2007年度 第1クール 第1セメスター 自治制度演習レポート

 

道州制導入はなぜ必要か

 

指導教官:早稲田大学公共経営研究科 片木淳教授

 

 

 

早稲田大学公共経営研究科

公共経営学専攻

学籍番号:

 

氏名:

府川 智行

 

目次

目次... 2

はじめに... 3

1章 日本政治の問題... 3

1節 財政... 3

2       政治... 3

1.2.1      中央への利益集約構造... 3

1.2.2      55年体制」の弊害... 3

2       課題解決ツールとしての地方分権... 4

1節 財政... 4

2       政治... 4

2.2.1 国政の抱える課題の解決... 4

2.2.2 地方自治の本旨... 4

3章 地方分権推進のための道州制導入... 5

1節 財政... 5

3.1.1 分権の受け皿として... 5

3.1.2 都道府県への財限移譲の「不安」... 5

2節 政治... 6

3.2.1 近接性の原理・補完性の原理... 6

3.2.2 市町村合併の進展... 7

まとめ... 7

 


はじめに

 戦後日本は「世界史の奇跡」と呼ばれる目覚しい経済の発展、戦後の焼け野原から驚くべき短期間で欧米先進諸国にキャッチアップする、という成長を遂げてきた。1980年代まで国民の所得や工業生産高は増加し続け、右肩上がりの経済の中にあった。

この経済成長は他国に類を見ない中央集権型政府の舵取りのもとで行われてきたが、1980年代のバブル崩壊以降、政府は様々な施策を試みたものの、景気回復にはほとんど効果はなく、国家財政の赤字が増えていく一方である。また地方では、自治体が中央政府から配分される地方交付税を頼りにハコモノ行政を展開してきた結果、破綻寸前の赤字自治体が増加してしまった。その結果、増税・行政サービスの低下・借金の増加と3重苦に住民が挟まれるという時代となった。そして現在、少子・高齢社会の到来が確実といわれる中で、年金や医療保険制度などについても国民に負担を求める時代となってきた。

 

1章 日本政治の問題

1節 財政

バブル経済の崩壊以後、上述のとおり政府の旧来型の公共事業による「景気刺激策」は国の借金を約800兆円まで増やした。さらに税収においては当初政府が想定していたような赤字を取り戻せるというほどの伸びはなく、GDP1.5倍もある借金の返済は困難を極めている。

第2節           政治

1.2.1        中央への利益集約構造

 中央政府に権限が集中している状況下で、財源と許認可などの権限を持っている霞ヶ関の官庁に太いパイプを持っていることこそが政治家選びの重要なポイントとなるため、利益誘導型選挙が全国各地で展開されることとなった。

1.2.2        55年体制」の弊害

1980年代に起こったリクルート事件を機に、90年代初頭には政府内部においても政治改革の推進が課題となった。

西尾によれば「お金のかからない選挙、政策を争点にした選挙の実現を目指して」[1]改革が必要であり、「国会議員が地元選挙区への利益還元のための仲介斡旋に奔走するような中央・地方の融合構造」[2]などに始まる「55年体制」下で生まれた弊害の除去が課題となっていたことが分かる。

 つまり、90年代初頭までは税金の使い途である政策が選挙の中心の争点になることはなく、また、利益還元のために国会議員が選挙区への利益誘導を行っていたという日本政治の体質が伺える。90年代初頭にはバブル崩壊・財政悪化もあいまって、この課題への対処が早急に必要となった。

 

第2章     課題解決ツールとしての地方分権

1節 財政

日本の国家・地方財政の状態を鑑みるに、無駄な支出を避け、出来るだけ少ない支出で高い効果を上げることが求められており、政府は工夫をしながら最適な資源配分のために切り盛りしていく必要がある。

現在の国から地方への補助金制度では、国が北海道から沖縄にかけて一律の基準を設けて補助金を配っている。細長い国土を抱える日本においては、地域によって自然環境や社会環境、産業構造などが異なり、中央集権型の補助金制度では地域の個々の事情に答えられないため、使用使途を厳密に限定するこの方法には限界があると言える。

