているが、減少イコール衰退を意味するわけではない。確かに人口が減少すれば財やサービスの需要は減少し、労働力の減少で供給も減少するだろう。しかし、労働力の不足は生産性の向上や高齢者や専業主婦などの有効活用で、また消費市場の縮小は付加価値の高い商品の創造によってそれぞれ補うことができ、むしろ一人あたりのGDPは増える可能性さえ秘めている。さらには土地や交通などの生活環境には余裕が生まれてくるので、ゆとりある成熟した生活が期待できると考える説など。(失業リスクの低下・過重労働の減少)

 

悲観説 人口が減少することは国力が低下を意味し、GDPの6割を占める消費は減少し、同時に投資も減り、マイナス成長が恒常化していく。また、2007年以降、団塊の世代が一挙に高齢者の仲間入りをし、医療費や年金などの問題がマイナス成長により深刻化してくると考える説など。

 

3.人口減少の概要

日本の人口は2004年から2006年頃にはピークを迎え、その後長い人口減少の時代を迎えようとしている。21世紀の日本で起きようとしていることは世界的にも経験した事のないスピードである。

下の図1は国立社会保障・人口問題研究所の人口動態データである。これによれば、2050年に1億59万人(中位推計)、あるいは9203万人(低位推計)となっている。人口動態は社会の経済の状態、社会心理状態、個人の価値観などにより変化し、その将来推計は必ずしも確実なものではない。とくに1.29ショックはこの指標以下の結果となっており、この指標自体の正確性は問題視されているのが現状だ。ただどちらにせよ、日本の人口が長期間にわたり、減少を続けることは間違いなく現実のものとなる。

 

総体としての人口減少は、以上のとおりであるが、さらに、次の2点の特徴が指摘できよう。

 

@高齢化と少子化

全国推計(中位推計)によれば、総人口に占める老年人口(65歳以上)の割合は、2000年の17.4%から2030年には29.6%に上昇する。市区町村別にみても、99.6%の自治体で老年人口割合は上昇し、老年人口割合40%以上の自治体は、この間に2.3%から30.4%へ著しく増加する。 2054年に36%のピークを迎え、以後老年人口割合は減少することが予想される。(政策研究院のシュミレーションでは2080年ごろまで高齢化率は増加し続け、38%ほどに達するという報告もある。)

合計特殊出生率が2.08前後を下回れば、人口は減少するといわれる。政府は1994年に「今後の子育て支援のための施策の基本方向について(エンゼルプラン)」を策定し、少子化対策に対応しようとしたが、出生率の低下の歯止めにはなっていない。また、出産をより促進させる方向にある欧米諸国でもその合計特殊出生率は1.5〜1.75程度であり、日本が2.08を超えることは長期間にわたって難しいといわざるを得ない。

 

A労働力

人口の減少は高齢化が生じるとともに、生産年齢人口(15歳〜64歳)の絶対値は小さくなる。しかし、人口減少に伴い、社会全体の総人口あたりの生産年齢人口割合はそれほど大きく減少することはない。(図3)また、日本の女性の労働率は欧米に比べて低く、主要な労働力人口でもある20歳から49歳をとれば、男性の労働力率94%に対して、女性は64%にとどまっている。女性の勤労参加、あるいは高齢者の労働参加が進むことを想定すれば、労働人口総数の不足を過剰に心配する必要はあまりないと考える。

しかし、あくまでこれは女性や高齢者が勤労参加するという前提であり、現状の流れで国際競争の観点にたってGDPの推移を見てみると悲観的に考えざるを得ない。2005年からの2020年の15年間で人口が2.8%減少し、就業者が10%減少するという仮定ではGDPはマイナス6.7%という数値もある。(経済企画庁「人口減少下の経済に関する研究」)もちろん、先ほどのように、女性や高齢者の就業比率を上げることで労働力人口の減少自体はある程度カバーできよう。しかし、女性の社会進出がさらに進めば、出世率の低下はますます低下する可能性も高まる。ここからも今と同じ経済力を保ち、GDPを維持しようと考えるのは難しい。また、労働力人口が減少しても技術が進歩して生産性が高まれば問題ないとする考え方もできるが、労働力減少よりも技術進歩のスピードが速いという確かな証拠もない以上、安易に考えるのは危険であろう。やはり、マイナス成長が定常化する社会と考えざるを得ないと考えるべきであろう。

年代

総人口(中間推計)

15歳〜64歳

生産人口割合(%)

2000年

1億2692万人

8638万人

68.1%

2030年

1億1758万人

6957万人

59.2%

2050年

1億  59万人

5389万人

53.6%

(図3 国立社会保障・人口問題研究所のデータより作成)

 

4.人口減少抑止・適応策

人口減少抑止にはなんといっても出生率の回復である。まずは子育ての直接的・間接的な費用を小さくすることである。子育て費用の最大の部分は正社員であった女性が退職により失う将来の収入(機会費用)である。その費用を小さくするためには、正社員とパートの賃金格差をなくし、出産・子育て後に再参入しやすい柔軟な労働市場を作ることが求められる。これまで述べてきたように、女性の就業なしには日本経済はもたないところまで来ている。問題は子育てと女性の就業をどう両立させるかであろう。ただ保育所を増やして待機児童を減らすといった政策だけではなくて、多様な働き方を認め、結婚・出産をロスと思わせないことが重要である。

