自治制度演習(片木先生)

課題:いわゆる『改革派知事』数人を取り上げ、彼らがいかにリーダーシップを発揮しつつ、地方自治の諸課題に取り組んでいるかとの観点から、その共通点を明らかにする。

公共経営研究科

長谷川雅宏45033007

 

1.『改革派知事』の定義

 地方分権時代の今、これまで以上に知事の権限が強まった。今までは、決められた行政を淡々と進めるだけの知事もいたが、ここ数年マスコミなどで『改革派知事』と呼ばれる個性的な知事が出てきた。ここで想定する『改革派知事』とは宮城県の浅野史郎知事、三重県の北川正恭前知事、高知県の橋本大二郎知事、鳥取県の片山善博知事らである。彼らは知名度がさほど高くない候補者として立候補し、当選。以来、個性的な政策を立案し地方から全国に情報を発信している知事である。このレポートではそれらの知事が共通して持っている共通項は何であるのかについて考察する。

 

2.共通項 年齢

政治家にとって年齢が価値観、政治的指導性をすべて規定するとは言い切れない。しかしながらここでいう『改革派』はみな若くして地方のリーダーとして選挙民から選ばれている。浅野知事が初当選した時45歳、北川前知事は51歳、片山知事は47歳、橋本知事は44歳のとき初当選して知事になった。現在いる47都道府県の知事の平均年齢が約60歳ということを考えると、やはりこの4人は若くして知事に選ばれたのである。これまでの社会にある閉塞感の打破が選ぶ方の選挙民にあったのではないか、またその空気を上手くこれらの知事が掴んだのではないかと推測される。

 

3.共通項 無党派

 現在、国政選挙においてもその影響力が大きくなっている「無党派」と呼ばれる政党支持の無い有権者層。これら『改革派知事』は無党派層からの支持を受け、選挙でも強みになっていると考えられる上、特定の支持母体に対してフリーハンドで自分の政策を実行できている。浅野知事、橋本知事は初当選の時から無党派の看板を掲げ、草の根選挙を勝ち抜いてきた。鳥取の片山知事も官僚OBとして、ある意味元知事の後継者でありながら、今回の改選では政党の支持を断って無党派として再選された。確かに政党の支援がないと当選後、与党派議員を中心に議会において軋轢を生むケースがある。中には副知事など人事の案件一つ議会が通さないケースもある。しかし、彼らは卓越なリーダーシップを発揮して議会と対峙、ときに議会と「緊張感のあるパートナーシップ」(北川前知事)関係を構築している。彼らには、政党などの既成の団体に縛られる事無く、住民本位の仕事をしていれば選挙でも有権者が信任、不信任を判断してくれるという自信があるようだ。

4.共通項 行政手腕

 多少乱暴だが知事の役割を大きく分けると2種類あると考える。一つは行政を円滑に実施して住民の要望にこたえる行政官としての役割。言い換えれば組織の内側に向けての顔。もう一つは、住民の要望を充分汲み取った上で、政策形成を行う政治家としての役割がある。この2点を軸に彼らの類似点を考えてみる。

 

(1)職員の意識改革・組織改革

前者について、『改革派知事』は行政の組織からより無駄を省き簡素化すること,さらに自治体職員の意識を改革することを主眼に行政改革に乗り出している。その意味で三重県の北川前知事が、就任後次々と発案した県庁改革は特筆すべきものだった。「さわやか運動」と呼ばれた一連の行政改革は職員の意識を硬直的、前例踏襲的な体質から改革するのがその前提だった。その改革一つが組織のフラット化とグループ制の導入である。これまでの課を廃止してグループ制を導入し、同時に課長を無くして代わりにマネージャーを置いた。グループではマネージャーは部下と同じ場所に机を置き、指導監督するというよりもひざを突き合わせ一緒に仕事をする。この目的はセクショナリズムを排除しながら職員個人の裁量を大きくして、よりきめ細かく「県民利益」にかなう行政サービスを提供することである。一部現場で専門性が欠如する、責任の所在が不明確になるなど混乱が生じている面も報じられているが、職員が仕事や組織の意味を考え直すという意味での成果は出ているのではないだろうか。