一定の基準なしに国が補助金等を配ることは困難であるから、地方の判断に応じて地方の責任のもと自由に使えるようにすべきである。地域の実情に応じた税金の「有効な」使用使途を地方で決めたほうが住民サービスは向上するだろう。そのために財源の移譲という手段が考えられ、財源の移譲に伴って地方が自身の裁量で決定ができるよう権限も移譲されるべきである。

 

第2節           政治

2.2.1 国政の抱える課題の解決

 上述の利益誘導型選挙や中央と地方の融合構造などが起こった原因は複数考えられるが、その中でも特に国政が最も大きな財源を握っており、その財源を元に選挙での票の集約が地方で行われていた、という構造に注目する。

国が最も大きな財源を持っていなければ、「利益誘導」を軸にした選挙は展開されなかったであろうし、選挙の争点は別のものになっていたことが予想される。国政は国民から遠いところで行われ、地方自治体と異なって直接参加できる制度の整備が遅れているため、チェック機能が自治体に比べ相対的に働きにくい。できる限り国民の目の届く範囲で政治が監視され、税金の管理が行われていた方が良いということが言える。この面から考えると地方に多くの税源を移譲し、住民のより近いところに大きな税源がある状態を作れば、国政選挙は政策を争点とした選挙が展開され、地方自治体は住民監視によって利益誘導型選挙を防止できるため、国政の抱える課題の除去と発生防止につながる。

 

2.2.2 地方自治の本旨

地方自治の本旨は「団体自治」と「住民自治」であるとされる。「団体自治」とは国からの地方政治の独立を指すもので、「住民自治」とは、「地方自治が住民の意思に基づいて行われる民主主義的要素」[3]である。

地方自治の本旨に従えば、「団体自治」として、地方自治体が国から独立して政治を行い、「住民自治」によって、地域住民の意思を反映した政治が行われることになる。

「団体自治」の考えは地方分権を志向したものであり、国からの関与ができるだけ少ない地方政府運営が指向される。現在の補助金制度や各種許可・協議などは「団体自治」の理念に反しており、手続きや制度を改めていく必要がある。

そして「住民自治」を実現するためには、できうる限り住民から近いところに裁量(決定権)があることが必要になる。つまり基礎自治体にできうる限りの権限がある状態が望ましい。これは「近接性の原理」や「補完性の原理」に基づくものであり、「住民自治」強化のためには、「近接性の原理」や「補完性の原理」を徹底し、より基礎自治体の権限を大きくしていく必要がある。基礎自治体の権限拡充は「住民自治」の拡充につながる。

 

 

3章 地方分権推進のための道州制導入

 この様な時代の流れの中で、第28次地方制度調査会は、小泉前首相に道州制の導入について答申を行った。これは「道州制の導入は適当である」とする答申で、その後現在に至るまでの政府の道州制論議の軸となっている。ここでは地方分権をするにあたって、これまでにあげてきた問題点の解決に「道州制」は有効であると考え、以下にその理由や必要性を述べていく。

なお、ここでの「道州制」は第28次地方制度調査会が答申したような地方分権を志向する、「広域自治体としての道州」を想定しており、その規模や現行都道府県との関係については、今後検討していくものである。なお、道州は現行の都道府県以上の規模のものを想定している。

 

1節 財政

3.1.1 分権の受け皿として

 国からの権限移譲のためには人的・財政的・面積的に大きな基盤が必要である。なぜなら国の地方支分部局が実施している各種事務は、都道府県をまたがるような広域的な事務が多く、それを一元的に遂行するに足る広さが必要であり、またその面積をカバーできるだけの「経営資源」[4]が必要だからである

また、鉄道や高速道路など大型社会資本の整備・運営等や環境規制などには、ある程度の規模がないとスケールメリットを得られないことから、より効率的な税金の使用のためにも都道府県以上の大きさの自治体が必要である。

 

3.1.2 都道府県への財限移譲の「不安」

 住民の間では、都道府県への各種権限・税財源の移譲により、現在のナショナル・ミニマムとして受けている行政サービスの水準が、自治体の財政次第で現在より低くなるのではないか、という不安を生んでいる。それが如実に現れたのは、小泉内閣による三位一体改革の中で、義務教育費国庫負担金の一般財源化が議論されたときである。