次に、人口減少に対する、この他の適応策について述べる。

 

@労働者の確保

外国人労働力の動向も重要である。現在日本の外国人労働者数は約76万である。国連は2000年、労働人口の減少を移民で補う「補充移民」という考え方を明らかにした。これによると日本は2050年までに現在の労働人口を維持するためには毎年60万人以上もの移民を受け入れる必要があるとされている。しかしながら、このような移民の受け入れは、日本ではまだまだ議論されていないのが現状だ。右上のグラフは2002年の外国人労働者の内訳である。ここでは不法就労者が22万522人とされているが、実際はそれ以上の25万人近くいるとみられている。ただ、外国人労働者は地方都市の産業を支えているのも忘れてはならない。外国人労働者がいなければ地域産業は回らない現実がある。産業によっては外国人労働者を積極的に雇用していく分野があって当然であろう。

しかし、治安悪化の懸念はぬぐえない。来日外国人の検挙件数は1993年から2003年の10年間で2万件から4万件と倍増している。これらの対策として、治安対策・就労管理対策など様々な新たな社会的コストを発生することになろう。だからといって、犯罪や不法就労といったマイナス面だけにとらわれて、外国人労働者の受け入れを制限することは地方都市の現状からも不可能だ。外国人労働者を受け入れて「量」の確保を図ることは重要だが、それと同時に社会的コストとの兼ね合いもあることを念頭におき、慎重な判断が必要と考える。

 

A高齢者の定義の見直し

これから迎える時代は否応なく、高齢化社会である。ならば、高齢者をこれまで以上に社会で活用する方法を考える発想が重要であると考える。まず、見直さなければならないのは高齢者の定義であろう。65歳以上の人口が増えることは「働き手の減少」と「働かないで養われる世代の増加」を意味するが、果たしてこれでいいのだろうか。

平均寿命も伸びた今、65歳以上でも「労働力」となりうるのではないだろうか。働き手の減少を抑制するのはもちろん、これまで未開拓の労働市場となる可能性も秘めている。手段としては、コスト高にならないように定年を延長することなどが考えられるが、社会の仕組みも同時に変えなければならない。公的年金の支給開始年齢など、高齢者を早く引退させている制度を改めることで、働ける高齢者を職場に引き戻すべきだ。そうなれば、「働き手の減少」が抑えられるだけではなく、年金の保険料や税収も増える。こうした「老後改革」によって、日本経済の明るい見通しに繋げられると考える。

 

5.人口減少対策の問題点(高齢化時代における政治の影響

人口構成の高齢化は「大きな政府」につながるということである。たとえば、政府が高齢者の定義の見直しを政策として掲げたときに、はたして高齢者はどのような行動・判断をするだろうか。今の年金制度のままでも十分得をする(働かなくともお金が支給される)のに、働くインセンティブを持つ高齢者は少数派と言ってもいいだろう。もちろん、多くの高齢者が反対するような政策を政党が掲げることはない。なぜならば、高齢者は一般的に投票率が高いため、政党も高齢者の意見を無視できないのだ。投票率の高い中高年層の人口が増え、投票率の低い若年層の人口が減少するという少子高齢化の一層の進展によって、政治に反映される各世代の声までも一層不均等になっていくものと考える。このことからも高齢化社会ではますます、高齢者が政治的な発言力を持ち、高齢者の意見に偏った政策が支持される可能性があるといえよう。つまりは年金・医療・介護など社会保障費の膨張を止めることはできなくなり、人口減少対策費にコストが回せないということもありうるのである。

もう一つ課題があるとすれば、相対的に若い労働力が少なくなり、新しい創造的な仕事の創出の減少などに不安がある。人口減少楽観論は「付加価値の高い商品の創造」や「技術開発によって生産性が高める」ことで労働力人口の減少は問題ないとしているが、労働力の質の課題は避けられそうにもないのが現状であろう。

 

6.都市と地方

地域間の社会的人口移動には社会、経済、文化など様々な要素が入り、容易に将来を推計することはできない。産業構造の変化や個人の価値観など、多くの不確定要素があるためだ。人口問題研究所の地域別の人口推計や、国土交通省の長期的な地域別人口推計があるが、それぞれ純移動率(ある地域の転入超過数が地域人口に占める割合)の仮定が異なっているなどして、それぞれの調査に誤差がある。ここでは人口問題研究所の仮定で見てみると2030年の時点で2000年より人口が増えるのは、東京都・神奈川県・滋賀県・沖縄県の4都県のみである。特別な政策を打ち出さないのであるならば、東京などの大都市圏への人口集積の状況は続くことが推定される。これは高齢化も都市に比べ地方でさらに高まることになろう。高齢化の進行も地域格差を生み出す。高齢化によって地方では労働力不足がさらに深刻化し、生産力が低下し、地方への産業立地はますます困難になろう。

 