そして、三重県がサービスとしての行政を徹底するために導入した道具が、事務事業評価制度である。全ての事業について事業の目的を明確にする事で、その達成度を数値化する事を求めた。成果を数値化することの困難さや画一的なシステムの導入に対して、一部県庁内に異論があるようだが職員の意識の改善という点では効果があるのではないかといえる。

一方、高知県の橋本知事が進めている事業評価システムも、三重県の制度と同じ方向性の改革である。何故この事業が必要なのか、代替案は無いのかなど職員が県民にきちんと説明できる能力を付け、県民に役立つ行政サービスを提供する意識を根付かせようという意図だ。また、橋本知事は年功序列の給与体系を見直したり、電子メールで若手職員とやり取りしたりして職員のやる気を引き出そうとしている。

 

(2)情報公開

次に、外側の顔として住民と行政との垣根を低くする意味でこれらの知事に共通する点は徹底した情報公開、政治の透明度のアップである。知事の仕事の中で自らのリーダーシップが取りやすいのが情報公開といわれる。どの文書を開示し,公開するかは知事の考え一つできまるからである。『改革派知事』は共通して情報公開について積極的な姿勢を貫いている。

鳥取県の片山知事が県議会関連文書の公開に踏み切ったのは2000年9月。県議による海外視察に関する文書の公開を巡って、オンブズマンが提訴していた裁判が、2審においても敗訴となったのが直接の原因だ。前知事の時代に知事が主張していた議会の文章は県が管理するものではないという立場を180度変える決断だった。その理由に対して片山知事は記者会見で、「判決は妥当でありまとを得た判決だ」としている。元自治官僚で前知事の後継者として自民党などに担ぎ出されたにも関わらず、片山知事は情報公開についてはリーダーシップを発揮している。例えば、警察の予算関連の文書においても、犯罪捜査に関する情報を除いて公開対象とする方針を決めた。この時、既に他の県で警察文書の公開に関する裁判が確定していたが、自治体の判断で独自に公開に踏み切るのは鳥取県が初めての事だった。

一方、情報公開という点で一歩先んじていたのは宮城県の浅野知事だ。就任直後の県の食糧費情報公開請求で、当時の県庁のいい加減な実態が明らかになったのが契機となり、2000年に情報公開条例を施行。以来、積極的な情報の公開を進めており、オンブズマンが決定する情報公開ランキングにおいて常に上位にランクされている。そして、現在は警察の犯罪捜査報償費の文書を公開するよう求めて県警と対決している。

 ここで共通していえる『改革派知事』の情報公開に対する思いは、より県民への説明責任を果たす政治を目指しているということだ。同時に、県民と行政が情報を共有化して県政のあり方を一緒に考えていくきっかけ作りにしようとしていることだ。それは従来の行政主導型の政策作りとは一線を画すもので、住民主導型のものへ繋がっていくものと言える。

 

5.結論

『改革派』とよばれるには理由がある。これまで見てきたようにこの知事らには改革に繋がる幾つかの共通項があるが、大切なのは改革の進む方向性が住民にとって望ましいものであり、かつ行政と住民が二人三脚で県政に参加出来るものかということだ。その意味で『改革派知事』のリーダーシップが「地域の事は地域で決める」という地方分権時代の鍵を握っている事は間違いないといえる。

 

(参考文献)

浅野史郎、北川正恭、橋本大二郎「知事が日本を変える」文藝春秋、2002

樺島秀吉「知事の仕事」朝日新聞社、2001

読売新聞社編「地方が変わる 日本を変える」ぎょうせい、2003

三重県地方自治研究会編「事務事業評価の検証」自治体研究会、1999

朝日新聞