平成1732627日の毎日新聞社による国民世論調査結果によれば「53%の国民は、義務教育のお金は『国が持つべき』と回答」としており、「『地方が持つべき』と答えたのは10%にとどまる」としている[5]。朝日新聞のインターネットモニター調査では、「必要な財源の確保できなくなる」ことを理由として移譲により「悪くなる」としているモニターが多い[6]

これら調査から、都道府県が国から権限移譲を受けるには住民にとっては「不安」な規模であることが推測できる。従って、ある程度の財政規模の広域自治体が必要である、と考えられる。

 一方で、静岡県の政令県構想や愛知県の特別県構想などに見られるように、人口規模、経済・財政規模とも国からの権限の移譲を受けたとしても対応できるとしている県もあり、住民が「安心感」を持って任せられる広域自治体の規模については今後検討が必要である。

 

2節 政治

3.2.1 近接性の原理・補完性の原理

28次地方制度調査会によれば、現状の都道府県以上の規模の広域自治体でも受託可能である事務が多く存在していることがわかる。

また、河川や道路管理、労働雇用関係や地域経済振興などを国より移譲すれば、これら事業に対して住民がチェックを行うことが可能となり[7]、より効率的な運営が期待できる。また、都道府県時代は不可能であった広域的なインフラ整備や、ディーゼル車の排ガス規制などの広域的な環境規制も実施可能になってくるため、都道府県時代より広域にまたがる政治課題に対しても住民の声が届きやすくなる。

また田村によれば「自治体が国の補助事業の申請を行う際には、これら出先機関[8]に説明し、さらに本省[9]にも事業概要を説明するといった二度手間を強いられる」[10]こともあり、非効率な手続きの排除による経費削減が期待できる。

このように各種事務の所管の見直しは、国が実施するより地方が実施する方が最適な状態が作れる。

 

3.2.2 市町村合併の進展

 平成の大合併の進展により市町村の数は約3200から約1800にまで減少した。それぞれの基礎自治体が人的・財政的・面積的に大きな基盤を確立し始めるようになり、一部では都道府県からの権限・税源の移譲が行われ始めている。補完性の原理を徹底し、基礎自治体へ都道府県が「経営資源」を移譲していくようになれば、都道府県の抱える事務が減少し、その役割が小さくなる。

 「補完性の原理」に従えば、できる限り住民に近いところで行政サービスが行われるべきであり、現在の市町村では抱えきれないような広域事務や市町村間の調整などの役割を果たすべき自治体が必要である。都道府県の役割が小さくなることを考えると、都道府県がより面積的・財政的に大きくなり、都道府県の移譲できない事務と国から移譲を受けた事務を併せて遂行する広域自治体が必要である。故に道州を国と基礎自治体の間に置く必要がある。

 

まとめ

 現在の日本の諸状況をふまえると、さらなる地方分権が推進されるべきであり、補完性の原理を徹底させる強力な分権を推進するのに自治体型の道州制を導入することは適当である。その規模や現行都道府県との関係については、自然環境や社会環境をはじめさまざまな要因を総合して検討をする必要がある。



[1] 西尾勝(2001)「行政学 新版」有斐閣,p.367

[2] 同上p.377

[3] 芦部信喜著、高橋和之補訂(2002)「憲法 第3版」岩波書店、p.337

[4] 本論では「人的資源・物的資源(資金を含む)」と定義する

[5] 内閣府Webページ、文部科学省による「地方案」の検討p.8,9より http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kunitotihou/dai11/11siryou1.pdf 2007/05/20確認

[6] 朝日新聞2005123日朝刊be週末b7「(be between)義務教育 国庫負担減で悪くなる」より。引用に当たっては大学契約の電子ジャーナル「聞蔵Uビジュアル」を用いた。

[7] 国の出先機関のため、直接請求手続きの整備されている地方自治体に比べ住民によるチェック機能が働きにくい。

[8] 国の地方支分部局のこと

[9] 霞ヶ関の中央省庁のこと

[10] 田村秀(2004)「道州制・連邦制」ぎょうせい,p.24