7.過疎地域における人口減少対策

以上にことからの人口減少のもっとも大きな影響を受ける地域は大都市よりも、地方の農村地域であろう。地方の悪循環から脱却する考え方として、人口減少の歯止めをかけるといった人口減少抑止の視点が重要だが、仮に出生率がある程度回復したとしても、それによって人口減少に歯止めがかかるまでにはかなりの長期のタイムラグは避けられない。人口減少抑止とともに、人口減少を前提とした社会のなかで、どのような新たなパラダイムを構築するかといった、人口減少に適応した考え方が必要と考える。

高齢化は地方において早く進行する。今後は都市に集中している中高年層が高齢化していくのだが、このとき若者層がどのような地域行動を行うかによって大きな違いが出てこよう。まず若者が地方に戻らない大きな理由は地方に働き場がないということだ。いままでなら産業誘導し、雇用を生み出すことも可能であったが、人口減少のなかでは、需要もなく困難であろう。

年代

世界人口の変化

1950年

25億人

2000年

61億人

2025年

79億人

2050年

89億人

ここで、私たちは視点を変える必要があろう。日本の人口は減るにしても、世界の人口は増加するのである。下の図はこれからの世界における人口の増加を示したものである。2050年には日本は1億人を下回るという予測とは逆に、大幅な人口増が予想されている。このため食糧は将来的には供給不足になる可能性もある。とくに食糧自給率の低い日本は今以上に食糧輸入コストは高まることが危惧される。これらの対策として地方での第一次産業の活性化を考えてみたい。

 

(2002年国連人口推計より)

人口減少時代では土地の余剰が生まれ、土地の値段も減少するだろう。以前のような莫大なコストがなくとも、農地取得によっては大規模農業ができる要素が地方にはあろう。                        また、日本の農業は付加価値の高い、高品質の農産物を目指すことで、海外の安い農作物と競争し、差別化を図ることが求められる。国内の需要だけを相手にするのではなく、農業を輸出産業にし、グローバルな視点で需要が増える、右肩上がりの産業として農業を見直す必要があると考える。特区などで株式会社の農地取得が可能になってきているように多くの人々が機会をつかみ、能力を発揮できる環境づくりをすることがますます重要になってこよう。

一方、近年、都市住民に新しい動きが見られる。価値観の多様化、真の意味での豊かな生活の希求、環境保護や自然との共生意識の高まりなど、多少不便でも多様な田舎のライフスタイルを楽しみ、地域に貢献したいと志す個人が増えている。

これまで農村部ではさまざまな国からの農業支援策や活性化策として補助金を投入してきたが、結果農村が活性化したとは言いがたい。公共事業依存の農村から脱却するためにも、魅力ある農村を育て、若者や老人の働き場を確保して農村の人的な活性化を目指していくことがもとめられよう。

 

8.まとめ

ここではいくつかの提案として、女性・高齢者・外国人労働者の社会進出や第一次産業の活性化を挙げたが、共通している課題はいかにして、それぞれの世代・性別・国籍のが、人口減少いう課題に対し相互認識を深めるかである。その人口減少の対策は女性や高齢者の働き方の変化だけにとどまらず、私たちの生き方の価値観を大きく変えていくことにもなるだろう。女性の社会進出には男性も家庭や働き方の価値観を変えることが求められ、高齢者もどうせ人口減少は関係ないと考えず、後の世代のことを考えていくこと、これらの相互の思いやりが欠かせない。しかしながら、人口減少は公共サービスの維持を難しくし、高齢者を扶養するための若者への重い負担が社会保障などをめぐる世代間の対立を引き起こし、社会的な連帯を弱めかねない。また、女性の社会進出はこれまでの男性優位の社会の中では衝突を起こすこともあるだろう。人口減少はそれぞれの世代・性別の損得がはっきりし、対立が生まれやすい社会になる可能性がある。

だが、考えてほしい。このまま人口減少が進めば、一部の大都市を除いては、きわめて寂しい町や村になるだろう。農村などはたまにトラクターが通る以外は、子供の声も聞こえないような日常が当たり前になる。また多くの農地は荒れ、山林は荒れ、放置される。本当にこのような日本国土になるのはそう先でもない。みな、美しい国土をもたず、つねに将来に対して不安ばかりを募らせる社会などに豊かさなどあるのであろうか。子や孫に自信を持って受け継がせることのできる国を作ることは、日本国民全体の問題であることを忘れてはならない。

 

参考文献

人口減少時代の政策科学       松原 聡        岩波書店

日本はなぜ縮んでゆくのか      古田 隆彦       情報センター出版局

地域主権の経済学          波多野 進       実務教育出版

人口減少下の社会資本整備      丹保 憲仁       土木学会

高齢・少子化社会の家族と経済    島田 晴雄       NTT出版

統計に見る日本経済         吉田 忠・石原 健一  世界思想社

ウェルカム・人口減少社会      藤正 巌・古川 俊之  文藝春秋

人口減少の経済学          原田 泰        PHP研究所

新基本法と日本農業         梶井 功        家の光協会

週刊ダイヤモンド2004・6・5

東洋経済2004・7・17

国立社会保障・人口問題研究所HP

国土交通省HP